第八十一話
あまりの出来事に、俺はその場に立ち尽くしてしまった。
呆然としていると幾つもの光線が俺に向かって放たれていた。反応が遅れ回避するも間に合いそうにないが、コイツが両刃剣を投げなんとか被弾せずに済んだ。
す、すまん。
……。
呆れられたのか返事が帰ってこない。問いただそうにも俺の周りに光球が展開されると矢継ぎ早に光線が放たれその暇を与えてくれない。
それに加え奴は何やら新技を披露してくれるようだ。全く有難い話だ。
巻き戻される前は動かずにただの飾りだった後ろの体に組まれていた両腕が動き出していた。こちらからはよく見えないが印を結んでいるように見える。
手遊びしてる訳じゃないよな。
このままではジリ貧の為、一気に間合いを詰めるため踏み込むも頭上から何か降ってくる。
雨?
大粒で酷く濁った雨粒が激しく打ち付けられる。今のところ体に異常はないが、どんな能力かは調べている暇が無い。
雨を無視し奴に迫る。だが……
さっきまでと違い異様に奴が遠く感じる。すると相も変わらず光線が打ち込まれるので躱すも数発被弾してしまう。
油断したか、ん?
穴の治りが若干遅い。先程までは一瞬で治っていたモノが一呼吸置いて治っている。嫌な雰囲気が俺の周りを漂い始める。
痛みは相変わらず無いし、傷もちゃんと塞がってはいる。だが、ここに来るまでこの異常な治癒能力を頼りにしてきた身からすると不安が酷く込み上げてくるのは当然の事だった。
不吉な一文字が脳裏を過り始める。
不安を払い除けるための気合いのを込めてか、はたまたジワジワと追い詰めてくる奴への怒りか分からないが俺は獣のように吠え散らかしながら奴に飛びかかった。
ゲームで言うところティルトしてしまっている状態だ。冷静ではいられず兎に角この状況を変えようと躍起になり、結果空回りしてしまっている。
拳や爪、尻尾の殴打も全て奴の障壁の前に無惨に弾かれる。
攻撃スキルを持たない俺はマナを放出する手段が無いので、出来るだけマナで部位を強化し膂力と速度で攻撃するしかない。生成スキルを使うという手もあるがスキルで作ったものはマナから生成した物と言うだけで、期待してるような威力は出ない。あくまで作り出すまでのスキルだからだ。
そういう意味では何らかの能力が備わった魔道具でもある両刃剣を模倣生成するのは有効な手ではあるし、もしくは民族少年と戦った時のように空間を歪めるくらいのマナ質量を持つ物体を作れば奴の障壁を破ることは容易だが、今はそれが出来ない。
おそらくこの雨の影響だろう。マナが上手く操作出来ない。くしゃみが出そうで出ないもどかしいさだ。先程の攻撃も全てがほとんどマナが乗っておらず障壁に傷一つついていない。
マナ操作が阻害され身体強化が上手く出来ずオマケに傷の修復も遅い。この雨に晒されればされるほど操作は覚束なくなるだろう。どれだけマナがあっても使わないんじゃ意味がない。
奴が手を広げた状態から勢いよく合掌する。すると左右から轟音が鳴り響くので左右を見やると地面が津波のように迫り上がりもの凄い勢いで俺に殺到する。
マナで強化しようにも微々たるモノしか纏えない。走って逃げようにも奴の念動で押さえつけられ歩くのが精一杯だ。
完全にお手上げ状態になり咄嗟に防御姿勢をとるも半ば諦めた状態だった為、ポーズを取っただけに過ぎない。
地面と地面が激しくぶつかり、その中心にいた俺は為す術なくミキサーにかけられるように揉みくちゃにされ、変な態勢で地中に埋まっている。
雨に打たれていないため、ここでならマナを操作できるか試したが出来ない。どうやらもう既に雨が地中まで染み込んでいるようだ。
どうするか考えていると、お決まりのように無数の光線が撃ち込まれ体に穴が空く。
だが、暫くすると光線がパタリと止んだ。どうしたのか疑問に思っていると、回転した両刃が地面を掘り進める俺の目の前に現れた。
あ、どうも。
まるで、これに掴まれと言わんばかりに差し出された両刃剣の持ち手を掴み引き上げられる。
見上げるともう一本の黒い両刃が奴に果敢に斬りかかり既に何本かの腕を潰していたようだ。
俺が正面の体とやり合ってる間にコイツが操作してる両刃が後ろの体とやり合ってたのか。俺の立場って一体……
てかちょっと待て。お前・・・マナ操作できんの?
ケン。ウゴ、カスダケ。
この雨の中、両刃剣を操れるの二本とも?
ソソ
な、なんで?
シラン
えー
人がマナ操作できなくて死ぬかもって困ってる間にコイツはそんなこと気にする事なく淡々と戦って、しかも苦戦することなく奴を相変わらず圧倒し続けたのか。もうコイツ一人で良いだろ。多分俺が寝てても勝つよ。
マジかよ、ちょっとくらい助けてくれても良くない?
タスケタダロ
いやもうちょっと早くって言うか、マナ操作で困ってるとき助けてくれても良くね?
ケンウゴカセイッタ! イッタ!!
ご、ごめんて。そんな怒るなよ、悪かったよ。
コイツは怒っていながらも両刃の操作をし続けてくれている。こんなふざけた会話ができるのはコイツが会話中も剣を動かし攻撃やら何やらを防いでくれているからだ。全く頭が上がらないよ、これじゃコイツに足向けて寝れないな。
それにしても今の状況には相当驚かされたが、向こうの方がもっと驚いてるんだろうな。まさか本体をいくらしばいても意味が無いんだから驚くのも無理もない。
奴はこの状況を一旦リセットすべくまた巻き戻しを行った。
時間が戻り、互いに元の睨み合う配置に戻る。傷も治り地形も元通りだ。
さっきは悪かったな。改めてお願いなんだが、俺の代わりにマナを操作してくれねえか? どうせ雨が降ったら俺は操作ができなくなるからお前にやってもらいたいんだが、どうだ?
……ワカタ
よし! じゃあ、思いっ切りぶっ放すとするか!
熱くなるような感覚が全身を駆け巡るのを感じ、そのまま力の限り跳躍す……
え?
もうすでに奴の胴体が迫ってきて、いやその逆で自分が奴の胴体に向かって迫っていた。想像したことも無いスピードを制御する術など持ち合わせている筈も無くそのまま奴の胴体に直撃し貫いた。
だが、勢いは止まることを知らず更に加速していき奴の巣であるドームを突き抜け、果てには次元の壁も貫いてしまった。




