第五十五話
どのくらいこの暗闇を彷徨っただろうか。
何故自分がこんな暗闇を彷徨うことになったのか、その理由はもう覚えていない。だがなぜ彷徨っているのかは分かる。
探す…… 首を探して、持って行く。
魂に焼き付くようにこびり付いた、この命令だけをただ愚直に従い、気づけば何世紀もこの暗闇で過ごしていた。
幸いなことに感情や理性などは当の昔、この姿になってから完全に消え去っていた。そのおかげで何も考えることなく何の疑問も持つことなく今まで過ごして来れた。
だが変化が訪れた。
何かがこの暗闇にやって来た。そのことについては特に気にも留めていなかった。自分に課された命令は首を探すことで侵入者の排除ではない。むろん接敵すればやぶさかではないが。それより重要なのが、侵入者が現れてからしばらく経つと突然、その気配を感じたことだ。
何百年も探し回った物が急にその気配を滲ませ始めたのだ。
首を見つけた、見つけた! 見つけて主に捧げれば俺は……
そして、目の前に現れたのは……
・・・
屋敷の連中と違って、俺を見ても怯まないってことは相当な強さなのかもしれない。相手のスキルが分からない以上迂闊に攻めたくないが、奴らが狙ってるのはどうやらこの箱の中の首らしい。当然奴らからこの中身を守るとして、長く戦うとそれだけ俺に隙が生まれるかもしれない。だったら。
俺はすぐさま臨戦態勢に入る。遺跡以来の戦い、しかも守りながらの戦闘のため出し惜しみせずにマナを全身に纏わせる。
なんだか前よりもマナが増えているのか全身からマナが迸り、周囲の暗い光を放つ不気味なマナがどんどん押し退けられていく。すると闇に閉ざされた世界が段々とその姿を現し始める。
化け物と対峙していた二体はそんな俺の姿を見て体を小刻みに震えあがらせていた。
あれ? さっきまで俺の事なんかお構いなしに襲ってきたのに、急にどうしたんだ? もしかして今まで覆っていた闇のせいか? まあ考えるのは後にしよう。やられたからにはやり返さないと、それが異世界のルールだ。
対峙していた首の無い犬の方がこちらの威圧に耐え兼ねたのか走って逃走し始める。ビュンとこちらにも聞こえるくらいのスタートダッシュだ。だが。
轟音を立てながら地面を蹴り砂煙を撒き散らしながら俺も走る。一瞬にして追いつき次の瞬間上から叩きつけられた俺の拳を喰らい犬が体が爆ぜる。
もう一体の首無しは俺が犬の方に向かった隙に少女の首を狙ったみたいだが一歩を踏み出した瞬間俺が目の前に現れ、咄嗟に斧を振り抜くが俺にあっさりと受け止められ、斧を抜こうとしたり逆にそのまま振り抜こうとしたりで必死の様子だ。
口がついていれば何か言ったり吠えたりしているだろうが、生憎聞こえてくるのはグッグッという虚しい抵抗の音しか聞こえてこない。
あまりの拍子抜けの強さに一瞬見逃そうかと考えたが、少女の安全を考えとどめを刺した。
辺りを見回すとさっきまで鬱陶しかった闇は無くなり、静かな洞窟の中に居た。
よかった~、最初は上に大ジャンプしようかと思ってたけど、もしやってたら洞窟が崩れてあの宝箱も一緒に潰れてたな。まあ、とにかくこれで一先ず危機は去った。後は、あれをどうするか……
俺は箱に近寄って、もう一度蓋を開けてみる。
えっと、さっきまでキミの事を狙ってた連中は…… そこまで暗示しかけた瞬間、またもや俺の姿を見た途端、この世の終わりのように泣き始めてしまった。
はあ、勘弁してくれ。
いや、考えてみたらそっちのセリフか……




