第九十八話 脅迫
都内のとある喫茶店。
初めて且つそもそも行き慣れない喫茶店なのも相まって緊張でガチガチになりながらも、なんとか飲み物を注文して席で待っていると喫茶店の扉が開き慣れた様子でこちらにくる1人の女性。
私服はそこまで飾り気の無いパンツスタイルで遠目から見てもそこまで目を引くことは無いが、いざ近くに来るとその抜群のルックスに目が行ってしまいそうな女性が僕と同じテーブルに着く。
「お待たせ」
一言最低限の挨拶をしてきたのは、この前僕にハニートラップを仕掛けてきた霜月さんだ。
あの写真を取られた翌日、僕は早速脅迫され、貴重な休みの日にこうしてわざわざ行き慣れない喫茶店に足を運ぶ羽目になっている。
「あ、えと、全然、待って無いです、はい」
「そう」
姉崎さんは自分主導で話してくれるから何か用事があってもすぐに話が終わるから、こっちとしては凄く有難いのだが、僕も霜月さんも普段はそういうタイプじゃ無いから、今まさにこの場には沈黙という重い空気しか漂わない。
僕は脅されてここに来てるんだ、用があるならさっさと話してくれ、頼むから。もう息が詰まりそうだ。
苦いコーヒーを飲んで誤魔化す。取り敢えず何か頼まなくちゃと思い、適当に頼んでしまったのがこれだ。普通にジュースとかを頼んでればよかった。
「すいません、クリームソーダ1つお願いします」
そう言って霜月さんは甘い炭酸の飲み物を頼み始める。僕もそういうのにしとけばよかったと若干後悔。
お互い飲み物を飲むだけの沈黙の時間が再び流れる。
結構飲んでいるのに未だコーヒーの苦さに慣れないでいると、正面に座る彼女がようやく口を動かした。
「苦いの飲めるんだ」
「え!? あ、いや、これは・・・ま、まあね」
僕は何を強がっているんだ。
「へー、凄いね。私は全然飲めない」
「な、慣れだよ、慣れ」
よく考えろ僕。こんなことしてる場合じゃ無いだろ!なんでちょっと褒められて嬉しくしてるんだ僕!!
ここは僕から切り出すしかない。
「えっとー、それで、僕に何の、用事でしょうか?」
僕は恐る恐る尋ねる。
「……」
なんで黙るんだよ!
「あ、あのー」
「……」
えぇ。
「ごめんなさい。あまりこういうのに慣れてないの」
見りゃわかります。
「単刀直入に言わせて、綾瀬くんと姉崎さん、2人は異世界に行ってるでしょ?」
もう隠すのも無意味か。
「えっと、そうです・・・」
「それに私も連れて行って」
なるほど、まあ、そんなことだろうと思った。あの試合で僕たちが異世界に行ってレベルアップしてるのは明白だったから仕方ないか。
「ついて来て、どうするの?」
「私もマナレベルを上げて先生に認めてもらうの」
霜月さんは僕たちが密かにレベルアップしてそれを見抜いた先生が僕らをチームにスカウトしたり訓練してくれてると思っているのか。
要は霜月さんもレベルアップして先生に認めてもらいたいってことか。
まあ、実際は交換条件で僕たちを手助けしてくれてるんだが。最近は手助けの範疇を越えてきた気がするが。
「えっとー、それは難しいんじゃないかな・・・」
何とか霜月さんを宥めて諦めてもらおうとするも
「忘れてないよね、あの写真」
そう言われると僕は黙るしかなかった。
「お願い、門の場所さえ教えてくれれば後は自分でなんとかするから」
「で、でも、タダって訳には・・・」
「いいじゃない!教えてくれたって! 私の胸揉んだじゃない!」
「いや!あれは、その・・・ 不可抗力、そう不可抗力で!!」
「いいから黙って、門の場所を教えて! そうすれば写真も消すし、胸揉んだことも不問にしてあげるから」
いきなり熱の上がる霜月さんに、言い返すことができず結局言いくるめられてしまった。




