#4 高速コーナー #再始動 クラッチ
#再始動 クラッチ
卒業式の後はホワイトデーがあったけど、アタシの義理チョコにお返しがあったのは春男くんだけ。夏子が代理でアタシにくれた。それでもアタシが作った出来損ないのピザチョコのお礼にしては、ちゃんとしたクッキーだった。
「コレは手作りなのかな。」
「なんか、頑張ってたよ。毎日味見させられたし。乙女って感じ。」
夏子がウンザリした顔で言う。せっかくもらったし、味見してみよう。ラッピングからひとカケ取り出してポイッと口に放り込んだ。
サクサク…お、美味しい!
なんか、アタシがあげたチョコピザなんて足元にも及ばない。
「春男くん、凄いね。いいパティシエになるよ?」
夏子は、ハハハ…と力無く笑ってぷいとアッチを向いてしまう。ククク…。なんか夏子、最近変な笑い方する。大丈夫かな…。
関山くんは鈴木さんにホワイトデーで本命クッキーを渡したらしい。まぁ、あのふたりはお似合いだよね。春休み中にどこまで行くんだろう。あ、原チャリでね。
待ちに待った、でも来るのが不安な終業式の日だ。とうとう学年末の成績表がやってきた。アタシのバイク人生が掛かった大事なポイントだ。勉強は周りの皆さんのお助けもあってかなり頑張った。どうしてもいい結果が欲しかった。
怖々成績表を開いたが、結果は進級には十分で補講もなし。学科内の順位は真ん中より上という上々の成績だった。英語はギリギリ平均点をクリアした程度だけど、数学は思ってたより上位に入った。技術系の成績はまあまあかな。
成績表を見せたら、母さんはよく頑張ったねって言ってくれた。ようやくバイクのキーも返ってきた。
さらに今日はバイトの給料日。冬休み、三学期はピザ焼き職人として、かなり頑張った。そのおかげでアタシの銀行口座は随分と潤っていて、これでサーキット走行に必要なライセンスとか装備も揃えられるだろう。問題はその先のレース出場なんだけど、…それはこれから考えることにしよう。
翌春休み初日。さあ、封印解除だ!埃の積もったカバーを外す。
ケホケホ…。
ブワッと広がった凄い埃で目や鼻がダラダラ、ウルウルする。あぁ、髪とお肌もなんだか白くなってしまった。ちょっとした玉手箱のようだ。
そんな白いホコリの中から、アタシの愛車NSR250が現れた。
「久しぶり!元気だった?」
アタシは思わずタンクに頬ずりしてしまった。あ、なんかザラザラする。
とりあえず軽く掃除をしてから、キーを差し込む。ちょっとバッテリーが弱っているかもしれない。点灯したランプ類の光が弱々しい。
とにかくエンジンをかけてみよう。キックペダルを出して、始動を試みる。
えい!スコココココ…。
やぁ!スコココココ…。
とう!スコココココ…。
ふぅ…掛からない。
その後、チョークレバーを引いたり、燃料タンクの中を覗いてみたり、念の為燃料コックを回してみたりしたけど、うんともすんとも言わない。と、すれば…。
「押しがけですか…。」
これはちょっと気合いが必要です。アタシは羽織っていたパーカーを脱いだ。まだ春の朝の空気はヒンヤリしていたけど、アタシの体温はかなり上昇していたんだ。
アタシは結構減っていたタイヤのエアを補充した後でNSRをガレージから裏道に動かした。
シャリシャリ…。
お馴染みのブレーキの擦れる音がする。特に長期保管後は音が大きい。やっぱり錆びるからかな。裏道は誰もいなくて、今なら大丈夫そうだ。
「ではいきますか。」
アタシはよいしょとNSRを押し始めた。タイヤがいい感じで転がりだしたところで、アタシはNSRに飛び乗ってクラッチレバーを握り二速に上げた。
ガクン!ザザーッ!
後輪がいきなりロックした!
「なになになに?!」
さらにパニクったアタシは一瞬足を出すのが遅れた!
ガッツン!
「痛った~い!」
たまたま電柱の脇で停車したアタシは、左肩が電柱にぶつかって、そのまま寄りかかっていた。もし、電柱が無かったら、バイクごと転倒していただろう。アタシもNSRも無傷では済まなかったハズだ。
「いやいやいや!無傷じゃないし!」
訂正。アタシの左肩に打ち身のアザがついた。知ったのは夜お風呂に入った時だけど。どうもズキズキすると思ったんだよね。
アタシは慌ててスタンドをかけると、ともかくクラッチを握って、ギアをニュートラルに入れようとしたけど…。
カッ…カッ…。
「…入らない。」
さて、どうしたものだろう…。
ギアは二速に入っている。クラッチレバーを握っても切れない。多分、古いバイクだし、しばらく封印されていたし、クラッチが貼り付いてしまったと思われる。さあ、そんな時にはどうしたらいいんだろ?
アタシもバイクの簡単な整備は出来るけど、そんなに経験値が高いワケじゃない。クラッチが貼り付いた時の解決策は…と、検索したけど…。
1.エンジンをかけてしばらくすると治る可能性がある。…エンジンがかからないから困ってるんです。
2.エンジンがかからない時は押しがけしてみましょう。…それでこうなったんですけど?
3.クラッチを分解して、一枚ずつはがしましょう。…そんなにスキルは高くないんです。
「ああもう!誰か助けて~!」
って、危うく叫びそうになった。
こんな時にお願い出来るのは?
1.夏子。…専門が違う!
2.吉野先輩。…やっぱり専門が違う!
3.御厨先輩。…卒業!
4.………翔吾?…えー。どうしよ。
とりあえず、1、2、4にメッセ…。すると早速返信が…。
『あらら、大変だね。今、天崎先生と論文書いてて、楽しいの。でね!…』
ダメだ。この先を読む気がしない。
あ、既読スルー…。まぁ吉野先輩はそうだよね。きっと…。
ダメだ。この先を考えたくない!
ピロピロピロ…。あ、着信…。
「よう、ちえり!やっちまったな!」
ブチ…。あ、切っちゃった。
ピロピロピロ…。またか…。
「おまえ、自分でメッセしといて。ひでぇな!」
うぅ、だって勢いで切っちゃったんだもん。
「翔吾、アンタにこんなこと言いたくないけど…。お願い。助けて。」
コレも勢いで言っちゃった。
「…」
アレ?沈黙?なんで?
「おーい、もしもーし。」
「…ふふふ…。」
なんか変な笑い声が聞こえ始めた。
「…ハァーッハッハッハ!」
翔吾?おかしくない?
「ちえり!言え!『助けて、翔吾様。貴方だけが頼り!』って…」
ブチッ!
バカなの?




