#3 Sカーブ #イブ
ノイジー・エナジー #3 Sカーブ
#イブ
あの事件の後、すぐに期末テストがあった。アタシは夏子と翔吾に教えてもらって何とか赤点は免れた。
ちょっと行くのが気が重かったバイトも、行って見れば吉野先輩は普通に接してくれたし、いつも通り冗談も言えた。まぁ、先輩がちょっと性格丸くなったような気がするのは、彼氏持ちの余裕ってヤツですか?ちょっとムカつく。
御厨先輩も整備関係の専門学校に決まったらしい。晴れて受験勉強から解放されてうらやましい限りですなあ。冬休みは二人で仲良く過ごして下さいませ。どうぞご勝手に。
そんなリア充の二人は仲間ハズレにして、アタシ達二輪女子会の面々はクリスマスイブにパーティーを企画した。翔吾にも確認したら、やはり一人寂しく一軒家で過ごす予定だったらしい。ふたつ返事で承知した。
パーティー会場はアタシの家。アタシの快気祝いも兼ねて開催する。その日は店を早じまいして、お店を貸切パーティー会場にしてくれた。母さん、杏姉、ありがとうございます。
参加メンバーはアタシと夏子、翔吾、鈴木さん、関山くんだ。先輩二人には一応お知らせだけはしておいたが、出席確認はしなかった。お邪魔はしない。あ、サクラはケージに入れての参加が特別に認められました!食べ物屋だから、お店は動物連れ込み厳禁なんだけど、サクラは事件一番の被害者だからね。
「クリスマスパーティーかぁ。久しぶりだなあ、そういうの…。」
杏姉がちょっとウキウキしている。いつも、母さんと一緒にお店を切り盛りしているから、まだ若いのになんだか所帯じみてきた気がする。
「ねぇ、イケメンの先生とか、先輩とか来ないの?」
う~む、またその話か。
「今回は同級生だけだよ。一応男子も二人来るけど、どうかなあ?イマイチかなあ?」
今頃、翔吾と関山くんはくしゃみを連発しているだろう。
「そっかー…。でも、男子が来るなら、ちょっとおめかししちゃおっかなぁ。ねぇ、お兄ちゃんとかいないの?」
姉さん…。そんなにがっつかなくても…。もしかして、肉食系?
「それじゃぁ、皆さん。ただ今より神奈北工二輪女子会クリスマスパーティ&晴海さんとサクラと辰巳くんの快気祝いを始めます!皆さん、クラッカーを持って下さい。それでは!メリークリスマス!」
パン、パン、パン!
夏子の掛け声で一斉にクラッカーが鳴る。クリスマスパーティの幕開けだ。サクラがケージの中で、バタバタ暴れるのを翔吾がなだめている。クラッカーの音でびっくりしたようだ。
今日の会場はアタシん家、はるみ屋。ラーメンがメインの中華料理屋だから、洒落た雰囲気はまったくない。今日のためにみんなが用意してくれた、小さなツリーがあるくらいだ。
その代わり、女子はみんな真っ赤なサンタの帽子をかぶっている。男子は翔吾がトナカイの可愛い角が生えた帽子で、関山くんがスノーマンの形の帽子をかぶっている。あと飛び入り参加の夏子の弟、春男くんは女子と同じくサンタ帽だ。
クリスマスの色と言えば赤と緑だけど今日の料理もそれに倣って作ったみたい。とは言ってもソコは中華料理屋だから、赤はエビチリ、マーボー、赤ピーマン。緑はチンゲン菜、青椒肉絲、ブロッコリー。と言った調子なのだ。あと、雪の白をイメージさせるのはデザートの杏仁豆腐で、ローストチキンの代わりは棒棒鶏だ。
「今日はちえりの快気祝いもしてくれて、ありがとうございます。たくさん作ったから、お腹いっぱい食べていってね!」
母さんもサンタの帽子をかぶって嬉しそうだ。
「みんな可愛いじゃない。夏子ちゃんの弟くんも将来が楽しみだわ。」
杏姉はよせばいいのに、チャイナドレスを着てる。寒くないのかな?
「そうだ!俺、免許取りましたよ。ホラ!」
関山くんが真新しい原付免許証を見せてくれた。これで、みんな免許ホルダーだ!初日の出に行けるかな。
「じゃあ、関山くんの免許取得を祝してカンパイ!」
みんなジンジャーエールで乾杯した。アルコールが入っていないのに、酔っ払いのように絡んで来るのは翔吾だ。
「おい、ちえり!オマエは頑張り方が間違ってる。オマエに必要なのはチームだ!ひとりで頑張れると思うなよ?ヒック!」
いい話なんだけど、酔っ払いに言われてもありがたみがない。
「ねぇねぇ、関山くんはバイクどうするの?」
鈴木さん、原付仲間が出来て嬉しそうだ。あの二人はクラスのお世話で一緒にいることが多いし、結構お似合いだと思うんだよね。
「いいなあ、みんな免許持ってて。僕は早生まれだから当分先なんですよね。」
飛び入り参加の春男くんは三月生まれだったっけ?
「大丈夫だよ。春になったら、アタシの後ろに乗せられるからさ。一緒にツーリング行こう!」
春男くんは嬉しそうに笑ったが、何を思ったのか、急に真っ赤になっちゃった。
「いや、晴海さんの後ろに乗るということは、つかまらなきゃいけないんで、それはちょっと…申し訳ないんで…いやその。…大丈夫です。夏になれば姉貴の後ろに乗せてもらうので…。」
ん?なんかモゴモゴ言ってる。そうだね、って言ったら、凄い残念な顔になってしまった。へんなの?夏子がチッて舌打ちした。たまにこの姉弟のことが分からない…。
「こんばんは。」
アレ?今日は看板しまったのに。
「あ、すみません。今日は貸し切りなんです。」
母さんがお客さんに謝っている。アレアレ?
「天崎先生!」
夏子が席を立った。
「アレ?佐藤さん?本当にパーティしているんですね。」
先生の後ろから声がした。
「だから言ってるじゃないですか。ココに来たんだって!」
この声は?
「お邪魔します。お、みんなやってるね。」
「晴海さん家って、ココだったんだ。よう、みんな。久しぶり!」
吉野先輩!御厨先輩!
「今日は見回り当番で、生徒がへんなことをしていないか、怪しいところを回っていたんだ。そうしたら、この二人がホテル街をうろついているじゃないか。」
え、この二人!もうそんなところまで…。あ、まだ胸がズキズキする。
「違…違います!だから、ココに来るのに迷ってるって言ったじゃないですか?」
吉野先輩、怪しい…。
「その証拠にコレ!」
あ、ケーキだ!吉野先輩がケーキの箱を差し出した。
「二人で食べるつもりだったんじゃないのか?」
「いや、先生!信じてくださいよ。晴海は信じてくれるよね?」
フン!どうだか?でも、吉野先輩の目は、信じてるって言いなさいよ、と言っている。
「アラアラ!わざわざありがとうございます。ちえりの姉の杏です。先生、いつもちえりがお世話になっております。」
姉さん?チャイナドレスを纏った杏姉が、フェロモン全開モードで乱入してきた。
御厨先輩はドギマギし始めた。吉野先輩が、ちょっと、って御厨先輩を突っついた。
天崎先生は照れ隠しか、口元を左手で隠すと、ゴホンと咳をした。
「初めまして。自動二輪研究会の顧問をしております、天崎と申します。」
先生は今回の事件での監督不行届きを詫び、頭を下げた。
「いいんですよ。妹も昔から後先考えないでやらかしてしまうので…。」
勝手に言ってて下さい。母さんも挨拶した。
「じゃあ、大人は大人で飲みましょうか。ビールでいいですか?杏、お酌して差し上げて?」
「いいですね。」
先生はカウンターに案内され、大人達は三人で一杯やりはじめた。
「ホントにココに来たんですか?」
アタシは先輩達に詰め寄った。
「だから、さっきから言ってんじゃん!」
吉野先輩は言っているが、何となく襟元から覗く勝負下着が、アタシの疑念を掻き立てる。
「…お帰りも真っ直ぐお家に戻られるんですよね?」
ピクリと吉野先輩の口元が動く。
「…あったり前でしょ。」
「…先輩?そろそろ門限じゃないですか?」
「…今日は…ココに来るって言ってきたから…。」
この二人…。ぜったい今夜は店から出さないから!
夏子がなんだか不安そうな顔をして、カウンターを見つめてる。
「ねぇ、ちえり。お姉さんて、今お付き合いしてる方っているの?」
いや、いたらあんなにがっついてないでしょ。とは、言えない。
カウンターを見てみると、杏姉は天崎先生の隣に座って楽しそうに話している。二人はなんだかすごくお似合いに見えた。
「…大丈夫かな。天崎先生、ちえりのお姉さんを好きにならないよね?」
サーキットのS字カーブでの切り返しは思い切りが必要だ。人の恋路も想いきれるかどうかは重要だが、成就しないことも多いものだ。それが縁と言うものだが、想いを相手に伝えない限り叶うことはない。アタシは玉砕したが、もう後悔はしない。
#CBRライダー
二台のCBRが海辺の駐車場に並んでいる。辺りにはバイクや、クルマが何台も停まっている。
空はしらじらと少しづつ明るくなってきて夜明けが近い。冷たい風のせいか、クルマの中から明るくなり始めた水平線を見つめている人も多い。
二人のライダーが海岸に出て、他の人達と同じように水平線を見つめていた。
「寒いな。」
「もうすぐだよ。」
「初日の出を拝んだら帰ろ。凍死する。」
「初詣で交通安全シールを買うの。」
「いっぱい貼ってあるよ。」
「今年は今年。去年盗まれたから、お祓いもする。」
「ご利益無いな。」
「あるよ。ちゃんと返ってきたし、オマケがついてきた。」
「どんなオマケ?」
「スマホ。」
#Sカーブ 完
#Sカーブ 完です。
シーズン1 完です。
次はちょっと間隔が空く予定です。
ご購読頂いている皆様、しばらくお待ちくださいませ。
よろしくお願いします




