第百四十九話 嵐の前
調査本部で資料をまとめる岡田たちの表情は見るからに暗い。
先に起きた出来事、レベル2のエリアにレベル4の魔獣が姿を現す異常事態。無くは無い……が、そう簡単に起きる現象でも無ければ、レベルを一つ跨いだ魔獣が現れるのは以ての外だ。
「原因として考えられるのは、やはり……」
岡田が張り詰めた空気を切り裂くように口を開き、周りの人達も手を止め黙ってそれを聞く。
「フッ、一応異常気象の線も調べたけど、それらしい痕跡は無かった。にも拘らず『仁王』があんなところに現れた理由は1つしか無い」
皆が黙って岡田が喋るのを待つが、ここにいる全員が内心その答えを確かに予感していた。
「何かに生息域を追い出された……しかも、本能的に避けるはずのレベルの低い地域に逃げ込む程の、とびっきりの化け物に」
どうするかを考えるまでも無い、事態解決に向け何をすればいいのか。その元凶を討伐する。それしか無い。
時間が解決してくれるかもしれないが、その保証は無い。過去にこのような事例が報告されたことは無く、全く予想が出来ない。
さらに元凶はあらゆるレベル帯の地域で発見されている。つまりマナの境界が機能していない。本能的に避けるはずの低レベル地域への進出。そのストッパーが効かない事から考えられる最悪の展開。
「門を超えてこちらの世界に侵入するかもしれない……」
現状アレに対抗する手段は無い。
撃破報告は他の国であるにはあるが、多大な被害をだしようやく1体。現在もアレの脅威は無くなってはいない。
問題は山積み。そして岡田が独自に入手した情報……『異常個体』。
取り寄せた資料に書かれた謎の存在。一度綾瀬たちが遭遇した存在と今起きてる騒動の関連性など不確かな情報が岡田の頭の中で入り乱れ考えがまとまらない。
「とにかく、この件を上に報告してからこれからどう動くか考えましょう」
・・・
「あーあ、暇だなぁ」
異世界側の門の近くに作られた簡易キャンプの周辺を回りながらレックスはそう愚痴を漏らす。
「大体よぉ、悲観しすぎなんじゃねぇのか? どいつもこいつも大袈裟なんだよ」
隣を歩くケビンは聞くに徹して返事はしない。返事が無いことにレックスも慣れているためお構い無しに話し続ける。
そんな2人の後ろを綾瀬は少し離れて付いて歩いている。元の世界では聞き取れない英語で話していたためか、ここに来て何を言ってるのか分かってしまうことに内心改めて驚いていた。
すると、流石に反応の無いケビンに飽きたのか、振り返り綾瀬の方にレックスが向かってくる。一応周りを警戒しながら歩いていたのでいつの間にか目の前に大男が現れたことに、綾瀬はビクッと驚いてしまう。
「おいおい、そんな驚くなよ」
「す、すいません」
綾瀬の反応が新鮮だからかレックスはニヤニヤして面白がっている。
「おい、一々絡むな」
「良いじゃねぇかよ、コイツは一応俺たちのチームの外部要員で雇われてるんだからよ。コミュニケーションも必要さ」
流石にそれは見過ごせなかったケビンが咎めるが効果は無さそうだ。
「オメェはどう思うよ?」
「え? な、何がですか?」
「だからよ、俺の話聞いてたろ? ビビりすぎだと思わねぇか? うちのチビリーダーも、おたくのねぇちゃんもよ」
「いや、あれが正しいと思います」
「あ?」
それを聞いて綾瀬は考える素振りも無く迷わず答えていた。




