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第九十五話 休まらない

 一難去ったということはもう一難あるのは必然で、百瀬さんに続いて真田君を何とか退けはしたものの、その後にまだまだ特大の嵐が迫ってることに僕は知る由も無かった。


 短い時間ながらも睡眠を取り何とか体を少し休めるも当然完全ではない。朝のホームルームのチャイムの音で体を起こし、抜けない気だるさを押し切り何とか覚醒する。


 いつの間にか姉崎さんも起きていて盛大に欠伸をかましている。誰にも邪魔されず寝れていることに少し羨ましく思うも、僕の言い出しでこんな限界スケジュールで生活する羽目になってしまったので、申し訳なさが勝ってしまう。


 こんな生活にも関わらずに文句を言わない姿勢に正直脱帽だ。


 いつの間にか眠気もだいぶ覚めて、そうしている内に廊下の方からツカツカと歩いてくる音が響いてくる。


「おはよう諸君。課題はキッチリやれているかな?」


「いや多すぎですって」


「そうそう、もうヤバいっすよ」


 教室に入って早々、開口一番に言い出したセリフに皆悪態をつき、それに合わせ僕も内心悪態をつく。せめて、僕らの課題の量は減らすとか何とか出来ないものか今すぐにでも問いただしたい。


 すると、課題について嫌々な反応を示しているクラスの中でスッと静かに華奢な手が伸びる。


 皆が言いたいことを言う中、発言に先生の許可を求める姿勢は真面目を通り越して堅物な冷たさを感じる。


 手を挙げたのは霜月さんだ。


「どうかした?霜月さん」


 そう言われると霜月さんは手を下ろし、クラスの喧騒をものともせず凛とした良く通る声で喋り始める。


「先生、放課後に姉崎さんと綾瀬くんに追加の訓練を行っているのは本当なんですか?」


 どうやらホームルーム前の僕と百瀬さんのやり取りを聞いていたらしい。それを聞いて先生はさも当然かの様に答える。


「ええ、事実よ。それがどうかしたの?」


 先生のあっけらかんとした声色と態度にも霜月さんは平然とした態度を崩さなかった。


「では、私もその訓練に参加したいのですが、よろしいですか?」


 まあ、中にはそういう人もいるよな。もし放課後に追加で訓練できると言われたら、参加しない人を不真面目とは言わないが真面目と分類される人達は喜んで参加するだろう。


 そもそも、この学校は普通の高校では無く、異世界調査員を養成する学校の為そういった類の人が結構いるのは間違いない。まあ、僕だったら参加しないけど。


「なるほど、やる気も合って大変熱心なのは感心。だけれどもそれは許可できないわ」


 だが、先生はそんなやる気のある生徒である霜月さんを一蹴してしまい、当然納得できる筈の無い霜月さんは先生に食ってかかる。


「な、どうしてですか!?」


 普段あまり喋らないし、声を発したとしても授業中に先生に指された時や質問する時くらいで、まさかこんなに声を荒げるとは夢にも思わなかった。


 それでも先生はゆったりとした口調で淡々と説明する。


「理由は簡単、あなたの実力が私の求める水準に達していないからよ」


 バッサリと切り捨てられ、唖然とする霜月さん。


 ここだけの話、あまり感情を表に出さない霜月さんだが、岡田先生が赴任してから授業中の挙手や先生への質問などが増えているのは目に見えていた明らかだった。


 岡田先生は業界内では有名だ、僕は顔と名前を聞いても知らなかったが、おそらく勉強熱心な霜月さんは先生のことを知っていたのだろう。


 なのでそれくらい尊敬する人にハッキリとそんなこと言われたらフリーズしてしまうのも無理もない。


「で、でも私の実技も筆記も、試験はA評価で姉崎さんや綾瀬君より成績は上の筈です! 実力は十分足りてます!」


「確かにそうね、その辺2人には追々頑張ってもらうとして・・・」


 ヤベェ、寝る時間無くなるかも。


「霜月さん、あなたの実力、知識、共に私は高く評価してるわ」


「でしたら!」


「ですが。それはあくまでこの学校の水準で言えばの話です。あの2人は成績こそあなたに劣りますが、経験の面で言えばあなたより断然上です」


 ちょちょちょ! 何言い出してるんだこの人は。


 経験って、それ暗に僕達が異世界に行ってるって言ってるようなものじゃないか。


 今までは変に、特に学校側から注目されるのを避けるため、そういうことは悟られないように慎重に今まで行動してたのに。まあ先生にはすぐ見破られたけど。


 自分が学校側だからって好き放題言いふらし過ぎでは?


「ここだけの話ですが、あの2人は卒業後、私の所属する研究機関への就職が決まっています。勿論配属されるのは私の研究チームにね」



 ええええええええええええええええええええ!!!


「は?」「マジかよ」「嘘だろ、アイツが?」いろいろ聞こえてくるがそれどころでは無い。何も聞いてない。そんなの知らない。


 姉崎さんはこの事、知ってたのか?


 ちらりと姉崎さんの顔を覗く、すると姉崎さんはコクリコクリと船を漕いでいてまさかの爆睡を決め込んでいた。



 バアン!!!


 唐突に机を力強く叩く音がクラスに響く。どうやら姉崎さんの様子を見たのは僕だけでは無かったようだ。尊敬する人に実力を認められたクラスメイトの様子を見たらまさかの居眠りをする始末に、さすがの霜月さんも頭に来たようだ。


「では・・・その実力が偽物だと証明したら、その考えを改めてもらえますか?」


 冷え切った声色で話す彼女に、先生は何か面白い物でも見るかのような表情で返す。


「と、言うと?」


「私が彼女と戦い、私の方が優れていると証明したら。放課後の訓練だけでなく、その席も私に譲るというのは?」


 わざとらしく考える素振りをした後、先生は答える。


「ふむふむ・・・ いいだろう。私の目が節穴か慧眼か、存分に確かめると良い」


 最初から決めてたくせに。


「だったら」


 そう言いながらクラスの後ろの方で手が上がる。


「俺も綾瀬君の実力が本物か確かめたいでーす」


 ニヤニヤとウザったらしい表情をこちらに向けながら真田くんが名乗りを上げてきた。


 もう勘弁してくれ。

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