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第百七話 自己紹介

「とまぁ、早速自己紹介と行きたいところなんだが…… この扉はどう落とし前をつけたらいいか」


 ウォルターが恨めしそうに扉とあたし達を見てくる。ウォルターはここ最近(原因は殆どこの槍のせいだが)あたしらの起こす傷害事件の対処に追われている。ついさっき起きたカフェの件もこの顔合わせが終わったら耳に入るに違いない。



「そ、それは」


「それはレックスのせいだね」


 うお!? ビックリした。


 あたしが何か言いかける前にずっと黙っていたケビンなる男が話し始める。



「レックスは2人が入ってくる瞬間スキルを起動して待ち構えていたからね」


「オイ! なんで一々余計な事を言うんだよ」


 慣れたようにケビンはレックスを無視する。



「彼女らが優秀という証拠かな、いやそれとも…… 優秀なのはその槍かな」


「そうか? 珍しい魔道具だが、()()()()()()()。特殊な効果でも付いてんのか?」


「雰囲気は大した事なく感じるけど、どこか誤魔化してる感じがするんだよね」


 マジか、()()()()()()


「やるねあんた。ケビンだっけ? あんた、この槍の凄さに気付くんだ?」


 あまりにも人類の手に渡るのが速すぎたこの槍は、その力の片鱗すら解き明かすことが出来なかった。


 物凄いマナを宿していて、現状この槍を破壊することは星が爆発しても不可能とされ、逆にこの槍で貫けないものはこの地球上には存在しないと断定されている。


 この槍で判明してる事を簡単に言えば、すんごい硬くて鋭くて、何故か浮いてペットみたいに後に続いて、主人を守ってくれる。


 これだけでもかなり凄い。各国、団体、企業が公開している魔道具の中にこれほどの機能を備えた物は他には無い。勿論世に公開されていない物もあるだろうが、確実に言えるのはこの槍ほどでは無い、という事だ。


 だが、この槍と一緒に生活して判明したことがある、それはこの槍が何らかの意思、自我のようなものを持っている事だ。


 別に話して意思疎通が出来るわけではないが、こちらの要求に応えるのは言うまでも無いが、その要求について考えてるような節がある。


 この機能が判明したおかげであたしは休む暇無く働く事になったのは、まあ置いとくとして。


 あたしはこのただでさえ目立つ槍に1つお願いをしていた。


『目立つな』


 日常生活であまりにも人の目を引きすぎたため、半ばヤケクソに言ったところ、見た目は全く改善されなかったが、この槍から感じられるマナが極端に小さくなった。


 最初、ウォルターや研究員がこの槍をまた調べた時、真っ青になった顔を今でも思い出せる。



「いや、わかった訳じゃない。ただ勘でそうかなって思っただけさ」


 こいつはある意味要注意だな。初見でこの槍の雰囲気を見破ったなんて、大抵の奴、この厳ついレックスとか言う奴ですら大した事ない魔道具くらいにしか思わないのに。



「さ! 話を戻そう。今回の扉の件はもう忘れて、互いに自己紹介でもしたまえ」


「そうは言ったって、こいつら強いのか?」


「なんだよ、散々な言われようだな」


「あんたらこのチームの目的を知ってんのか?」


 余裕そうにケビンが答える。変わらず本を読みながらこちらを見向きもしない態度に若干イラつきが募る。



「知ってるとも。異常個体(イレギュラー)の捜索及び撃破が目的だ」


「簡単に言ってるとこ悪いけど、アレはそんじゃそこらの三下が束になっても敵わない正真正銘の化け物ってことも当然知ってるわよね?」


「落ち着きたまえサラくん。彼らの強さは本物だ。槍なしで戦えば君らに勝ち目は無いのだから」


 不敵に笑いながらレックスが見下すようにこちらを見る。



「ま、そういこった」


「チッ」


「まあ、彼ら2人がいても『異常個体』に勝つのは難しいという意見には同意だがね」


「何だよそりゃあ、どういう意味だ優男」


 自分の事を明らかに下に見るウォルターの態度に静かに睨みつけるレックス。


 ウォルターもウォルターで肝が座ってる。こんな風貌の男に睨まれたら萎縮してもおかしくない。ここだけ見れば仕事の出来るエリート様だが、先程まで扉の修繕の事で頭を悩めていたとは思えない。



「言葉通りの意味だが?」


 1+1=2くらい当たり前の事を言うように返すウォルターの言葉に瞬間、レックスのマナが迸り並べてある机や椅子が吹き飛ぶ。


「どうやら俺の力がわからないらしいな…… ここで見せてやってもいいが?」


「ヤバいですよ、センパイ」


「落ち着けイブ」


 と言ったもののこれは冗談じゃ済まないぞこれは…… 仕方ねぇ。



「落ち着きたまえレックスくん」


「ハッ、舐められたまま落ち着けるかよ」


「『異常個体』はそれくらい脅威という事だ、わかってほしい」


「今ここでスキルをぶっ放して、どっちが『異常』か教えてやろうか?」


「おいレックス、その辺に……!?」


「一々五月蝿えぞ!!テメェは黙って……!?」


 いい加減触発の雰囲気に嫌気が差したのか、ケビンが止めに入ろうと声かけ、それを聞いて捲し立てるようにレックスが返事をした時、2人に同時に悪寒が体温を奪い、冷や汗が滝のように流れるほどの緊張が走る。


 レックスは背後に悍ましくただならぬ気配を感じていた。決して振り返るような馬鹿な真似はしない。その姿を見てしまった時自分が正気を保てる自信が無かったからだ。


 ケビンも刀を握り、いつでも必殺の居合を繰り出せる体勢になるが、体が動かない。自分の視界が正常に働かない。目を開いてるはずなのに暗く何も見えない。だが確実に目の前に何か居ることは確かだ。



「はい、落ち着いた?」


 さっきまで漂っていた尋常ならざる気配が嘘のように消え去る。2人が呆気に取られその場に立ち尽くす。まだ混乱は解けそうにない。



「サラ君、いきなりソレをやらないでほしいのだが」


 あれだけ肝が据わったウォルターもコレにはさすがにまいってしまったようだ。



「そのおかげで助かったでしょ。文句言わない」


「待て。待て待て待て! そいつは一体何なんだ!?」


 動揺を隠せないレックスが問い詰めてくる。ケビンもこの槍の違和感には気付いていたがここまでとは思ってなかったらしい。レックスの問いかけにあたしがどう答えるか耳を傾けている。


 でも……



「待て、その前に自己紹介だ。あたしの名はサラ、こっちのデカいのがイブ」

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