第百二十一話
「長老…… あれは、一体……」
皆が空を見上げ立ち尽くす。初めて見るはずの光景なのにも拘らず、何処か見覚えのある恐ろしい光景。
獣人たちの中に眠る古の恐怖の記憶が呼び覚まされる。
不思議とパニックで錯乱することは無く、こうなっては最早お終いだと諦め静かにその様子を見ていた。
立ち尽くし、項垂れ、中には涙する者もいる。我々は一体これからどうなってしまうのか、そんな分かりきったことを今更聞く者はいなかった。
だが、その諦めは一瞬にして掻き消されることになる。
火山の噴火と聞き間違えるほどの爆発音とともに身の毛の弥立つ絶望が駆け抜ける。
それはほんの数日前に到来した、外の神さまだとすぐに分かった。
「長老!」
「ウル…… か、どうした?」
「どうしたもこうしたもありません! 神々の争いにこのままでは巻き込まれてしまいます! 急いでここを離れましょう!」
「だ、だが」
この集落、ひいてはこのジャングルから離れなければ争いに巻き込まれるのは明白だった。
だが、このジャングルの外はちょうどマナの境目、本能的な忌避感からその決断に踏み切れない。たとえ踏み切れたとしても大人しく付いて来るかも怪しい。
ウルと長老そんな話をしてる時、アレから無数の何かが沸き出てくる。
大半は外の神さまに向かって行ったが何体かはこの集落に向かってくる。
自分たちが狙われてると分かると今まで堰き止められてきた不安が押し寄せ恐怖が伝播して行く。
逃げ惑う者、果敢では無く無謀にも天使に突撃する者、恐怖で錯乱し最早制御は出来なくなっていた。
獣人の戦士が天使を攻撃するも全く効いていない。逆にそのまま連れていかれそうになる。
ウルはその光景を黙って見るしかなかった。
むしろ私があんな事を…… そう思った時。
木々を薙ぎ倒しながら黒い何かが飛来し獣人を連れ去ろうとする天使をいとも容易く切り裂く。
石像のように動かなかった表情が苦悶の表情に代わりそのままむ塵となって霧散していく。
夜よりも黒く、光沢すら呑み込まれる研ぎ澄まされた刃に確かな気配を感じる。
その身に強大な力を宿しているにも拘らず、暴虐を尽くさず寧ろ矮小な存在に手を差し伸べる慈悲を持ち合わせた優しくも畏怖を兼ね備えた偉大な存在を。
ウルは心に誓う。
自分はこの黒き神に永遠に崇拝し、その在り方を信奉していくことを。
・・・
ハ…… ハックシャアイ!!!! あー……
ドシタ?
いや、なんか急にくしゃみが止まらなく。
カゼカ?
んなバカな。いや、俺の内側って意外と弱いから有り得るかも。
オダイジニ
どうも。




