第68話 ~深雪side~ 説明するたび、少しだけ
「私、『アルビノ』なんです」
そう言うとき、私はいつも少しだけ笑うようにしていました。
相手を安心させるためでした。
驚かせてしまってごめんなさい、と先に伝えるための笑顔。
小さい頃から、そうやって生きてきました。
男の子は、私の言葉を聞いた瞬間、ひどく静かになりました。
傷つけないように言葉を探している、というより、何か大切なものを突然目の前へ置かれてしまったみたいな顔でした。
私はその表情を、少しだけかわいいと思いました。
たいていの人は、「かわいいね」とか、「すごい髪だね」とか、「本物?」とか、もっと軽い驚き方をするからです。
でも男の子は違いました。
まるで、自分の中のどこか深い場所まで光が差し込んでしまったみたいに、黙って私を見ていました。
始業式が終わるころには、彼はもう教室からいなくなっていました。
逃げるみたいに帰ってしまった背中を見ながら、私は少しだけ胸が痛くなりました。
「怖がらせちゃったかな」
そんなことを考えました。
でも、不思議と嫌な気持ちではありませんでした。
むしろ私は、その背中が気になっていました。
春の風が、窓の隙間から教室へ入り込んできます。
私はぼんやり窓の外を見ながら、自分の白い指先を眺めました。
光を多く集めてしまう肌。
薄い髪。
生まれたときから、私は「目立つ」存在でした。
小学生の頃は、「雪女」と呼ばれたこともありました。
中学では、廊下ですれ違う知らない生徒に「コスプレ?」と笑われたこともありました。
電車では、視線だけが何本も肌へ刺さる日もありました。
だから私は、先に言うようになったのです。
「アルビノなんです」
説明してしまえば、人は安心するから。
「知らないもの」ではなくなるから。
けれど本当は、説明するたび、自分が標本みたいになっていく気もしていました。
珍しいもの。
綺麗なもの。
少し不気味なもの。
そうやって誰かの中で名前をつけられていく。
家に帰る途中、私は男の子の顔を思い出しました。
あの人は、たぶん今頃、私のことを調べている。
なぜだか、そんな気がしました。
そしてその想像は、不思議なくらい鮮明でした。
パソコンの白い光の前で、真剣な顔をしている姿が目に浮かぶ。
「アルビノ」
「神聖」
「珍しい」
「弱い」
「生きづらい」
そんな言葉を読んでいるのかもしれない。
私は小さく息を吐きました。
夕方の光が、空気の上で滲んでいる。
本当は、どれも少し違うのにな、と思いました。
私は神聖なんかじゃない。
綺麗な存在でもない。
まして、観賞用なんかじゃない。
ちゃんと傷つくし、怖がるし、夜には泣く。
眩しい光が痛くて、夏が苦手で、人の視線に疲れてしまう、ただの女の子だ。
でも。
もし男の子が、それでも私を知ろうとしてくれているのなら。
表面だけじゃなく、「私」を見ようとしてくれているのなら。
そのことが、少しだけ嬉しかった。
春の終わりの風が、白い髪を静かに揺らしました。




