#3 Sカーブ #告白
ノイジー・エナジー #3 Sカーブ
#告白
ピッ…ピッ…ピッ…。規則正しい電子音が聞こえる。
「…テテテ…。」
寝返りを打とうとしたら、首筋がヒリヒリしたので諦めた。仕方なく、仰向けのまま、ゆっくりとマブタを開けた。
白い天井が目に入る。白いカーテン。天井の蛍光灯は消えてるけど、明るい。遠くから鳥のさえずりが聞こえる。朝だ。
右手を動かそうとすると、ヒモが繋がっているような違和感があった。首筋のヒリヒリがいやで、目だけ動かして見ると、点滴のスタンドと医療用の装置が目に入った。そうか、病院か。
アタシの寝てるベッドに突っ伏して寝てるのが二人いた。あと、イスに座ったまま、うたた寝している杏姉も。
アタシの左手が痺れていた。どうやらベッドに突っ伏して寝てる夏子が潰しているようだ。そっと引き抜こうとしたが、起こしてしまった。
「…ん、あれ?…どこ?」
夏子がゆっくりとアタマを起こし、眠そうに目を擦りながら、アタシを見た。
「おはよう。夏子。」
アタシはニッコリと笑った。
夏子の寝ぼけまなこがゆっくりと焦点を結ぶ。やがてボロボロと涙を流してアタシの手を取って、ぎゅっと強く握りしめた。
「ちえり!死んじゃうかと思った!よかった!」
と、アタシの左手に電撃が走った!
「痛たたた!夏子、手ぇ、痺れてるから!」
ハッと、夏子が力を緩めた。
「ごめんね、痛かったよね。」
「ははは…だいじょぶよぉ…。」
アタシの声に吉野先輩と、杏姉も目が覚めたようだ。二人も泣きそうな顔で、アタシの心配をしてくれた。
杏姉がナースコールで看護師さんを呼び、しばらくしてお医者さんも来てベッドで診察した。アタシは爆発に巻き込まれて、首筋に火傷を負い、床に叩きつけられ、脳しんとうを起こして気絶したらしい。
なんか前もこんなことがあった気がする。母さんも夜に来たけど、お店の準備で家に戻ったらしい。心配かけちゃったな。ちょっと反省した。杏姉もアタシの無事を確認したら、お店に帰った。また夜か、退院の時に来てくれるらしい。忙しいのにごめんね。
吉野先輩と夏子は学校と、家に連絡して少し遅刻して行くらしい。アタシがあの後の話を聞くと、二人は話したくてウズウズしていたのだろう、喜んで話をしてくれた。
アタシが倒れた後、翔吾はアタシをお姫様抱っこして、外に連れ出したらしい。そこへ丁度いいタイミングで到着した警察が翔吾を取り押さえたそうだ。倉庫に警察が到着したことを知った、吉野先輩と夏子が公園から倉庫に駆けつけた時には、翔吾は地べたに押さえつけられていたらしい。可哀想に。
その後で救急車がアタシを病院に搬送したそうだ。金髪と手下は火傷をしたものの、すぐに意識を回復したらしく、警察に連行された。吉野先輩と夏子、それに翔吾は警察官にお説教されて、二度とこんなことをしないようにと、厳しく注意されたということだ。
話が一段落した後、誰かが廊下から駆け込んで来た。御厨先輩だ。よほど急いで来たのだろう。息を弾ませ、額にはうっすらと汗が光っている。
「…晴海さん、…大丈夫?」
息を継ぎながらアタシに声を掛けてくれた。
「ハイ、大丈夫です。ご心配おかけしました。」
御厨先輩は、そうか、よかった、と言うと、吉野先輩に詰め寄った。殴るんじゃないかという勢いだった。
「…吉野、お前が付いていながら、コレはどういう事なんだ!」
吉野先輩はビクリと身体を震わせると、凍り付いた。アタシと夏子はハラハラしながら見ていた。
「…ミク…リン…。」
御厨先輩が更に詰め寄った。吉野先輩は顔を伏せて眼を合わせることも出来ない。
「晴海さんや、辰巳くんは、もしかしたら殺されていたかもしれないんだぞ!」
固まったまま、吉野先輩は少し肩を震わせていた。御厨先輩がこんなに怒ってるところなんて見た事がない。
「俺が石田から連絡を受けた時の気持ちが分かるか?」
そうか、男子部の石田部長の従姉が交通機動隊にいるから、そっちから連絡があったんだ。
「病院にウチの高校の女子が運び込まれたって…しかも、バイク関係だって聞いた時、吉野じゃなければいいって思ったんだ!」
吉野先輩が、ハッと顔を上げた。その目は潤んでこぼれそうだった。
「さっきここに来て、晴海が入院したって聞いた時、俺はほっとしたんだ。晴海さん、ごめんね。ひどい先輩だよね。」
ホントだよ。アタシは動けなかった。そんなこと聞きたくなかったのに、そんな御厨先輩を見たくなかったのに、耳をふさぐことも、目をつぶることもできなかった。動いたら涙がこぼれそうで…。
「…吉野。俺はオマエが…!」
「待って!」
吉野先輩が御厨先輩のコトバを遮った。そして、絞り出すように口に出した。
「…待ってよ。ズルいよ…。さっきから、一方的にキモチを押し付けて…。」
アタシは吉野先輩が、また自分のキモチを押さえつけるつもりかと思った。そんなアタシの視線を感じたのか、吉野先輩はアタシと目を合わせると、ニッコリと笑った。
「…ふふっ。大丈夫だよ、晴海。私は約束したもんね。」
吉野先輩はこぼれそうな滴を指先でスッと拭うと、御厨先輩の目をしっかりと捉えた。
「…あの春休みは、私はまだ自分のキモチについていけなかった。私は私のユメがあるから。」
そして、優しい眼差しでもう一度見つめ直した。
「でもね、ユメはユメ、キモチはキモチなんだって、思うようになったの。」
吉野先輩は、黙って聞いている御厨先輩の手を取った。御厨先輩の手にはホットミルクティーが握られていた。その手を両手で愛おしげに包むように握る。そして、意を決して言った。
「…悟。」
吉野先輩が御厨先輩を名前で呼んだ。その声に、眼差しにコトバでは表せないキモチが宿るようだった。
「私がユメへ旅立つまで、貴方の時間を私に下さい。」
アタシはちょっとイラッとした。そんな中途半端なキモチで、アタシの思いを絶たれてたまるもんか!
「吉野先輩!それは…!」
「黙れ!晴海!」
決意の眼差しにアタシはコトバを継げなかった。
「コレが私の精一杯。その代わり…。」
吉野先輩は手を離して一歩引くと、自分の胸に手を当てた。
「…悟に、私のすべてをあげる!全部、ぜ~んぶ!」
最後はバンザイして目をつぶった。何となくというか、明らかに赤面している。横で聞いてるこっちが恥ずかしいよ。ベッドサイドで夏子がクスクスと笑い出した。
「敵わないな、美香には…。」
御厨先輩も苦笑いしている。その目は優しくて、安心したように細められている。そして、ミルクティーを吉野先輩に差し出した。
「…延長料は高いぞ。」
吉野先輩はそれを大事そうに受け取ると、ウンってうつむいた。そして、ペットボトルのフタを開け、紅茶を一口飲んだ。
「美味しい。ありがとう…。」
大団円ってか?ダメだ!
このままだとアタシの想いは死んじゃう!…今しか…今しかないんだ。言わなきゃ…。決着をつけるんだ!
「あの!」
みんながびっくりしたようにアタシを見た。
「…あの!アタシ…アタシ、御厨先輩のことが好きでした!」
言ったアタシが、びっくりした!過去形だ!もう、終わりなんだ。口にした途端に分かった。でも、アタシの想いはアタシの中から溢れ出る。
「…最初に助けてくれた時、嬉しかった。神奈北工で再会した時、夢かと思いました!女子会に入って、一緒に勉強したり、バイク乗ったり、ビーチで遊んだり…本当に、楽しかった。」
みんな黙って聞いてる。アタシは涙と、想いの流れるまま、コトバを続けた。
「でも、御厨先輩と吉野先輩が、両想いなのに付き合わないなんて、馬鹿じゃないかと思いました!」
先輩達がお互いを見つめて、気まづそうに苦笑いしている。
「アタシだったら…アタシだったら、そんなことしない。先輩が想ってくれるなら、全力で応えるのにって!」
そして今日、吉野先輩は御厨先輩に全力で応えたんだ。期限付きだけど。
「…だから、アタシの想いを、今しかないって思って、言っちゃいました。」
御厨先輩がベッドサイドに来た。そして、覗き込むようにアタシを見る。
「ありがとう。気持ち嬉しいよ。言ってくれて、俺も清々しい気分になった。でも、俺は応えてあげられないんだ。ごめんな。」
もう!優し過ぎるよ先輩。ダメですよ。もっとこっぴどくフッてくれないと!アタシが悪者みたいじゃないですか。
ふふん、どうだという吉野先輩の態度が感じ悪い。よし!
「先輩、耳貸して下さい。」
御厨先輩がなに?って感じで耳を寄せてきた。
「なんだ?」
ちゅっ。
「な?」
御厨先輩はパッと立ち上がり、アタシがキスした頬を押さえた。
「なにをした!晴海ィ!」
吉野先輩が怒り出した。フンだ!ザマを見ろ。
そこへ、ドタバタと足音が聞こえたかと思うと、翔吾が駆け込んで来た。
「ちえり!気が付いた?」
しかし、辺りを見廻して、何となく雰囲気を悟ったようだ。
「なに?…修羅場ってヤツ?」
その後、御厨先輩と吉野先輩はアタシのキスが巻き起こした波乱と共に去って行った。夏子は今日は休むからと言って残ってる。翔吾は先輩達をそこまで送って来るって出ていった。
「…夏子ぉ、しんどいよう。」
アタシは枕を濡らしていた。夏子がアタシのアタマをよしよしと撫でた。
「髪、短くなっちゃったね。せっかく伸ばしてたのに。」
そうなのだ。爆裂弾の誘発した粉塵爆発はアタシの自慢の長い髪をちりちりに焼き焦がしてしまった。首筋の火傷も爆発の炎で焼かれたものだ。火傷の治療もあって、アタシの髪はショートボブになっている。看護師さんがやってくれたらしい。長さが不揃いで、斜めってたりするが、これはこれでいいかもしれない。
「でもね、女の子は失恋したら、髪を切るものよ。」




