#4 高速コーナー #再会の筑波 その四
#再会の筑波 その四
結局、ガンマには追いつくことは出来ず、アタシの筑波初走行は本日終了だ。
「ちえり、根性あるね!初めての筑波とは思えないよ!」
走り終わってパドックで一休みしていると、サキがバシバシと背中をどやしつけてきた。
「次はレースで勝負したいですね。」
ミズキも楽しみな顔をしている。アタシ達はまたねと言って別れた。
アタシがトランポのところに戻ると翔吾と渡辺さんは相変わらずR25の調整中で忙しい。今日の走行を終了なので、アタシは着替えを済ますと夏子達がいるスタンド席に向かった。
夏子と春男くんがアタシの走りを見ていたらしく、すごいねぇって褒めてくれた。
「やっぱりバイクに乗ってる晴海さんはかっこいいですね!」
そんなに褒められても、アタシはまだまだ納得のいく走りは出来ていない。もっと走り込んでレースに出たいな。
「すみません。さっきNSRで走ってましたよね?」
アタシ達がスタンド席でとりとめのない話をしていると、若い男の人が声をかけて来た。誰?
180センチくらいあるだろうか。スラリとしているが肩幅は広い。髪は短めに刈り込んであるが、サラリーマンって感じでは無い。チノパンにペイズリー柄のシャツを着ていた。口元に笑みを浮かべて柔らかい印象を与えているが、目は笑っていない。むしろちょっと怖い目つきだ。はて?どこかで会ったっけ?
「申し遅れました。私こういうものです。」
男の人は名刺をさしだした。
『CATプロジェクト チーフディレクター 虎ノ門 忍』
アタシに名刺を渡した後、ちょっと迷って夏子にも名刺を渡した。夏子はびっくりしたみたいだったけど、男の人を見ると何となく頬を染めていた。あぁ…夏子のストライクゾーン内角高めかもしれないな。思わず手が出ちゃうかも…。
「今、女子チームでレースをしようと思っていて、速くて可愛い女の子にお話しさせてもらってるんですよ。」
あ、怪しいヤツ…?
「…ま、間に合ってます。」
ちょっと引いてしまった。アタシはこの手の話は信用しない。夏子はアタシの方を残念そうに見るけど、ダメだよ!こんなのに引っかかっちゃ!
「…そうですか。さっき私もガンマで走っていたんです。」
なんですって!あの速いガンマはこの人だったのか!
「もしよかったら連絡くださいね?」
と、男の人は割りとすんなりと諦めた様だった。
その時、翔吾がアタシ達を探してスタンドにやって来た。アタシに声をかけてきた男の人と顔を合わせると、驚いた顔をした。
「アニキ?」
「翔吾か、久しぶりだな。」
翔吾は一瞬懐かしそうな顔をしたが、アタシと夏子達の顔を見ると険しい顔になった。
「アニキ…ちえり達にちょっかい出してないだろうな。」
「…知り合いか?」
翔吾はしまったって顔をした。そして、それきり口を閉ざしてしまった。なに?なにがどうなってるの?
「…そう言えば、俺がやったTZRはどうした?今日は違うマシンだったな。」
翔吾は男を睨みつけた。
「わりいなアニキ。お釈迦になっちまったよ。」
男はそうか、残念だな、と言うと、スタンドを下りて行った。翔吾は男の姿がスタンドから消えるまでじっと睨んでいた。
キュルルル…ボゥン!ボルルル…。
大排気量インラインフォーのエンジンが始動された。アタシは立ち上がってスタンドの後ろから下の駐車場を見た。
メカの人がガンマをトランポに積んでいる横で恐らくさっきの男が、S1000RRに跨って帰路につくところだった。メカの人に一言声をかけるとS1000RRはサーキットの出口に向かった。
丁度アタシの方にライダーの背中が向けられた時、アタシは目を見張った。
「なに?あのジャケット。竜?の骨?…。」
隣りに来ていた夏子が呟いた通り、男のジャケットにはドラゴンのドクロが描かれていた。アタシはイヤな運命に魅入られてしまった気がした。
今日の最後は夏子の体験走行だ。夏子と春男くんは、行って来るねと言ってスタンドから出て行った。アタシは翔吾と二人でぼーっとコースを眺めていた。
「…あれだ、前に話した前妻の連れ子ってヤツだ。」
訊いてもいないのに翔吾が口を開いた。
「前妻とオレの母親は当然仲が悪かったんだが、アニキは俺を可愛がってくれてな。」
うーん…。あまり聞きたくないんだけどなぁ…。まぁ、話して楽になるならそれでもいいけど。アタシは適当に相槌を打っていた。
「…で、バイクを教えてくれたのもアニキなんだ。」
そうなんだ。あ、お兄さんの話をしてくれるなら、アタシも聞きたい事がある。
「ねぇ、あのジャケットはなんなの?」
翔吾はビックリした様な顔をした後、考え込む様だった。なんかいけない事を聞いちゃったのかな。
「…アレは親父のなんだ…。」
と、翔吾が言ったところで、夏子が戻って来た。
あれ?早くない?
「もう走ったの?春男くんは?」
夏子は少しイライラした感じでアタシの隣りにストンと腰をおろした。
「…ねぇ?」
夏子はコースに目を向けた。アタシもそちらに目を向けると、アレ?夏子のゼファー?コースには体験走行のバイクが次々と走り始めた。その中に夏子のゼファーがいた。乗ってるのは?誰?
「まったく困った弟だよね。私も乗りたかったのに…。」
「春男くん乗れるの?免許まだだよね?」
「アレ?知らなかったっけ?」
春男くん普通に乗ってる。
「ふーん。乗り慣れてんな。」
翔吾も気になるみたいだ。
「私と背格好は似てるからね。私のリップまで塗って変装したから、係員さんも気が付かなったみたい。」
え?そんなことまでしたの?良い子の皆さんは真似しないで下さい。
CBRライダー
筑波にほど近いコンビニに二台の新旧CBRが並んでいた。二人の女の子が夕陽を浴びながらおにぎりをパクついている。
「スポンサーついた。よかったね。」
「女子チームなんてハーレムしたいだけじゃないの?」
「メカは男バッカだけどね。」
「あのジャケットは気持ち悪いよね。」
「そう?悪役ぽくて凶悪にカッコイイよ。」
おにぎりを食べ終わった女の子はおもむろにポケットからサーキットのステッカーを取り出した。
「また貼るの?」
「…いいじゃん。もらったんだから。」
同じステッカーが何枚も貼ってある横に、適当にぺたりと貼り付けた。
「…シール剥がした方が軽量化にはいいんじゃないの?」
「コレは趣味だから!」
ハイスピード・コーナーに突っ込む時は誰もが最初はビビってしまう。レバーに掛かった躊躇う指先を引き剥がし、ノーブレーキで飛び込んで行った時、今まで見えなかった景色が見えてくるハズだ。




