第九十六話 試合終了
前話のラストで名乗りを上げた人物を変更しました。急な変更ですみません。
「ちょ、ちょっと! 先生! あ、あれは、一体?どういう・・・」
僕は授業の合間を使い、クラスメイトにバレないように先生に突撃していた。
「どうもこうも無いわ、私が朝話したことは全て事実よ」
先生は焦った様子の僕を見ても何のその、僕が言い切る前に話を遮って喋り始める。
「それよりも、あなたのレポートを読ましてもらったけど、もう少しどうにかならないの? あまり良い出来とは言えないわ。これじゃあクラスメイトから舐められるのも仕方ないわ」
「い、いや、でも、僕たちは放課後や休日だって・・・」
「言い訳無用。と、言いたいところだけど、そこは安心しなさい。今後は今のスケジュールとあなた達の学力を考慮して課題を作るから」
意外にも柔軟な対応にそっと胸を撫で下ろすも、直後鋭く睨まれる。
「けれどね、今回クラスで起きた騒動は半ばあなた達のせいよ」
「え、え!?」
「『え!?』じゃないわよ。あなた達が変に目立たないように訓練や実技で手を抜くのはわかる。でも筆記も手を抜く必要は無いんじゃないの?」
わざとらしく、嫌味ったらしく、ネチネチと痛いところを突く。
「あなた達が筆記や学力面で彼女たちを上回っていれば、適当な理由ではぐらかすくらい出来たわ。でもあなた達2人は両方劣っているんだから、午後の模擬戦は甘んじて受けなさい」
「い、いや、先生が僕らの就職が決まってるとか、言うからこんな・・・」
「言い訳無用!」
僕は仕方なくスゴスゴ教室に戻った。
自分の自信の無さや意気地なしなところを今日ほど憎んだ日は今まで無かっただろう。
・・・
午後になり昼食をとっていつもなら眠くなるところだが、変に心臓がバクバクしてそれどころでは無い。緊張で手の力がスーッと抜けて手が笑っている。
大きく息を吸って吐いても焦りは止まらず落ち着くことができない。
訓練所にいく足取りが重い。
着替えの時でさえトレーニングウェアが嫌に重く感じていたけど、本当に重くなったのか?
その時、背後からポンと肩を叩かれ、思わずビクッと体が驚いた。
「何ビビってんだよ? ほら、早く行こ」
「ハハッ、すごいね・・・ 全然緊張してないんだ」
何も気にしていない様子の姉崎さんに僕は心底驚いた。
「何が?」
「何がって、今日何やるか、わかってるでしょ?」
「え? 普通に訓練じゃないの? 今日はなんか別の事やんの?」
え?マジかよ、と内心思ったがそういえばこの人、あの時寝てたから何も知らないのか・・・いや、呑気すぎるでしょ!
「姉崎・・・さんはこの後霜月さんとガチで戦うんだよ。僕も・・・その後真田くんと戦うし」
「え?そんなの聞いてない!」
でしょうね。
「てかなんでそんなことになってんの?」
「えっとそれは・・・」
「2人とも何してるの? 早くアップして準備しなさい」
そう言われ僕たちは軽いランニングと柔軟で体を温め、その間に姉崎さんにことの経緯を説明する。
まあ、それを聞いても姉崎さんは「あっそ」の一言で片付けたが。
その後はいつも通りのマナ操作訓練に入り、もしかしたらこのまま有耶無耶になるかもと期待したが、当の彼女がそれを許さなかった。
「先生、恐縮ですが早く始めて頂きたいのですが?」
丁寧なのか丁寧じゃないのかわからない強気な言い方に場が凍りつく。
「ふむ、模擬戦の時間にやろうと思っていたが、他の3人がもう始めたいと言うなら、良いでしょう」
先生がそう言うと、霜月さんはギロリと後ろの方に居た僕たち、というより姉崎さんを見据える。
「俺はもう始めても、オッケーです」
「あたしも良いよ」
真田くんも了承し4人中3人が了承してるので自然と僕に拒否権は無くなるが、どうするのか答えろと言わんばかりに周りから視線が僕に向かって突き刺さる。
「あ、え、だい、じょぶです」
「え? なんて?」
少し離れた場所にいる真田くんがわざとらしく聞き返す。心の中で舌打ちするが、声の小さい僕に非があると納得してしまい、睨み返すこともできない。
すると。
「大丈夫って言ってます」
姉崎さんがスッと答えてくれる。有り難さと共に情け無さが押し寄せるが、今は感謝しかない。
「チッ、守られやがってダセェな」
何か聞こえた気がしたが、とにかく無視するしかない。
「では、始めましょう。先ずは姉崎さんと霜月さんから」
その瞬間、クラスは大盛り上がり。
そんな喧騒をよそに両者は位置につく。
「あなたは武器を使わないの?」
霜月さんは支給されている合成棍を手に取り、振り回しながら体に慣らしていく。
「んー? まあね」
質問にあまり興味がないのか何処か素っ気ない。それが返って霜月さんを苛立たせる。
「では、両者構えて・・・始め!!」
霜月さんはマナを足に素早く集め距離を詰める。大体10メートルの距離を1秒弱で近づく。その短い時間の間に武器と腕にもマナを纏わせ、遠心力と強化された膂力に任せ棍を水平に振り抜く。
ハッキリ言って同レベル帯だったらちゃんと防御しても骨は軽く折れるレベルだ。
普段だったら絶対に止められるレベルの攻撃だ、霜月さんの本気が伺える。
姉崎さんの『剛腕』は周知の事なので、長物を持っている霜月さんはそのアドバンテージを生かし棍の間合いギリギリで攻撃を繰り出す。
まさに訓練通り、悪い意味で。
姉崎さん自体の喧嘩慣れもあるが、やはり異世界で培った戦闘経験は伊達では無かった。
『剛腕』スキルは発動するのに殴るや掴むなどの何らかの動作が必要で、防御のようにただ腕を構えてるだけでは発動しない。
有名なスキル故、発現して無くても知識として知っている者は多い。霜月さんもまたその1人だ。
速攻を仕掛け相手に攻撃の隙を与えず、更に踏み込んできても強化された反応速度と身体能力で瞬時に距離を離す。
まさに教本を体現したような一連の流れだ。
姉崎さんは右手側から迫る棍に対し防御するのでは無く、棍に合わせ左手の掌底をジョブのように打つ。
強化された棒とレベル2のスキルでは勝負にならず、棍は弾かれる結果になる、が、姉崎さんはそれを逃さず右手で掴む。
霜月さんは想定通り後ろに下がろうとするも武器を掴まれ下がることができない。咄嗟に武器を離すという選択肢はあるものの、『武器』という最大のアドバンテージを捨てるのを躊躇してしまう。
経験の差だ。
姉崎さんは相手に思考の隙を与えないまま、掴んだ武器を『剛腕』で引き、案の定武器を離さない霜月さんも付いてくる。
そして武器を引き戻そうと無理に抵抗しようとしてガラ空きになった霜月さんの腹部目掛け前蹴りをお見舞いする。
ドスッという鈍い音がなり霜月さんはその場に崩れ落ちる。
勝負は呆気なく幕引きとなり、あまりの実力差に皆引いてる。
その場で悶える霜月さんを一瞥もせずこちらに戻り「じゃっ、次頑張って」と言って後ろの方に引いて行った。
先生も気にする様子なく何人かに霜月さんを救護室に運ぶよう言って、すぐに僕と真田くんの試合の準備に入る。
そして・・・
そのー・・・
なんて言うか・・・
長々と前口上を垂れたあとに武器を構え意気揚々と突っ込んで来たところを躱して、顎にもの凄いカウンターを棍で打ち抜いてしまった。
さっきも言ったけど、同レベル帯でこの合成棍の攻撃はまともに防御してても骨が折れる。
棍に嫌な感触が伝わる。
その瞬間、先生がすぐに救急車を手配しすぐに真田くんを救護室に運ぶよう観ている人に指示した。
霜月さんは悶えていたが、真田くんは完全に動かない。
怖くなった僕はそそくさと人混みから抜け退散する。すると姉崎さんが寄ってきて
「あんた、さすがにやり過ぎじゃない」
やっちまった。




