第七十五話
森の中に続く舗装された道を歩いて行くとようやく目的地が見えてくる。
だが、目に映る光景は俺たちの予想を大きく超えて残酷だった。恐らくここにあったであろう物が綺麗さっぱり無くなっているのが何も知らない俺ですら分かったからだ。
森が開けると同時に現れたのは巨大なクレーター。ここに確かにあった何かごと地面と一緒に抉り取られた、そんな印象だ。
俺はただ茫然とその光景を見ていた。リルに何か声を掛けようにも言葉が見つからない。コイツもこんな時に掛ける言葉なんて持ち合わせているはずも無くただ無言で意識の奥に潜んでいる。
ただ疑問も残る。
そもそも誰にやられたんだ? 何でここだけピンポイントに抉られているんだ? ここは元々リルの家族達が非難する場所だったはずだ、それがなぜあの街と違って完全に消滅させられているんだ? 他にも逃げる奴なんて大勢いるはずなのに。
いや待て、あの異様な街に伸びた道。恐らくこの異空間の主の仕業と仮定してるがそれならこの周りにも同じような被害を受けるのでは? てっきり俺はこれをやったのはこの空間の主だと思っていたが、何か嚙み合わないというか。
ていうか、首無しお嬢はどうなんだ? あの子はたぶんリルのお姉さんだろ、なんであの子と使用人たちだけ外にいたんだ? ていうか、おいおいおい。おかしくねえか!?
何で俺を異空間に送れたんだ?
いや、考えなくても分かる。送る手段があるからだ。てことは…… いや、考え過ぎか?もしかして帰る手段もあるのか?
いや待て、そもそも首無しお嬢の目的がリルの救出かどうかなんて分からねえんだぞ。でも……
この国の歴史とか滅んだ日何が起きたとか分からねえし時系列も曖昧だが要は、この空間からの脱出の手立てが有ったが、リルが攫われ父親は救出に母親と姉と何人かは事前に避難。だが、やむを得ず先に脱出、この場所ごと転移した。
かなり良くねえか、俺にしては。
正直粗だらけの推理なのは分かる。あの騎士の事とか、じゃあ母親どこだよ、とか。でもいいだろ、首無しお嬢が俺をここに送ったのに意味が有ると仮定するなら、脱出したこの場所までリルを連れてくることを想定して…… よくよく考えると、こじつけが凄いっていうか、今ある情報を自分勝手に並び替えただけのような……
ハヤク! ウゴケ!!
また考え込んでしまって無限ループするところだったが、コイツに急かされたおかげでループに入らずに済んだ。ていうか、全部聞いてたんだな。
俺が急に動き出したのでリルが吃驚して箱の中でひっくり返っている。俺は優しくリルの頭を元の姿勢に戻し、笑顔でリルを見る。
まあ、俺を見たリルの表情は石像のように固まっているんだが。
コワガテル。
うう、しまった元気付けるつもりだったんだが。
気を取り直してクレーターを降り何か手掛かりが無いか探す。だが屋敷の時みたいにコイツがすんなり何かを見つけて解決とはならずしばらく探し続けることになると思ったその矢先リルが何やら見つけたようだ。
近づき見つけた物を拾い上げると、それはペンダントだった。
意匠が施され見たことも無い宝石が一つ付いた見ただけで高価な物だと分かる代物だ。どうやら開けられるタイプの物らしく、そっと開けてみると中に入っていたのはリルとその家族が映った写真だ。
絵画や服装、街並みから中世くらいの文明だと思っていたが写真なんて撮れるのか、という疑問は一旦置いておく。
ペンダントをリルに見せるとリルは何やら呟いた後、わんわんと泣き出してしまった。いたたまれない気持ちになりつつも内心何か一つでも思い出の物が見つかって良かったと安堵した。もし暗闇に覆われたままだったら見つけられる気がしないからな。
まあ、俺の当ては外れたが。
その瞬間、ペンダントが輝き始める。
この空間に初めて暖かい光が差したことに心なしか周りの草木が喜んでいるように感じる。光を放ちながらペンダントは宙に浮き、段々と人の形になっていく。
長く、フワフワのプラチナの髪に優しそうな笑みを浮かべた絵画やペンダントの写真に写るリルの母親と同じ姿の女性が現れた。俺は言葉を失い立ち尽くした。
ミトレテル。
うるせ。
女性はリルと何やら話している。リルの反応を察するに本物の母親のようだ。だがいつまでも話していられないらしい。母親が真剣な表情でリルに話し始める。それを聞いていたリルは大声を上げ何やら拒否しているようだ。
大体察しは付く。
おそらくこれが今生の別れになるのだろう。やっと会えたのにもう一緒に居られない。何でもかんでもハッピーエンドになる訳じゃないが、これはあまりにも……
こんな力、ただ敵を屠るだけのこんなモノが有ったって目の前の女の子1人幸せにすることができない事に改めて自分の無力さを痛感する。
輝きに段々と陰りが見え始めたころ母親は俺に向き直り何やら言葉を掛けてくれる。言葉の意味はもちろん分からなかったが、その温かさだけは何となく伝わってきた。
すると、輝きが最後と言わんばかりに一気に光り輝き空中に陣を描き始めた。幾何学模様が段々と形成されていき謎の文字がそれに伴う。
それに見とれているといつの間にか陣は完成していて陣の真ん中が歪み始める。歪みが収まるとその先に白い空間が見える。
門だ。
一目見た瞬間にそう思った。
だが、今は驚愕している時間は残されていない。リルの母親が俺たちに門の中に行くように促す。でもリルは泣きながらそれを拒み母に訴えかける。
それを見た母親は一瞬嬉しそうな表情をした後すぐに厳しい表情を浮かべ何かを言った後に俺の方を見る。
それを何となく察した俺は思わずため息を吐く。
はあ、嫌な役目だけど仕方ない。
俺はすぐさまリルの入った箱を抱え門に入る。『待って!』聞いたことない言葉だが俺はそう言っているように感じた。リルの制止を振り切り門の中を駆け出口が見えてくる。
それは紛れも無くあの首無したちの屋敷だった。
出口の先を確認した俺はさらにスピードを上げあっという間に出口に辿り着く。出口には首無したちが俺たちを出迎えていて、その中に首無しお嬢の姿も見えた。
今だ泣いているリルをそっとお嬢に預けると感極まって肩が少し震えている。顔が無いから分からないが多分嬉し泣きしていると思う。
それを見た周りの使用人たちもなんだか嬉しそうだ。
だが、リルは今だ悲しみに暮れていた。俺は悲しみに暮れるリルの頭をそっと撫でて俺の顔を覗くリルに笑顔を向け、そして。
俺はすぐさま消える寸前の門の中に飛び込み異空間の中に戻った。




