第百五十八話 本心
綾瀬の話に姉崎は無言で聞き入る。自分の考えを吐露している間、綾瀬は姉崎と一度も目を合わせなかった。申し訳ないとか気まずいとかそんな下らない考えが先行して思わず目を背けてしまった。
短く話し終えると、姉崎は舌打ちをして「なんだよそれ」と静かに吐き捨てた。
別に姉崎が強くないからとかそんなことは微塵も思ってはいない。ただ単純に心配だったのと……いや、違う。
ただ単純に結局は自分一人で何とかしなくちゃという思いからの行動だった。
あの日あの場所で姉崎と百瀬が逃げるのに手間取ってなければ、あいつが居なくなることは無かったし、人生を賭けると言っても所詮口約束でしかない。過ぎてしまったことは仕方ないし、その人にはその人の人生があるから他人がどうこう言うことは出来ないし強制も出来ない。
信用とか仲間とかハッキリ言ってそれ以前の問題だ。
綾瀬にとって多少言葉を交わせる仲になったからと言って結局それらは他人でしかない。寧ろ道具に近いのかもしれない。
目的達成のために利用するだけの存在。
そう思って接していたが、流石にそれなりの期間を共にすると心が段々と罪悪感で蝕まれていく。姉崎の様子からそんな事気にするなと思われるだろうが、綾瀬はどうしても後ろめたさを感じてしまう。
お互い何も喋らず時間が過ぎていく。何かしらの答えを求める姉崎とそれを察して何か言おうにも言葉が見つからない綾瀬との間に気まずさを通り越した息が詰まる雰囲気が漂う。
その時近くから爆発音が聞こえる。
サラたちの方では無い。明らかに近くそれでいて門がある方から聞こえる。その音を聞いて綾瀬は顔を上げると姉崎と目が合う。
本当は他に言いたいことはあるが、そうも言ってられなさそうだ。綾瀬と姉崎は顔を見合わせすぐに門まで走った。
門が見えたと同時に目に入ったのは巨大な魔獣の姿だ。
四つ足で縞模様、鋭い牙と爪と獰猛な顔。見た感じは虎だが、すぐそばに居る人間と比べると余りにもデカい。
一軒が丸ごと肉食獣になっている感じだ。付け加えるとそれでいて空中に浮いている。
ただでさえデカいのにさらに上から人間を見下ろしている。正直あの場に行くのを躊躇ってしまうが姉崎が全くスピードを落とさないのを見て綾瀬も覚悟を決めて走る。
すると魔獣の口元が発光し始める。考える間でもない、明らかに口から何かが放たれる予兆でしかない。
「走れ!!!」
姉崎に向かって言ったのか、魔獣と対峙する人たちに向かって言ったのか分からないが綾瀬は無我夢中で叫び、数秒後に魔獣から放たれた光弾が地面に着弾すると大爆発を起こしその余波で綾瀬と姉崎は吹き飛ばされた。




