第百三話 真相2
「黒い化け物・・・ 」
一瞬、時折り夢の中に現れるアイツを想像するが、その考えをすぐに振り払う。
いや、そんなわけ無い。だってアイツは・・・
「どんな奴ですか!ソイツは!」
珍しく僕が声を荒げたので皆が驚く。仮にも怪我人なので先生が落ち着かせる。
「落ち着いて綾瀬くん。大きさは人間とあまり変わらないけど、体の大部分が霧のような黒い靄に包まれて、点を3つ描いただけの仮面の様な顔をしている、おそらく魔物よ」
それを聞いて僕は安堵する。
よかった。アイツじゃ無さそうだ。
「それから…… どうなったんですか?」
僕はおずおずと霜月さんに聞き返した。
「あの黒い化け物は突然現れたの。何の前触れもなく突然……! いつの間にか猿たちの後ろに立っていてそれから……」
霜月さんは言葉に詰まってそれ以上喋れないでいた。余程怖いものを見たのか少し体が震えている。それを見かねた姉崎さんが続きを話し始める。
「奴を見た猿共は本能で分かったんだと思う『こいつはヤバい』って、全員が蜘蛛の子散らすように逃げ出して行ったよ。あたしと戦ってた『濡れ手』でさえね」
「それで僕らは助かったの?」
「結果的には、ね」
その時のことを思い出してるのか自分を嘲笑しながら姉崎さんは続ける。
「猿共が逃げ出した瞬間、奴の腹から無数の黒い触手が伸びて逃げ出した猿と周りに居たやつ、多分門の近くであたしに寝かされた猿、全てがその触手に捕まって、悲鳴を上げる暇も無く奴の腹に取り込まれていったの」
自分落ち着かせるようにため息のような深呼吸を吐いて
「正直言って、スゲェ怖かった」
その一言がその時の状況を鮮明に物語っていた。本能で動く獣をこれほど羨ましいと思うことがあるだろうか?
中途半端に知性を得た人間は自分の理解を越えた得体の知れない超常の存在と直面した時、何もせずにただ立ち尽くす事しか出来ない。
「偶然何が起こってるか理解できなくて、ただその場で突っ立ってたら攻撃されなかった、それだけ。でも、あたしが奴を見て思ったのは、別にあたしらを助けるつもりなんて1ミリも無いってこと」
幸運なのはそれを理解できなかったお陰で、彼女らはソイツの攻撃対象から外れた事だった。
そして
幸運は彼女らだけに降りかかった訳では無かった。というより最初から僕の内でソレは繋がっていたので、寧ろ必然と言えるかもしれない。
「その証拠に、奴は猿共を片付けてからあたしらのことをじっと見た後、様子が変わった。なんだか怒ってるようなイライラした感じ」
「それが少しわからないのよね、私は見てないから正確にはわからないけど、目と口の部分に穴が空いたような顔なんでしょ? 表情や感情が見てわかるの?」
「……私もそう感じました」
だいぶ落ち着いたのか、ゆっくりと霜月さんが喋り始める。
「あれは確かに怒ってるような、イライラした感じでなんて言うか…… 子供の癇癪みたいな」
「姉崎さんだけじゃなく霜月さんも…… まあ、実際に見た2人が言うのなら仕方ないわね。確かめる術も今は無いし、ごめんなさい話を続けて」
「て言っても、もう終わるところなのよね。奴はその後綾瀬の方に近づいて手を伸ばしたの」
「え、僕!?」
「そうそう、一番弱ってたからじゃない? 勿論止めようとしたわよ、だけどね。奴が綾瀬に触れる直前、ピタッと動きを止めたのよ」
「ど、どうして?」
「知らないわよそんなの。奴は綾瀬の前で数秒動かないでいたら急に飛び退いてどっかに行っちゃったのよ」
「そうなんだ……」
何処か腑に落ちない話だが、まあ助かったのなら今は良しとしよう。
「そういえば」
霜月さんが思い出したように呟く。
「さっきの化け物の表情や感情がわかるのかって話ですけど、それで言うと綾瀬くんに触ろうとした化け物、一瞬しか見れなかったけど…… なんだか怖がってるように感じました」
それを聞いて姉崎さんがすかさず声を発する。
「え!? 綾瀬の何処を怖がるって言うの?」
だからなんでこの人はハッキリとここまで言えるんだ。
でも……
奴は感じたんだ、僕が繋がってるアイツの事を。




