第百五十九話 憧れ
門の周辺が爆発で吹き飛ばされ、その衝撃で綾瀬は吹き飛ばされ一瞬気を失っていた。だが意識が朦朧とする中、吹き飛ばされた衝撃で負った痛みで意識が覚醒する。
「ぐっ……。あ、姉崎さん!?」
隣で同じく気を失っている姉崎に駆け寄り声を掛ける。
「姉崎さん! 姉崎さんしっかりして下さい!!」
「うっ、なにが、起きたの?」
意識を目覚めさせた姉崎の様子にホッと一安心するが、すぐに先程の爆発が起きた場所を見る。煙の中から既に見えていた巨大な体が完全に現れ、未だ門の前で様子を窺っている。
奴の足元を見ると薄い光の弱々しく頼りない光の膜が覆っているが、それも間もなく消えてしまった。
誰かはわからないが、誰かの防御系のスキルにより何とか耐えたみたいだが、それも時間の問題。いつ襲い掛かっても不思議では無い。
巨大な魔獣からしてみれば人間など腹の足しにもならなそうだが、それなりの人数が居るなら話は別だ。まあ食べるのが目的なら口からあんな爆発攻撃を繰り出すわけないと思うが、それは異世界だからしょうがないのかもしれない。
綾瀬は手元にいつも持ち歩いている武器が無い事に気づいたが、何の躊躇いも無く魔獣に向かって歩き出す。
「……おい。なに、してんだ、よ!」
体の痛みとあまりの魔獣の存在感に思考も放棄しただその光景を眺めるしか出来なかった姉崎の視界に綾瀬が映り込む。
何故そっちに行くのか、ぼんやりとした頭ではすぐに答えを出せなかったが、ようやく気付き綾瀬に声を荒げる。
「何してんだって!」
「助けに……行かないと」
それを聞いて姉崎はより一層冷静でいられなくなり声色を強めて綾瀬に向かって声を荒げる。
「馬鹿な事すんな! あたしらじゃどうしようもねえ存在だ!! もしかしたら向こうで戦ってる強え連中の戦闘が終わってるかも、そっちを呼びに行った方が……」
「それだと、間に合わない」
綾瀬にしては珍しくハッキリと力強く口にし姉崎は言葉を失う。
綾瀬は事故が起きた当時を思い出す。何も出来ずただ眺めるだけの自分。動き出した時はもう手遅れで何も出来なかった自分。何もしなかったのに原因をあいつに助けられた人たちだと決めつける自分を。
あいつはやっぱりすごい奴だ。
あんな訳も分からない状況でたった一人だけ走り出して、絶望的な状況でも最後まで諦めないで。
ほんとに、凄い奴だ。
だから僕も、そんな凄い奴に少しでも追いつけるように、少しでも走るよ。
綾瀬は徐々にスピードを上げ、ついには自分を奮い立たせるために鬨の声を上げ魔獣に向かって行った。その走り出した小さな背中を姉崎は見つめていた。




