第百六十四話 悪夢
魔物は暗い洞窟の奥底で眠るようにその場に座っていた。石のように体を1ミリたりとも動かさずただそこでジーッと待ち続けていた。
自分の求める物を、欲する物を、焦がれる物を。
自分から大切な物を奪って行った奴を、見つけるために。
魔物は運に恵まれていた。あの日たまたま空を漂っていた天使を吸収したお陰で自己を増殖させる術を手に入れた。
今までは何処にいるかも検討もつかなかった弱小種族を一人で闇雲に探していたが、今までに体内に取り込んだ者たちを糧に自分を増やし、自分の代わりにそいつらが働いた。
奴らが見つからなくても、代わりに獲物を持ってきてくれた。そしてそれを吸収してさらに自分を増やす。
天使たちは増殖を機械のようにあらかじめ決められた一定のマナで行っていたが、魔物はどのくらいのマナを使えば増殖した自分にどれほどの差が出来るのかを試して検証した。
その過程で弱い個体から、それなりに強い個体まで様々な自分を作り、ようやく最適解を見つけ現在はそれに忠実に自分を増やしている。
結果はかなり良かったが、それも最初までの話だ。
数が増えても結局は闇雲に探すだけだったが、数が増えたことにより時間は掛かったが、奴と同じ種族を見つけることが出来た。
だが、まだ油断は出来ない。
一度自力で奴らを見つけた時、自分の求める奴では無いと分かると落胆し腹いせに無惨に殺してやろうと思って手を出す瞬間。その気配を感じてしまった。
巨大で深く暗い気配。そいつに触れる瞬間、その気配とともに警告される。
『ソレハダメ』だと。
身を引き裂くようなあまりの恐ろしさにその場からすぐに逃げ出す羽目になった。
その経験から慎重に慎重に行動するもすぐに杞憂だとわかった。それからは手当たり次第、今までの憂さ晴らしも込めて奴らを襲った。
だが結局、自分の求める物は見つからなかった。
苛立ちでそこら中に暴れ回った跡が真新しく残っている。今はだいぶ落ち着きを取り戻し、今か今かとそれを待った。
そして……
遂に見つかった。
忌々しくも我が物顔であの時の奴がそれを振るっていた。最終的に自分の分身がやられてしまったが、そんな事はどうでもよかった。
自分が求める物、欲する物、焦がれる物、そして自分の大切な物を奪った張本人が見つかったことに歓喜し、全速力でその場に向かった。
点だけのシンプルな顔だが、何処となく嬉しそうだ。
やがて、魔物は一番目立つ邪魔な魔獣を片手間で始末してからその場に降り立ち、嬉しさのあまり表情が初めて変わった。




