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第九十七話 トラップ

 あれから数日が経ちクラスの空気感もだいぶ落ち着きを取り戻したが、明らかに数日前と今とでは目に見えて違いがあった。


 姉崎さんに完膚なきまでに瞬殺されてしまった霜月さんは、相変わらず静かだが何処となく元気が無い。


 口数も前から少ない方だったが、今では僕よりも言葉を発さない。それでも課題や試験では相変わらず上をキープし続けているのだから、その熱はまだ冷めていないのが伺える。


 真田くんは・・・ まぁ、ね。


 僕から言えることは、これからはクラス1()人で頑張って行こう、という事だけだ。


 それから、クラスメイト達からの僕ら2人を見る目が変わったことくらいか。


 前は「なんだコイツ」ていう感じの視線ばっかりだったが、今は・・・ ごめん嘘だ。結局今も「なんだコイツ?」みたいな感じの視線が飛んでくる。と言うよりそういう視線が増えた印象だ。


 幸いなのは、その言葉の内に秘められた意味が少し違うことくらいか。


 変わらないのは姉崎さんくらいで、少しマシになった課題のおかげで家でしっかり寝れるからか、百瀬さんとお喋りしている。


 それで言うと、百瀬さんも変わらない1人ではあるが。


 まあ、とにかく僕を取り巻く日常というのが、あの試合以降また少し様変わりしたのは紛れもない事実だ。


 と言っても授業の合間や昼休憩なんかは、結局こうして机に頭を乗っけるしかやる事が無いんだけどね。


 ん?


 僕が偶々寝ている姿勢を変えた時だった。


 頭の位置や向きを調整して寝やすいポジションを探していると不意にこちらを覗く視線を感じる。


 チラッと見ると既にその視線は無くなっていたが、紛れも無く、霜月さんの方からその視線を感じた。


 気のせい、かな?


 普段喋ったりなどの接点が全く無いのでこの時は気にも留めなかったが、今にして思えば頭の片隅くらいには置いておけばよかったと後悔してる。


 いや、やっぱ置いといても無駄だったかも。


 だって僕、男の子だもん。



 ・・・



 放課後の岡田先生による特別追加訓練を終え、僕は帰る支度をしていた。姉崎さんとは一緒に帰るとかそんな事はしておらず、訓練が終われば個人個人でいつも帰っている。


 更衣室で着替えて早く家に帰ろうと思っていた時だった。僕が使っているロッカーの奥に何やら見慣れない紙が一枚。


 僕が制服やら荷物を入れた時には確実に無かった物だ。


 取り敢えず手に取り何かと見てみると、紙には「備品倉庫で待ってます」と書いてあった。


 こ、これは、もしや。


 ・・・ラブレター、だったり、する?


 正直胸の高鳴りが抑えられない。人生で初めての事だし、思い当たる節が有るというか、先生から認められて試合で相手を完封して病院送りにするという、節しか見当たらない。


 僕という人物を深く知らず、その結果だけ知っていたら興味を持つ人が出て来てもおかしくないはず、いや!


 おかしくない!


 僕は胸を高ならせながら備品倉庫に向かう。


 近づくにつれ緊張も同時に増していき、緊張と嬉しさで身が張り裂けそうだ。


 扉を開ける前に大きく深呼吸して、いざ!扉を開けるとそこには・・・


 誰も居なかった。


 暗く、明かりもついておらず、まだ来てないのかな?と思ったりもしたが、ただの悪戯かと意気が消沈も消沈した。


 その時!


 背後から不意に衝撃が襲い、更に何かに引っ張られる。前のめりで倒れそうになり咄嗟に目を瞑ってしまいヤバい!と思ったが、何かが僕と床の間に入ったおかげで直撃は免れた。


 マットでも敷いてあったのか?と思っていたが左右の手に伝わる感触がそれぞれ違っていた。


 左は固い感触と埃やら何やらでザラザラした床の感触だが、右は・・・


 手に吸い付くような程よい膨らみと気持ちのいい柔らかさが伝わってきて布越しに触っているのが勿体無い感触だ。


 その柔らかさに思わず2、3回手に力を込めてしまった。


 手にあまりにも神経を集中してしまったためか、トクントクンと小さくも少し早い鼓動が伝わってくる。


 僕は恐る恐る目を開ける。


 そこに居たのは頬を少し赤らめた霜月さんだった。


「え・・・」


 すると視界の端が光る。


 見るとそこにはスマホが向けられており、おそらくシャッターが切られたらしい。


 数秒僕が固まっていると、霜月さんが口を動かす。


「この写真をバラされたくなかった、私の言うことを聞きなさい」


 僕はまんまと罠にハマってしまった。

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