第百四十四話 直談判
全体的に白で統一された通路を綾瀬は少し緊張しながら歩いていた。目の前を歩く立花やここに通う者は特にそういった感情は薄れているだろうが、ただでさえ陰キャな綾瀬にとっては自分が場違いなのではと不安になってしまう。
「た、立花先生」
「先生……くぅぅ、いい響き」
「先生?」
「あ! ああ、えっと……うぉっほん! どうしたの綾瀬くん?」
何か変なものを見てしまった気もするが記憶の片隅、いや記憶の彼方に今見た光景を捨て去り気にしない事にする。
「えーと……や、やっぱり僕がここに居るのは、ちょっと……」
「何言ってるんですか、ちゃんと手続きして入館証貰ったじゃないですか」
「そ、うですけど」
「ていうか綾瀬くんが条件を提示してきたんじゃないですか。それだったら岡田さんに直接言うしかないですよ」
「いやそれだったら、電話とかでも……」
「岡田さんが物凄く忙しいの知ってるでしょ? だったら尚更直接会って話して早く済ませた方がいいに決まってるわ」
うっ……なんて言うかよく分からないけど、大人が言うと道理というか説得力がなんだかある気がして、上手く言い返せない。
何も言い返せずただ立花の後ろを綾瀬が無言でついて行くと心の準備もままならぬ間に岡田のデスクに着いてしまう。
「岡田さーん。連れてきました」
「うん、ご苦労さん。助手くんは適当に座ってて」
教師を兼任していた時もかなりの仕事量の筈だったが疲れなどは全く感じさせなかった岡田先生が、今では目に見えて疲れを感じさせる。
「で、話とは?」
正直こんなに疲れてるとは思ってなかった。こんな時に押しかけてしまった事に綾瀬は罪悪感で一杯になりうまく話始められないでいた。
「せっかくの時間が無駄になる。言いたいことがあるなら早く言ってくれ」
「あ、いや、えっと。ぼ、僕も! 調査に参加させて……もらいたい、です」
それを聞いて少しの間こちらを見つめハァっとため息をついて呆れたように視線を外す。
「綾瀬くん、今がどういう状況か分かってるでしょ? ただでさえ危険な場所が、物凄く危険になってるの。そんな場所にあなた達を連れて行くことは出来ないわ」
「で、でも……」
「ハァ……大人しいのは貴方だけだと思っていたわ」
「え?」
「向こうに行くことを禁止した翌日、他2人はすぐに私に文句を言ってきたわ」
「えーっと……なんか、すみません」
「いいのよ。で、貴方はちゃんと私の言うことを聞いてくれて感心していたのだけれど……まさかこのタイミングで直談判しに来るとは、恐れ入ったわ」
「す、みません」
今日だけで何回ため息を吐くんだと言うくらいの何回目かのため息をしてこの話は終わった。立花先生に連れられその部屋を後にした。
・・・
「もうセンパイどこ行ってたんですか? 急に引き返して」
「いやちょっと野暮用で、ね」




