第百四十一話 提案
綾瀬は午前の通常の授業が終わった途端、席を外し校舎の中を足早に進んでいた。午後からは変わらず訓練が始まるので急いで目的地に向かった。
学校に登校していつも通り机に突っ伏していると、巷で起きている事件の調査チームに合流した筈の岡田先生からメッセージが入った。
詳しい内容は書いておらず、ただ一文で1人で校内の指定した空き教室に来るよう指示され訳も分からず、飯も食わずに向かっているわけだ。
姉崎さんや霜月さんにはメッセージは入っていないみたいで、何なら2人には内緒にするようなニュアンスが含まれている。
一応トイレに向かうフリをしてここまで来たから多分誰にも悟られてはいない筈だ。
目的地の空き教室が見え、念の為周囲を確認して暗くて外からは様子が見えない教室に入る。
「えっと……失礼します」
「あ! こっちです綾瀬くん」
待っていたのは岡田先生の代わりに異世界の知識や訓練教官を務めてくれる立花先生だった。
明らかに教壇に立つことに慣れていない感じだったが授業は意外にもわかりやすく丁寧で生徒の質問に快く答えてくれる。
流石に岡田先生のように通常の授業も担当することは無かったが。
「この後は訓練ですからね、手短に済ませましょう」
「は、はい」
訓練と言ってもほぼ自主練に近い。立花先生は研究メインなのもあってか教壇に立つことは出来ても訓練の方はからっきしで、戦闘経験も何なら僕や姉崎さんの方があるくらいだ。
その為、立花先生は毎度訓練マニュアルをガッツリ読みながら僕らに訓練を施している始末だ。
僕はこの後の訓練を想像して、立花先生の言葉に苦笑いを浮かべるので精一杯だ。
「それで綾瀬くんに話というのは……」
立花さんの話によると現在発生している謎の黒い存在による襲撃。今、世界中でそれについて調査が行われていて、当然日本でも調査を進めてはいるが、他国に比べて被害が多いのも相まって調査は遅々として進んでいない。
そこで岡田先生は思うように動けない国内の調査員は起用せず、代わりに海外の知り合いと協力して調査を進める方針で行く事にしたらしい。だが世間に向けて調査しているとアピールしていた企業などは自分たちでは無く海外の団体と協力する岡田先生に反発。
独自の調査団体を立ち上げ門の権利を片っ端から買収して、今現在異世界に行ける目処が立たないらしい。
そこで……
「なるほど、そこで僕のスキルで門を見つけるんですね?」
「その通りです」
立花先生は岡田先生から僕たちの事情を聞いているのでこの事について話しても大丈夫な数少ない人の1人だ。
「事情は、何となくわかりました、結構……大変なんですね」
立花先生はアハハと消沈気味の笑いでその場を誤魔化した。
「だけどその代わり僕も条件があります」
「え!?」
僕の突然の提案に立花先生は素っ頓狂に驚く。
僕は目的の為ならなんでも利用する。それだけだ。




