第百五話 休暇明け……
「うううううん…… ハアーー。」
自分の体の小ささを恨んだこともあったが、人よりベッドを大きく使えるのは数少ないこの体の利点だ。
華奢な体をバキバキと鳴らしながら解していく。何時間も寝たはずなのにあまり疲れが取れてる気がしない。
あたしがベッドを降りて何か飲み物でも、と歩き出すと傍に飾るように置かれた黒い槍もあたしの後を浮かんで付いてくる。
もう良い加減慣れた光景に今更何か言うつもりはない。
オレンジジュースをぐいっと飲み干し適当に朝食を摂りつつテレビを点けて時間を潰す。
あたしと同じ部隊に居たイブは軍所属では無くなり、アメリカ異世界管理局所属となりあの規則正しい堅苦しい生活とはおさらばし、ようやく人の生活を取り戻したと言うわけだ。
と言っても病院で目覚めた後、槍の性能テストやら何やらでしばらく休む暇が無く、挙げ句の果て2度目のマナ衝撃波のお陰で異世界に駆り出される始末。
極め付けは、もし『異常個体』と遭遇したらどうするんだと問い詰めた結果、その槍で撃破しろと言われる始末。
何処に行っても上の連中の頭はイカれてるらしい。
幸いだったのは『異常個体』に遭遇しなかった事、又発見もされなかった事、何よりなのはマナの境界が多少ズレてはいたもののこの前の様な奇跡的な現象は起こらなかった事だ。
再びアレをやれと言われたらあたしはもうとっくにこの国を出ていた事だろう。まあ、それにしても未だこの国の為働いてる自分に驚きを隠さないが。
流石にブッ通しで働き詰めなのでウォルターの野郎に槍を突きつけ休暇を要求したところ、快く休暇をくれたので今の所はまだ国を出るつもりはない。
テレビにも飽きて一段落したところでシャワーを浴びて外出の準備を始める。
今日はどうしてもと、イブに一緒に外を出歩こうとせがまれてしまったので仕方なくの外出だ。
面倒くさいがあいつには結構な貸しがあるし、可愛い後輩でもあるため今日くらいは特別だ。
あたしは元の暮らしのこともあり、あまり都会の雰囲気とかに詳しくないんだが、そこら辺はアイツが上手くやってくれるだろう。
家を出て槍が外に出るまで扉は閉めない。
1度ちょっと買い物に行こうと家を出て鍵を閉めたところ、いつの間にか後ろに浮かんでいて、帰ると窓が突き破られていたことがあったからだ。
ここまで来ると、槍という名のペットを飼っている気分だ。
実際はそんな可愛い物でもないが。この見た目のせいか舐められることが多く、ひったくりの標的等によくなるが、盗られる寸前に槍がそいつを吹っ飛ばした事も多々。
見ていて気持ちのいいものだけど、その後は決まってめんどくさいことになる。そうなる前に逃げるし、なってもどうにかなるから良いんだが、如何せん多すぎる。
さっきペットみたいとと言ったが、「やり過ぎるな」と言い聞かせたところ意外にも言うことを聞いて、今あまり吹っ飛ばさなくなった。
ハア……
その事をウォルターに伝えたらまた1週間ほど検証する羽目になったけど。
「あ! センパイ!こっちでーす」
デカいからわかるっての。
イブがこちらを見て飛び跳ねてあたしのことを呼ぶ。タダでさえ目立つ外見なのに余計に目立つ真似するな。
「イブ、わかったから落ち着けって」
「センパイに会えるのが嬉しくって! あ、スピちゃんもおはよう!」
スピちゃんとはこの槍のことだ、イブ曰く名前をつけてあげた方が可愛いし槍も嬉しいとの事だ、結局イブしか呼んでないが。
「取り敢えず早いとこどっか入ろうぜ、周りから変な目で見られてるから」
「はーい! じゃあまずはあのお店に行きましょ!」
「はいはい」
それから1軒目の店に入って甘い飲み物を飲んでいる時だった。
突如ウォルターから至急管理局まで来るよう連絡が入る。
あたしはため息を吐くも、仕方ないと思い一度家に帰って準備するからイブもそうしろと言おうとして、ギョッとする。
イブが今まで見たこともないくらいマナを迸らせ今にも爆発しそうだ。
「お、おいイブ……?」
「せっかくのセンパイとのデートなのに!!!」
ドンと机を叩き割り、店が揺れた。そしてイブはその場に泣き崩れてしまった。
「ちょっとあんた達、何してくれてんだ!?」
「! 請求は異世界管理局にツケといてくれ、あたしたちはこれで! おい!槍もこいつを運ぶの手伝え」
あたしがイブの右肩、槍が左肩を持ち上げ飲み物の代金だけ置いてそそくさと店を出る。店主はまだ何か言ってるが無視して行く。
仕方ないのでこのままイブも連れて家に帰ろう。
ハア…… 休まらない。




