第百五十一話 一撃
「センパイ! レックスさんが!」
「心配すんな、アレくらいじゃくたばらない。それよりも急ぐぞ!」
数百メートルを一気に走り抜けケビンと綾瀬の元まで辿り着き、地面に刺さる槍を持ち上げすぐさま臨戦態勢になる。
辺りを警戒しながらもチラリとレックスを見ると苦しそうに息を吐き出しながら立ち上がろうとしている。
すぐにでもレックスの容態を確認しに行きたいが、奴の姿は見えないのに不安な空気が辺りを包んでいて迂闊に動くことが出来ない。かと言ってこのまま何もしなければレックスがやられる。
「ケビン、イブ。レックスを援護して」
「……お前は?」
「あたしは大丈夫、行って!」
サラの合図で二人とも勢いよく飛び出し素早くレックスに駆け寄る。ダメージは多そうだが幸い動けなくなる程でもないらしく、イブの手を取って何とか立ち上がる。
「お前も呆けてないでしっかりしな!」
サラは通信機を放り投げ綾瀬はそれをなんとかキャッチする。
「現状を通信で報告して! 早く!」
「は、はい!!」
一応この時に備えて非常事態時の通信や諸々の動きを確認しておいたので、多少ぎこちなくもサラに言われた指示をこなす。
仲間の安否を確認し、現状を素早く報告。辺りを警戒し攻撃に備える。リーダーとして取るべき行動を素早く行ったサラだが、心の中に引っかかりを感じていた。
(あたしは確かにこのガキとアレの間に槍を投げようとした。そう、あくまでしようとしただけで、実行には至らなかった。なのに……)
チラリと綾瀬の方を見る。
一丁前に心許ない武器を構え自分の背中を守ろうとする姿が目に映る。綾瀬の容姿を考えると何とも胸を打たれる光景だが、サラにはそんな感想は芽生えなかった。
まるで槍自体が意思を持ったかのように所有者でも何でもない一人の少年を守るために勝手に動いた。
その事実がサラの中に引っかかりを作り、ほんの少し集中を欠いた。
(クソッ……今はそんな事気にしてる場合じゃない! この子には後で色々と聞くとして、取り敢えず現状をどうにかしないと)
「綾瀬! さっき現れた奴の特徴は分かるか?」
「えっと……黒くて人型。で、でも顔は表情が無いというか、記号みたいな不気味な感じでした」
「異常個体……」
それを聞いてサラは顔をしかめる。脳裏に焼き付いたあの光景を鮮明に思い出し恐怖で手が震えはじめる。
だが、握りしめた槍から不思議と安心感が伝わってきて震えが段々収まって行く。
(大丈夫……あたしはあの時よりも強くなった、だから……)
その時虚空から黒い影が滲み出て来てサラに迫る。素早く静かに迫るソレを誰も認識出来なかった。
しかし、サラの持つ槍が瞬時に反応する。それを感じ取ったサラは攻撃が届くよりも早く奴に槍を叩き込んだ。
「そこお!!!」
叫びと共に放たれた槍の横薙ぎを諸に喰らい地面に体を擦りながら土煙を上げ吹き飛んだ。
「クソが!! ざまぁ見ろクソボケ野郎が!!! これからテメェのアソコを切り刻んでテメェの目と口に突っ込んでやっから覚悟しろ!!!」
あの時は成す術が無く蹂躙されるがままだったが、ここに来てその時の借りを返す一撃を奴に浴びせたことにより吹っ切れ、サラの心は呪縛から解放された。




