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第百四話 繋がり

 人の手には決して負えない、触れるもの見たもの、その全てを悉く蹂躙してきたそんな強大な力の持ち主が、今はなりふり構わず一歩でも遠くに逃げようと必死に山を越え森を抜け野原を駆ける。


 進化し感情という生き物特有の感性を身に付けてしまったが故に初めて感じる『恐怖』という湧き出る負の感情に魔物はただひたすら、感じとった存在から逃げて逃げて逃げ続ける事しかできなかった。



 コワイ…… コワイ。



 魔物は元々、現象に近い存在だったからか、ソレに近づき槍を手にした時は、恐怖という感情をあまり感じてなかった。寧ろ槍を手にしたことで溢れんばかりの高揚感に包まれ、それ以外の全てがどうでもよく思っていたくらいだ。


 しばらくはその絶頂に包まれ、何をしても楽しくて仕方がなかった。



 だが


 突如としてその絶頂は奪い去られる事となり、それまで感じていた、溢れていた幸せは転じて激しい怒りとなった。


 初めて味わう耐え切れないほどの怒りと屈辱。腹いせに偶然通りかかった空の獣を蹂躙するも決して心が満たされることは無かった。



 憎い。何もかもが憎い



 許せない。全てが



 自分の思い通りにならない事に腹を立てる子供のようだが、コイツの場合は殊更タチが悪い。


 目に映る全ての生物を無慈悲に手にかけ少しでも気を紛らわせながら、あの忌々しい、弱く、矮小なそこら辺の石ころと何ら変わらない存在と似たマナを持つ存在を探し回った。


 だが、それは魔物が考えているほど甘くは無かった。


 人間はそもそも別世界の生き物で、門という特殊な現状でこちらの世界に足を踏み入れる存在だ。この広大な異世界で塵にも等しい門とそこからやって来る異界の者をを見つけるのは至難の業。


 あれから何日も月日が経ったが、最初に遭遇した者たちを除けば未だにその足跡、痕跡一つ見つける事ができなかった。


 普通なら忘れてしまっても良い頃合いだが、魔物の執念は色褪せなかった。


 それどころか、怒りは日に日に激しさを増し、その仮面のような顔の奥にドス黒い炎が激しく燃え盛っていた。



 そして……


 ついに魔物はあの時の忌々しい存在と似たマナを感じ取った。


 探していたものをようやく見つけ出し、怒りに燃えていたはずの感情が少しだけ歓喜したことを不思議に思いながらもそのマナを辿りようやく見つけ出した。


 が、その歓喜もすぐに無くなる。


 顔を見分けるのは魔物にとって結構難しいが頭の毛の色や身長、纏った色とりどりな皮などから、あの時の同一の個体かを見極めていたが、身の前に居るのは明らかにあの時とは違う個体なのが見て分かった。


 よくよくマナを感じ取ると、あの時の奴のマナでさえ小さかったのに、こいつらと来たらそれ以上にそれ以下だ。


 だんだんとこの種族にバカにされてる様な気分に陥る。


 沸々と湧き上がる怒りを鎮めるため、今までは悲鳴を上げる暇も無く息の根を止めたが、こいつらは久々に痛ぶってから殺そう。


 だが、この傷ついてる個体は殺そう。これじゃあ楽しむ前に死んでしまうからつまらない。


 魔物はそう思い傷つき気を失っている個体に近づきトドメを刺そうとする。仕舞い込むにも値しない石ころはさっさと片付けるに限る。



 ソレ、ハ。ダメ



 そして手を触れる瞬間、感じ取る。


 魔物として元々備わっている能力が災いし、物理的にではなく精神的に、あの化け物と目を合わせてしまった。


 此処よりも彼方。地平の先の先。山や谷、海を越え大陸を横断した先に居るはずの化け物が自分に喋りかける。


 魔物は即座に手を離し、すぐさまその場を離れる。その顔は恐怖に染まり、体は勝手に逃げ出す。


 しかし


 その奥底に燻る復讐の炎は未だに消えない。

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