第百二話 真相
すいません、こんな話ばっかで。
「話、ですか?」
なんでこんな不穏な空気が漂うんだ? まさか実は僕の余命はあと少しとかそんな話題じゃ無いよね?
「まず、あなた達2人が助かった経緯なのだけれど」
あ、良かった。どうやら僕の命に関する深刻な話では無いようだ。まぁ当たり前か。
「えっと、姉崎さんが助けに来てくれたんですよね? 僕のメッセージを見て」
そうあの時僕は、霜月さんが門にヅカヅカ入って行った時に一応万が一を考え姉崎さんにメッセージを送っていたのだ。
「結果だけ見たらそれは・・・」
岡田先生が何やら少し考え込む。その様子を見た姉崎さんがすかさず口を挟む。
「あたしはアイツが助けてくれたなんて思って無いですよ」
語気を強め先生に言葉をぶつける。一応僕らの先生で教官でスポンサーなんだから、もう少し敬意とかそういうのを持って接して欲しい。
それを聞いてハラハラするこっちの身にもなって欲しいものだ。
「当然。私も、あの存在がそんな付け入る隙があるようなモノだとは思ってないわ」
どうにも曖昧な表現だ。『アイツ』とか『あの存在』とか。文脈から察するに、僕はどうやら姉崎さんとそこに居合わせた『何か』に命を救われたらしい。
だけどそれならお礼の一つでも言っても良いくらいだが、そういうわけでも無いらしい。
はぐらかされるように言葉を濁され映画のCM明けを待つような気分だ。
流石の僕でも業を煮やしてしまいそうだ。
「あの、向こうで僕の身に一体何があったんですか?」
先生は再び何かを考えた後、静かに口を開く。
「この話をする前にまず、霜月さんをどうするかね。アレに関わった以上、この話は無関係とも言えないけど・・・」
だが、霜月さんは食い下がって帰ろうとしない。やはり彼女も彼女で何やら並々ならない事情があるみたいだ。だからあんなに向こうに行くことに焦ってたんだ。
「お願いします! 私もここに・・・」
「つーかさー、あんた何でこんなに関わってくるわけ? あたしは納得してないけど、綾瀬は許すみたいだから、もう口出ししないけど、もうあたしらとは関係ないでしょ」
すごい。なんでこんなオブラートに包まずにズバズバものが言えるんだ? まあ、何か理由があるのは確かだから関わる以上知っておきたいっていうのは無きにしも非ずだけど。
「姉を・・・」
「姉?」
今にも泣いてしまいそうな、か細い声で霜月さんは続ける。
「私がまだ小さい頃に、異世界に取り残された姉を見つけ出したいの…… 何としても」
……。
「……確かにそれは、まあ気の毒って感じだけど、それとこれはまた別の話よ」
結構酷い言いようだが事実でもある。僕たちには僕たちの目的があって、彼女には彼女の目的がある。この部屋にいる人間は霜月さんを除いて、一つの目的のために動いている。彼女はあくまで部外者でしかない。
でも
「ま、まあ、話を聞いてくくらい、良いんじゃないかな」
「ハァ・・・まぁいいけど」
ごめん姉崎さん。でも、大事な人が居なくなる悲しみはよく分かるから。それが家族ともなれば尚更。僕はまだ数か月だけど、彼女はもう何年も探し続けて心が疲れ切って余裕が無かったんだと思う。この話が彼女の目的に近づくかは分からないけど、同じ悲しみを持つ者同士これくらいの贔屓はさせてもらうよ。
「よし、話はまとまったみたいね」
全員が先生を見据え特に異議を答える事は無く、黙って話を聞く姿勢を取る。
「では話を戻して最初から、まず二人が助かった経緯だけど『凶手』の群れに襲われているところに駆けつけた姉崎さんがその群れをなんとか追い払ってくれたの」
「余裕でしたけどね」
概ね予想通りの展開だ。こうなる事を半ば祈ってあの猿共と戦ったんだから。僕の望んだ結果になったことがちょっとだけ嬉しい。
「だけど問題はそこから、傷の激しい綾瀬君を姉崎さんが門まで運ぼうとしたのだけれど、『濡れ手』と呼ばれる『凶手』の上位個体が姿を現したの」
『濡れ手』と『凶手』は種族やスキル、マナの総量などの違いは無く知識や戦闘経験を多く蓄え長生きした歴戦の『凶手』をその見た目から『濡れ手』と呼んでいる。
『濡れ手』はその名の通り、手が返り血で変色しておりそのスキルで敵を何体もその手刀で貫いてきた証だ。
「姉崎さんは『濡れ手』と交戦するも雲行きは怪しかったみたい」
「あのままやれてれば勝ってましたって!」
「ハイハイ、そうね。続けるわよ」
相当悔しかったのだろう、見ては無いが姉崎さんの態度からその時の気持ちが窺える。
「そいつがどうかしたんですか?」
「いや、綾瀬君。問題はこの先よ」
「え?」
「姉崎さんと『濡れ手』が戦ってる時にソイツが現れたの」
実際にそれを目にしたであろう霜月さんが口を開く。同じくそれを見た姉崎さんも顔色が悪い。
「黒い化け物が」




