第百七十話
やべぇ……メッチャ怖がってんじゃん。
俺は目の前で固まる人たちを見てなんだか申し訳ない気持ちになった。正直これは分かっていた事ではあった。自分の姿は客観的に見てだいぶヤバい。突然真横にこんなのが現れたら誰だって怖がりもする。だけど俺と出会った奴らは最初は怖がっていたけど、スキルを使って意思疎通すれば案外普通に接することが出来ていた。
だから、まあ、人間相手でも話しかければ行けるのでは? と今まで思い込んでしまっていた。やっぱりあいつに大丈夫と伝えるのも直接会うんじゃなくて、何かしら文字にした方が良いのかもしれないと改めて思った。
それより問題なのはこの状況。目の前の人たちは完全に固まっていて、何人かは気を失ってしまっている。気さくにスキルを使って意思疎通を図ろうとしたけど返って失敗してしまった。
完全にアプローチの方法を間違えてしまい、困り果ててこの状況をどう挽回しようか途方に暮れている時だった。一人の眼鏡をかけた女性が話しかけてきた。
「あ、えっと……こ、こんにちは、でいいのかしら……?」
・・・
岡田が化け物に向かってそう声を掛けた。周りの人間から何をやってるんだと言わんばかりの視線が岡田に突き刺さる。これ以上事態をややこしくするなと非難の籠った目線で睨まれているがそれでもお構いなしに口を開く。
「私の、名前は岡田さなえ……よ。あなたは?」
綾瀬の事をバカに出来ないくらい口が回らないが化け物を目の前に寧ろそれくらいで済んでいることが凄い事だ。
振り返った化け物と視線が合う。目は無いがこちらをジッと見ているのが分かる。次の瞬間殺されても可笑しくないがその恐怖をグッと堪える。ここで取り乱してはそれこそ命が無い。
しかし、少しするとまた困ったように化け物はそっぽを向いてしまう。何か気に障る事でも言ってしまったのか、岡田は警戒と緊張を高めるが返ってきたのは拍子抜けする内容だった。
『ワカラナイ』
「わからない? 自分の名前がって、こと?」
『ソウ』
「そ、そう。だったら何てあなたを呼べばいいかしら?」
『……』
再び考え込んでしまった。方法は不明だが向こうの言葉がこちらに流れ込んでくるので意思疎通は問題無い。加えて見た目に反してかなり有効的な言動なことが分かり岡田の研究欲が刺激されるが、今はそれどころでは無い。
綾瀬はイレギュラーに攫われ、しかもソイツは門に入ってこちらの世界に行ってしまった。人類が束になっても勝てないような存在が我々の世界に入り込んでしまった。立て続けに問題で片づけられない事が起き、何処から手を付ければいいか素早く判断が出来ない。
取り敢えず目の前の化け物は今は敵ではない可能性が高まっただけ良しとしておこう。岡田はそう判断した。
そのうえで次はどうするかそう悩んでいる時、化け物の影からヒョコっと可愛らしい少女が現れる。造形は完全に人間だが全身隈無く灰色の少女だ。少女が岡田に近づきその無垢な可愛らしさに岡田がどうしたらいいか怯んでいると、突然荒野を指さす。
指につられそちらに目をやるとイレギュラーの分身体が何体も迫っていた。
「あれは!?」
目の前に化け物が居ることを一瞬忘れ思わず声を上げる。皆も同じように表情を曇らせ今にも門に走り出す寸前になった時、化け物の背中から人間基準で行くと特大の黒い両刃剣が生えてくる。
化け物はそれを慣れた動作で引き抜きイレギュラーの群れに向かって軽く投げる。
すると剣は地面に落ちることなくそのまま勢いを増して飛んでいき、高速で回転しながらイレギュラーたちを切り刻む。
一匹としてここまで到達することなく、無惨に塵と変わって行く。それをただ唖然と見ているしかなかった。
岡田はその光景がまだ目に焼き付いて未だ放心状態だ。すると
「頼む! 綾瀬を……綾瀬を助けてくれ!!」
振り返ると姉崎が化け物に向かってそう叫んでいた。




