#3 Sカーブ #決戦
ノイジー・エナジー #3 Sカーブ
#決戦
「そこにいるのは誰だ?」
倉庫の奥のドアから金髪と手下が出てきた。しかも、一瞬で見つかった!ヤバい!
『もしもし!警察ですか?男が襲ってきて、私殺される!…』
吉野先輩が警察に連絡したらしい。殺されるのか?危ないのはアタシ達だよね!
「翔吾!隠れて二手に別れよう。逃げ回って、時間を稼ぐよ。」
翔吾は、分かったと言ってアタシとは反対側に回っていった。アタシも翔吾も棚からアタマを出さないようにして、身を隠した。とりあえず、警察が来るまでの時間稼ぎをしないと…。
あっちを曲がり、こっちを回ってどこにいるのか自分でも分からない。次の角を曲がるとドスンと誰かにぶつかった。当たりどころが悪かった。相手はアタシのヘルメットに鼻をぶつけたらしい。顔を押さえている。
「痛えな!コノヤロー!」
金髪の手下だ!ヤバい、逃げ回って時間稼ぎをするはずだったのに、大誤算だ。
相手は辺りを見回すと丁度いい木の棒を見つけた。なんつーところにそんなモノがあんのよ!恐らく、栽培用棚の材料が余ってたんだろう。アタシからしたら、とんだ災難だ。
「へへへ…。そんなモノ着てたって、役に立ちゃしねえよ。待ってな、ボコボコにしてやるからな。そらよ!」
ブンッ!
唸りを上げて棒が振り下ろされる。アタシはすんでのところで避けたが、マトモに喰らったら骨折する。
懐に飛び込んでも捕まったら終わりだ。相手はケンカ慣れした大人の男なのだ。あっという間に組み伏せられてしまうだろう。
「オマエ、女か!」
アタシの長い髪がヘルメットから出ているのを見たのだろう。男はぺろりと唇を湿した。
どうする?
倉庫の中は栽培用の棚が並んでいるが、壁には土などの袋が棚の中に収まっている。何か使えるモノがあるか?アタシは棚の間を走り、壁に突き当たった。
何かないかと見回したが、残念ながら武器として使えるようなものは無かった。
「探しモノは見つかったかい?お嬢ちゃん?」
振り返ると男が、逃げ道を塞ぐように立っていた。
仕方ない、アレを使うか。アタシはポーチから取り出したモノを男に投げつけた。
「おっとっと…な?」
バァーンッ!
アタシが投げた爆裂弾を男は手にした棒で払った。爆裂弾は大きな音を立てて爆発する。更に一瞬の閃光が男の目を眩ませた。
今だ!アタシは投げると同時に走り出していた。爆裂弾を受けた棒は折れていた。棒で払わなかったら、大怪我させていたかもしれない。
男が棒を振り出した時、アタシは爆裂弾の閃光に備えて視線を床に落としていた。折れた棒切れが飛んで来る可能性も考え、身体を低く保ちつつダッシュすると、棒切れはアタマの上を越えていった。
男は棒を振り出した勢いで体が前のめりになっている。アタシはその背中に回った。男は閃光に目をつぶっていた。光を遮ろうと顔まで上げた手首を掴むと、肩に手を添えて肘をキメながら、回すように床に引き落とす。
ドターン!
男は壁の棚にアタマから突っ込んだ。アタシはそのまま、腕をキメにいったが、強い力で振りほどかれてしまった。捕まったら最後だ!すぐに諦めてサッと後ろに下がる。
「調子に乗るなよ、あまっ子が!」
アタシは男が起き上がる前に二つ目の爆裂弾を使った。
エイヤッと投げた爆裂弾は男には当たらず、壁の棚に当たった。棚板が割れたが、それだけだった。
男はニヤリと笑ったが、上を見てアタマを抱えた。そこへ、ドスン!ドスン!と、棚に積まれていた、土や肥料の大きな袋が落ちてきた。割れた板が支えていた重量に耐えきれず、棚ごと倒れてきたのだ。グゲッとか何とか声が聞こえた。辺りはモウモウとした土だか肥料だかホコリだかで、煙幕を張ったようだ。アタシは翔吾が気になっていた。
翔吾は苦戦していた。やはりケンカ慣れした大人には敵わない。金髪はアタシが喰らったら吹っ飛んでしまいそうな、重そうな蹴りを翔吾に見舞っていた。レーシングスーツではあんな衝撃を吸収することは出来ない。ヘルメットに当たったら、翔吾の首の方が折れてしまいそうだ。
アタシは翔吾の方に駆け出した。翔吾は何発もやられて、何度も耐えていたが、まともに腹に喰らった一撃に、とうとう力尽きて倒れた。金髪はポケットに手を突っ込むと、ウワサのスタンガンを取り出した。倒れた翔吾を痛めつけるつもり?アタシは叫んでいた。
「止めろ!アンタの相手はアタシだ!」
「お前、オンナか?」
みんな同じセリフを言う。もう聞き飽きた。
「だったら、何か?」
金髪はゆっくりとアタシの方に歩いて来る。遠くからサイレンの音が聞こえる。警察だ!助かった。
「気に食わねえ!」
バチバチッと、スタンガンが火花を散らした。こいつはサイレンの音が聞こえないの?
「警察なんか関係ねえ!オマエにコイツを食らわさねえと、俺の気が済まねえんだよ!」
ヤバい、本当に殺される!アタシはゆっくりと後ろに下がった。金髪は少し歩みを早めた。怖い!本当に怖い!アタシは後ろを向いて走り出した。
「待てや!コラ!オレの相手するんじゃなかったのか!」
ムリムリムリムリムリムリムリッ!アタシは逃げた。行手にモウモウと舞うホコリが見えた。
よし、最後の手段だ。アタシは壁の棚を目掛けて片っ端から爆裂弾を投げた。
バァーン!
バッタン!
ドッスン!
棚から落ちる袋やホコリで辺りは煙幕を張ったように真っ白になる。金髪の姿が見えなくなった。
「どこに行きやがった!出てこい!」
声は思ったより近い。アタシは静かに壁に寄って床にしゃがみ込んだ。
『ちえり大丈夫?』
夏子だ。こんな時に…。アタシは小声で囁いた。
「煙幕張って隠れてるから、このまま警察を待ってる。後にして…。」
金髪の気配が分からない。あっちもこっちも見えないから、声を出すのもびくびくものだ。
『煙幕ってなに?』
ちょっと、夏子いい加減にして!でも心配そうな声音が気になる。
「え、肥料とか?の粉?」
『!』
なに?インカムの向こうの夏子が息を呑んだ。
『…ちえり、いいこと?すぐに煙幕から出て。でないと…』
『…ちょっと?佐藤さん、なんでメガネ掛けるの?』
吉野先輩の声はアタシを戦慄させた。アタシは立ち上がっていた。
「見ぃ~つけた!」
後ろから金髪の声がした。慌てて走り出そうとするアタシの髪が引っ張られた。
「逃がさないぜ。お嬢ちゃん!」
バチバチッ!
スタンガンの放電する音が背後で響く。火花の青い電光が煙幕を光らせる。
「オンナがオトコの世界にしゃしゃり出ると、どういう事になるか教えてやるぜ!」
アタシは髪が引っ張られて、後ろを振り返ることすら出来ない。でも…。このまま終わるもんか!
バチバチバチ!
放電の音がゆっくりと首筋に近付いて来る!アタシは最後の爆裂弾を肩越しに投げた。
一瞬の閃光がアタシの周りに広がったと思ったら、まるで突然の停電のようにアタシは暗闇に落ちた。
爆裂弾は突き出すスタンガンの火花に接触し、一瞬の閃光を発した。閃光による熱は、浮遊する可燃物の粒子の密度と、通常より濃度の高い酸素により、急速な燃焼反応を引き起こす。いわゆる粉塵爆発である。
爆発によってちえりのカラダは床に、金髪は壁に叩きつけられた。
「ちえり!」
叫んだのは翔吾か、夏子か。
倉庫の中は焦げ臭い匂いが立ち込めていた。




