第65話 ~深雪side~ きっかけ
まりちゃんの死は、私の中にひとつの小さな灯りを残していきました。
それは、ただ「失明」という現実へ向かうしかなかった私の時間を、そっと別の方向へ手で導くような、かすかなきっかけでした。
見えなくなるそのぎりぎりの瞬間まで、私は「見えるものを見ておきたい」と思うようになりました。
あれほど元気で、陽の色をそのまま写したように真っ黒に笑っていたまりちゃんが、静かで真っ白な骨へ変わってしまい、二人で積み重ねていた時間が、彼女がいなくなった途端、ぱたりと止まってしまったからです。
私は視覚障害者でも通える大学の存在を知り、普通の勉強に加えて点字の練習を始めました。
そして週に一度はミュージカルや動物園、美術館へ足を運ぶことにしました。
「見えるうちに」という焦りではなく、「いまの私が触れられる世界を確かめたい」という、静かな願いに背中を押されて。
その時間を支えるために、そして人の息遣いや気配を知るために、私はコンビニでアルバイトを始めました。
レジ越しに交わされるささやかな会話や、一瞬で通り過ぎる表情の陰影が、どれも残り少ない私の視界に深く刻まれていきました。
まりちゃんの「死」は、確かに私にきっかけを与えてくれました。
いいえ、きっと私は、それをきっかけに前へ進まないといけない、と心のどこかでそっと気づいたのだと思います。




