第百四十話 困惑
「ウォルターこれは一体どういうこと?」
開口一番明らかに不機嫌な表情と声で自分に噛み付いてくるサラを全く意に介さず、ウォルターはいつも通りの優しい表情で彼女たちを出迎えた。
「忙しいとこ申し訳ないね。さ、かけたまえ」
淡々と言葉を発し宥めるそぶりさえ見せないウォルターにサラたちの不満は募るばかり。
「ウォルターさんよぉ、謝るんなら最初からしねぇでもらいてんだが?」
サラだけで無くレックスも不満を言葉にする。
「お嬢さんがた2人はしらねぇが、俺たちは金と大幅なレベルアップが出来るって条件で契約してるんだ。金だけだったらわざわざアンタらと契約することねぇんだぜ?」
レックスとケビンは元々軍に所属していたサラたちとは違い何処にも所属していない。門を見つけては異世界に行き魔獣や魔物を手当たり次第倒してレベルアップを繰り返す。その過程で手に入れた魔獣の死骸や素材を売り払って生活していた。
まあその過程でやらかし過ぎてお尋ね者になってしまっているが。
彼らは異世界で冒険、というより純粋に戦いを楽しみ目に見えて強くなっていくことに喜びを感じる戦闘狂と言える。
なので強くなれるなら言ってしまえば金は貰わなくても何なら良いくらいだ。
「君たちの意見も充分理解している。だがこちらも状況が変わってね」
そう言うとウォルターはタブレット型の情報端末にある記事を表示してサラに手渡す。
「?……これは!?」
サラはそれを見て驚愕し、その反応を見て他のメンバーもタブレットを覗き込む。
「なになに、調査隊が謎の黒い存在と遭遇……死者、行方不明者ともに多数。コレって例のアイツなのか?」
先程までの険悪なムードはどこに行ったのかレックスが記事を読み上げる。
記事には見出しの文と鮮明では無い画像が添付されていた。部屋にいる全員が撮影された異常個体を目にしているが撮られた角度や画像の荒さから同一の個体かはハッキリと判別できていない。
「サラ君はどう思う?」
この中で唯一異常個体を直接その目で見た彼女だからこそ分かる事もあると、ウォルターはそれも踏まえて質問する。
「……間違い無い。アイツだ」
しばらく画像を凝視してサラは答える。
「そうか……」
「だけどハッキリ言って今のアタシたちじゃ、歯が立たない。犠牲者が出始めたのは気の毒だけど、もっと強くならないと話にならない」
「お嬢またかよ。俺としてはもっとレベルアップしたいってのは賛成だがよ、俺たちも相当強えぞ?」
「これっぽっちじゃあ話にッ」
「それについても話があるんだ、一旦落ち着いてもらっても?」
「チッ」
ウォルターが場を仕切り直して話し始める。
「サラ君もう一度聞くがこの画像の個体は間違い無く異常固体で間違いないね?」
「何度も言わせないで」
「我々も概ねそうだと思っているのだが、不可解な点があってね、先ずはこれを見て欲しい」
タブレットには英語だけでなく様々な言語で書かれた記事が映し出される。他の言語に精通してるわけでは無いがウォルターの雰囲気や画像からこれら全てが同じような内容だと理解する。
「これ、は……嘘でしょ」
悪夢のような現実に眩暈がして立っていられない。あんな化け物が1体では無く複数、それもかなりの数いることに絶句してしまう。
「センパイ大丈夫ですか?」
イブが声をかけてくれてようやく現実に戻ってくる。
「ありがとう、イブ」
「えへへ」
「ウォルター聞いて。ハッキリ言ってもうこの作戦は失敗よ、始まる前から。もう異世界に関わらない方が身のためよ」
「サラ君、君の気持ちもよく分かる」
「わかってない!」
サラに刻まれた恐怖は未だ衰える事なく、寧ろジワジワとサラの心を泥沼に沈み込ませ容易に抜け出すことが出来ない。
「落ち着けサラ。まずはウォルターの話を聞こう。それからどうするか決めればいい」
静まり返った会議室に普段喋らない奴が口を開いた物珍しさと、この短期間でサラの信頼を得ていたのも相まってサラも一旦落ち着きを取り戻す。
「ありがとうケビン君。この推定異常個体による被害はアメリカだけで無く世界中で巻き起こっているのだが、先ほども言ったが不可解な点、ある情報を入手してね。それがこれだ」
映し出されたのはお堅い文章書かれたレポートだ。そこに書かれていた内容は、なんと異常個体の撃破報告だった。
「う、そ……そんな馬鹿な」
「なんだよ先越されちまったのか」
もうここに来てサラの頭は正常に稼働していない。今すぐ休息が必要なほど様々な感情や受け入れられない事実がグルグルと脳みそを掻き回してもう立っているのがやっとだ。
「我々もサラ君と同様『有り得ない』と思っていてね。内容によるとレベル3から4が数十人規模の、もちろんスキルを持ったチームで半数近く犠牲を出しながらようやく討伐したらしい」
「そこで君たちには世界中で遭遇するこの個体が本当に同一の個体か調査してもらう」
「どうやって?」
疲弊して喋れないサラに変わってケビンが質問する。
「アメリカ国内でも3件ほど確認されているが流石に我が国では広すぎて途方も無い。そこで……君たちには他国に比べて遭遇率が断トツで高い国に飛んでもらう」
「その国とは?」
「日本だ」




