第百三十七話 前兆
「綾瀬、ちょっと」
登校早々に姉崎さんから声がかかる。まだ人が少ない時間帯だから良かったものの人が多かったら大騒ぎ…… になる筈なんだけど、世間では、特に僕たち異世界に深く関わる者たちからしたら今はそれどころでは無い。
十中八九、姉崎さんが言いたい事はわかる。
「あんた見た? あのニュース」
「うん…… 見たよ。アレも多分だけど、『異常個体』の仕業だと思う」
数週間前、日本のとある企業所属の異世界探索チームが約半数に近い犠牲者を出して帰還した事件が起きた。詳しい聞き取りはまだで記事に詳細なことは書かれていなかったが、『何か』にチームが襲われたらしい。
その事件が起きた当時はそこまで世間の関心を引く物ではなかった。
よくある異世界の事故。
最近は調査員の装備や実力も上がりあまり聞かなくなった事件だが、起きないわけでは無い。世間的には事故に遭った人たちに対し、お気の毒、運が無かった、ぐらいの感覚だ。
だが後の聞き取り調査で判明したのは、チームの人数は13名、皆レベル2に到達しその内7名がスキル待ちだった。チームリーダーに関してはスキルを2つ知覚していて、ぶっちゃけこの集団にレベル2の魔獣や魔物では相手にならない。
まあ、その事を知った時にもう手遅れだったし、そもそも僕は訓練が忙しすぎて、そもそもそんな事件が起きていた事すら知らなかった。
状況が変わったのはそれから少し経った後。
世界中で、とりわけ日本において調査チームが事故に遭うケースが増え始め皆一様に何かに襲われたと口を揃える。手遅れと言ったのはもう既に犠牲者が何名も出ていたからだ。
そして海外のとある個人の調査員がSNSに投稿した動画がキッカケでその存在を皆が認識する。
動画の内容はマナ障害で画質はあまり良くないが誰が見ても1人の隊員が黒い何かにだんだん引き摺り込まれていく映像にしか見えない。
その悲痛な声と異世界の現実があまりに衝撃的で直ぐに削除されたが、流石は現代。消しても消しても後から出てきて削除するのは困難になっている。
各国や調査機関は可及的速やかに事件を調査し解決すると言うが、ハッキリ言ってアレと戦って生きていられるとは思えない。それに……
「でもおかしくねぇか?」
「うん。数が、増えてる」
「チッ…… ったくどうなってんだ? 異常個体はあの1体だけじゃ無かったのか?」
「わからない。もしかしたら何らかのスキルによるものかも知れない」
「これじゃあ、アイツを探すことも出来やしねぇ」
「とにかく普段通り訓練するしか無いよ。岡田先生もその件で走り回ってるみたいだから、僕らに出来ることは今は無いよ」
自分で言ってて情け無いが、下手に異常個体に襲われるよりはマシだ。
「チッ」
とにかく今はイラつく姉崎さんをどうにかして宥めて教室に目立たないように戻らなくちゃ。




