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第九十九話 ピンチ

「よくこんなとこ見つけたわね」


「まあ、ね」


 都心から電車一本でアクセスできる登山で有名な山。その登りやすい登山コースから外れに外れ、道なき道を進み続けた場所に僕らは来ていた。


 カフェで脅迫と冤・・・罪をかけられてしまい、仕方なく喫茶店を出て、こうして門まで案内したと言うわけだ。


 日を改めた方がいいと説得を試みるも写真をばら撒くと脅され屈さざるをえなかった。


 ただここまで来てわかったのは、霜月さんに何やら焦りを若干感じるという事だ。流石にこの年代の年頃な女性がこんな私服でこんな森の中を行くのに文句一つ溢さないのは並々ならない理由があるに違い無い。


 道中、意を決して何とか思い切って恐る恐るどうしてここまで必死なのかを聞いてみたが、無言を貫かれてしまい、門に着くまで沈黙の空気が流れた。


「ありがとう綾瀬くん。じゃあこれであの件は無かったという事で」


「あ、ありがとう、ございま、す?」


 そう言って霜月さんはスタスタと門の中へ入り始めたので僕は慌てて止めに行った。


「ちょ、っと待って!霜月さん! い、今から入るの!?」


 当たり前だろと言わんばかりの困惑した表情を僕に向ける。


「ええ、そうですが、何か?」


 さも当然と言う様子で返答され一瞬困惑するも直ぐに言葉を返す。


「いや、あの、見た感じほぼほぼ手ぶらだし、武器とかないと、不味いんじゃ・・・」


「心配しなくて結構。では」


「あ!ち、ちょっと!」


 向こう側はまだ十分に探索できていない。と言うのもこの門はまだ見つけたばかりで本格的な探索は来週から行うと先生に言われ僕ら2人はそれまで訓練と課題に集中する事になっていた。


 軽く見た感じ向こうもここと似たような深い森で、装備なしというかこんな私服で行くような場所では決して無い。


 僕も最初は大概だったが、彼女はそれ以上だ。


 普段の学校での立ち振る舞いからは想像も出来ないくらい杜撰な行動だ。


 なんとか認めようにも彼女は門の白い空間に消えていってしまった。


 どうするどうする・・・おおもう! 仕方ない。



 ・・・



「ちょ、ちょっと霜月さん。やっぱり不味いって! き、今日はもうこの辺で・・・」


 再び聞こえる背後からの僕の声に呆れるように振り返る。


「はぁ、綾瀬くん流石にしつこいですよ。ここでどうなろうと私の自己責任。もう良いでしょう」


「イヤイヤイヤ、良くないって! 誰でも心配するって!」


「大丈夫ですので! ほっといて下さい!」


 互いに語気が強まり、若者同士だからか互いに引くに引けなくなって行く。


 互いに睨み合っていると、このままじゃ埒が明かないと思ったのか、霜月さんはバッ!と振り返り森の奥に走って行ってしまう。


 マズイ!


 僕も急いで後を追う。


 やはり冷静では無い。先生に認められなかっただけでここまでの行動に出るだろうか? 何かただならぬ理由でも有りそうな予感に僕は……






 めんどくせぇな。



 ・・・



 レベルの差があるからか案外直ぐに霜月さんに追いつくことができた。


 申し訳ないが後ろからタックルするように掴み掛かりそのまま地面に倒れ込む。


「ちょっと!良い加減にしてよ! あなたには関係ないでしょ!!」


 振り返り怒鳴りつけるも僕が不安げに木を見上げる様子に霜月さんは戸惑う。


 目の前の太い木から伸びるこれまた丈夫そうな枝。この枝は妙な事に等間隔で皮が捲れて禿げ上がっており、長さ的に何かが掴んだ跡のように見える。


 ヤバい。


 チラッと霜月さんを見ると、息が上がっている。


 マナで強化された人間が少し走っただけでこれほど息が上がるだろうか? 否。何キロも走った訳ではない、割と早く追いついたから100メートルも走っては無いだろう。


 それなのにここまで疲れが出る理由は1つ。


 いつの間にかマナの境界を抜け、レベル2の地域に足を踏み入れてしまったらしい。


 まさか門を出てすぐそこがレベル2だとは思ってもいなかった。まあ、だからその為に慎重に行動して調査する必要があるのだが。


 さらに不味いのが、頭上の枝の跡だ。レベル2のエリアには様々な危険な魔獣が存在する。人間と違いスキルを本能で感じ取る魔獣はレベル2になると扱うスキルが1つ増え凶悪さが増す。


 その中でレベル2で最も被害を出してるのが『凶手』と呼ばれる猿だ。


『剛腕』と似たようなスキルを駆使してくる猿なのだが、群れで行動し縄張り意識がとても強く、一度縄張りに入ると大勢で襲ってくるという厄介な奴らだ。


 この枝の等間隔に禿げ上がった跡は正にそいつらがここで縄張りの監視をしていた証拠だ。


 そしてこいつらが何故レベル2で厄介になるかと言うと・・・


 カサッ カサッ


 横から落ちた葉や枝を踏む音が聞こえる。当然僕たちでは無い。恐る恐る音の方を見ると。


 可愛げのない獰猛な2つの瞳でこちらをジッと見据える猿が一匹じっくりと近づいてくる。


 霜月さんも知識で知っているからか静かに黙って猿から目を離さない。


 黙って、何も考えないように、心を落ち着かせ・・・


 ふと、猿の違和感に気づく。こちらを見ているようで僕の事を見ていない。どちらかと言うと下の霜月さんを見ているような。


 チラッと霜月さんを見ると青ざめた表情をしている。


 瞬間、周りの上の方からガサガサ!っと複数の獣が移動するような音が聞こえる。


 それも門の方向に移動していく。




 やられた・・・


 僕は何とか考えないようにしてたが、霜月さんは考えてしまったらしい。


 逃げること、そして逃げる場所を。


 これがコイツらの厄介極まりないレベル2で使ってくるスキル『思考盗聴』だ。

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