第百七十六話
あー、えー、落ち着いて。
「きゃああああ!」
「ああ……あ、あ……」
ダメだ。そりゃそうだよな。逆に、話しかけて喋り返してくるあの人たちが異常なのか。仕方ない。
俺はトボトボと若干重い足取りで建物を歩き始める。話せば分かる、なんて事は普通に無い。それが分かっただけでも良かったのかもしれない。そう自分に言い聞かせる。
キニスンナ
あ? 別に気にしてねぇよ。
なんて言うか、ほんのちょっとした感情の浮き沈みが相棒に丸わかりなのは、嬉しいような恥ずかしいような。
ヨシヨシ
鬱陶しいなあ! もう。
しつこく絡む相棒を無視してしばらく歩くとゴンと何かにぶつかる。感触確かめた感じ、多分ガラスの窓だと思う。
しかし建物の端に着いたはいいが、遠くに見えたマナの場所を完全に見失ってしまった。
どうする? 当てずっぽうで適当に行くか? いやいや無理無理。そんな事したらもう迷子どころじゃない。
進んだと思ったら止まって、また進んだと思ったらまた止まって。目の前で頼りにしてる何かがスッと消えていくのは正直かなりストレスだ。
あああああ!!! やってられねえよおおおお!!!
流石に行き詰まり過ぎて思わず内心叫んでしまい、それが多少ではあるが態度にも出てしまったらしい。俺が心でそう叫んだ瞬間足元から女性の悲鳴が聞こえてくる。
「いやああああ!」
あ、やべ。暗くて見えないから気づかなかった。
踏み潰さないように足元のどの辺に居るのか手で探っていると、横から男の人が俺に飛び掛かってくる。
「うおおおお! やめろおお!!」
別に足元の女性をどうにかしようなんてこれっぽっちも思ってないんだけどな……ん?
真っ暗闇に染まった世界、自分しか見えない世界で何故かそいつはクッキリ見えていた。
ああ、そうか。考えてみたらそうだよな。別に異世界の調査員じゃなくてもマナくらい吸収してるよな。
その経験があるからか男は勇気を振り絞って俺の足をガンガン叩いている。別に効きやしないが、まあ、鬱陶しい……な。
落ち着け。俺はダメもとで男にスキルで話しかける。まあ上手く行かなくても良いんだけどね。だが俺の予想に反して男は俺の言葉に反応した。
あれ、もしかして聞こえてる?
未だ要領を得ない感じだが中々いい感触だ。これは……
良いこと思いついた。
・・・
「な、なにが起こってるんだ」
要請を受け現場に到着した場所は……更地。いくつも建物が並んで人の営みがあった街が跡形も無く消え去っている。
「うう……う、あ」
「だ、大丈夫か!」
僅かに息のある者が瓦礫の下に埋もれていた。すぐさま駆け寄りそいつを救助する。マナを吸収したこの男にとって瓦礫はそこまで脅威じゃない。
「何があった! 返事をしろ!」
「ば、化け、も、の」
「化け物?」
その時、空気を切り裂いて何かが物凄い速さで飛来する。黒く、恐ろしい……化け物が。




