第五十六話
あれから俺は洞窟の中をひたすらに進んでいた。道はわかりやすい一本道になっていてこの調子なら割とすぐにこの洞窟を抜けれるかもしれない。が、無事に洞窟を抜けられるか、という心配よりも今俺が抱えている物の心配の方が上だ。
俺は出来るだけ揺らさないように慎重に宝箱を運んでいる。さっきまで暗くてよく見えなかったが、箱は銀色に輝き思わず見とれてしまう。箱をよく見ると豪華な装飾と不思議な模様が施されている。見れば見るほど不思議な模様だ。植物のようにも見えどこか幾何学的だ。何か意味があるのかもしれないが、俺には見当もつかない。
箱を見ていて思ったが、さっきから何も聞こえてこない。俺を見た直後だからおそらく中で少女が泣き崩れてるはずなんだが、物音ひとつ聞こえてこない。俺は今一度マナで聴力を強化してみる。すると微かに箱の中から音が聞こえてくる。
やはり中で泣いているみたいだ。
俺にその気が無いのにこのまま泣かれ続けるのも気分が悪いので、蓋を開け少女と向き合うことにした。再び開けると俺を見るなり号泣、だが俺も覚悟を決めているので簡単には引き下がらない。ジッと少女が泣き止むのを待つ。
不思議なことにこれだけ泣いているのに、こちらに近づいてくる気配は無かった。まあ来ないに越した事は無いが。
しばらく待ってようやく落ち着いてきたみたいだ、まあ何回か俺と顔を合わせてるからそろそろ慣れてきたのかもしれない。俺を見る目はまだ涙目だがそろそろ大丈夫だろうと思いスキルを使い俺の気持ちを伝える。
落ち着いたか?
少女はコクコクと小さく頷く。
ここが何処か分かるか?
少女はフルフルと器用に頭を振る。するとウルウルと目に涙を浮かべ始めてしまった。いろいろと思い出したのだろう。しかしこの様子じゃ、何でこの箱に入ったのかも分からないだろう。
今までと違って大声を上げるのではなく、何かを噛み締める様に俯いて静かに泣いている。この少女はどれくらいか分からないがこの箱の中でずっと過ごしていたのだろう。もしかしたら誰かが迎えに来る予定だったのかもしれないが、この様子を見るに……
ハア、正直こんなクサいセリフを言うことになるとは、恥ずかしいけど仕方ない。
安心しろ。
少女は見上げる。目に映るのはこの世の者とは思えない禍々しい気配を漂わせた正真正銘の化け物。最初の内は押し寄せる絶望に気が動転してしまっていた。何回見ても目を逸らしたくなる気配と風貌に表情が強張ってしまうが、それと同時にこの化け物から伝わる言葉に強く惹かれてしまう。
お前を此処から、必ず連れ出して見せる。
その言葉を聞いて内から今まで忘れていた感情が溢れ出し、今までとは違った涙がこぼれる。
俺を信じろ。
少女はその言葉に、静かに頷いた。




