第百十八話
渦巻く空から覗く何かの輪郭が徐々に顕になっていく。
だんだんと人の頭部に見えるそれは、やがて女性的な顔立ちに変わっていきその表情は慈愛に満ちた柔らかい笑みを浮かべ地上を見下ろす。
一目で女神の降臨を予感させる光景に俺は何処か不気味な不快感を抱いた。
女神に見えるそいつの瞳の奥に確かな深淵を感じたからだ。
何がどういった理由で顕現したのかわからないが、現れてしまった以上何かしでかす前にこっちから仕掛けるか。
と、マナを溜めた時。女神の表情が変わり澄んだ歌声が響き渡る。そして次に目にした光景に俺は驚きを隠せなかった。
あ、あれは…… まさか天使か!? 危険指定の魔獣じゃねぇかよ。
魔獣の中には『指定魔獣』と呼ばれるその特異な性質や特徴から保護、捕獲、観察、駆除といった具合にその魔獣に対する扱いを特別に定められたモノがいくつか存在する。
その中でも危険指定に分類されるのは撃破記録がほぼ無く討伐が困難または不可と見なされ、発見または遭遇した場合直ちにその場を離れ元の世界に帰還、その後門を完全に封鎖する処置を取られる類いの魔獣だ。
いやちょっと待て…… おいおい何体いやがるんだ!? 百、二百の話じゃねぇぞ。
女神から湧き出るように現れる天使一つ一つはただの点に過ぎないが、それがだんだんと数を増していき空を覆い尽くし始める。
しかもこの天使ども、ひび割れてねぇ。これが本当の姿か。
危険指定魔獣、通称『ひび割れた天使』
見た目は皆が想像する通りの絵画から出てきたような整った顔立ちに白い翼を待ち、その名の通り体中がひび割れている。過去に遭遇した時は顔や体の一部が欠損していた。
羽ばたく動作は一切行わないのにも関わらず空を飛び彫刻のように決まった姿勢、表情を保ちながら移動する。
スキルや生態は不明、何処から来て何が目的なのか未だに議論されている。
被害人数は二人。
危険指定と言われる割に少なく感じるが、こいつのヤバいところは過去二回遭遇し二回とも被害者が出ていることだ。
天使最大の特徴はこちらを排除しようとして来ない点だ。襲うという意味ではこちらを襲う事に間違いは無いが、決してこちらを殺そうとはして来ないし、攻撃しても反撃はして来ない。
天使はただ定めた目標に向かって行き捕まえたそれを何処かへ拉致する。
天使に対する考察で、マジに天に召されたなんて意見もあったらしいが強ち間違いでも無さそうだ。
コイツらは獲物をせっせこあの不気味な女神様に餌を運ぶ働き蟻みたいなもんだ。
そして……
俺は相棒に頼み両刃剣を生成し天使の群れに向かって投げつける。空気を切り裂き音を歪ませながら回転し、天使たちを呆気なく切り裂いて行く。
切り裂かれた天使は体液や臓腑を撒き散らす事は無く、割れるように消えていく。
ひび割れてたのは長い間働き彷徨って外敵の攻撃に晒されたからだ。まあ、どっちにしろコイツらは人類の手に負える相手じゃ無いってのは確定したが。
それより不味いな、このままじゃウルたちの集落に天使どもが向かっちまう。だけど、あのまま女神様を放置するわけにはいかねぇ…… よし。
俺は剣を生成し暗示をかける。
こいつでウルたちを守ってその間にアイツを倒そう。行けると思うか? 相棒。
イケルイケル
じゃあ早速行くか!
俺は剣を獣人の集落の方にぶん投げ、俺は俺で迫る天使たちに向かって跳躍した。




