第百七十七話
街中を走るには少々厳つい車が猛スピードで道のど真ん中を走る。本来なら交通の妨げどころの話では済まない行為だが、それを咎める人や警察組織は今は機能していない。
故に車を走らせる男もそれを分かっているため、さらにアクセルを踏み込む。
するとスマホから電話の着信が入る。運転中だが男は意に介さず電話に出る。
「どうした? そっちの状況は?」
「牧田さん、これって……何が」
牧田と呼ばれた男は部下の明らかな動揺を話で遮る。
「落ち着け。先ずはそっちの状況を……」
「こんなの落ち着いてられませんよ! こんな、こんな事って!!」
しかし部下の悲痛な叫びが牧田の言葉を掻き消す。電話越しで相手の表情も見えてる景色も見えないが、相当なものだと分かった。だからこそ……
「落ち着け!! 叫んだって状況は変わらねえ! とにかくお前が今見てることを、正確に、俺に、伝えろ。出来るか?」
牧田の叱咤激励に部下も、多少だが落ち着きを取り戻す。
「す、すみません、牧田さん」
よし。
牧田はこんなやばい状況なのにも拘らず自分の怒鳴り声一つで冷静さを取り戻す部下の優秀さを喜ばしく思う。
その時。
ドウシタ? ダイジョウブカ?
「……っ!?」
身の毛が弥立つ。自分以外誰もいないはずの1人の車内で、耳元で囁かれたような感覚に勝手に体が反応する。
助手席や後部座席をチラ見してももちろん誰も居ない。
そんな当然の事は、牧田はもちろん分かっていた。
だが、体の奥底から震え上がってしまうようなプレッシャーを纏った囁きに、理性で己を制しようとしても抗うことが出来ず勝手に体が反応してしまう。
どこからともなく響く声に体を強張らせていると、またしてもその声が語り掛けてくる。
グアイデモ、ワルイノカ?
もしその返答に「悪い」と返したら一体どうなってしまうのか。想像したくも無い事が頭の中を駆け巡り、自分から徐々に冷静さを失わせていく。
牧田は纏わりつく恐怖から抜け出す為に声を過剰に荒げ、外に居るそいつに話しかける。
「だ、い……も、問題無い!!」
「ど、どうしたんですか急に」
「何でもない! こっちの話だ」
部下に電話越しではあるが変な目で見られた事を若干気にしつつ、この話題を深く追求されないために話を戻す。
「それより、そっちはどうなってる」
「あ、は、はい!」
今のやり取りで大分冷静さを取り戻し落ち着いた様子で状況を説明する。
「なるほど、わかった。また何かあれば連絡しろ」
「了解です」
そう言って通話を切ろうとする部下を牧田は話を続けて引き止める。
「くれぐれも……慎重に。絶対奴に近づくな。わかったな」
「は、はい! 了解です」
そう言って通話を切り、部下から送られた場所に向かう。
イイ、ジョウシ、デスネ
「あ、ああ。ありがとう」
生きた心地が全くしない状況の中、牧田は車をとにかく走らせた。




