第64話 ~深雪side~ 白い遺骨と、金色のイヤリング
まりちゃんの葬儀は、静かに鐘の余韻が漂う教会で執り行われました。
彼女がキリスト教徒だったことを、私はその日、初めて知りました。
キリスト教では、死は悲しみではあっても「忌まわしいもの」ではなく、天へと魂が帰るための扉なのだというそうです。
けれど私には、その「魂が帰る」という言葉はあまりにも優しすぎました。
私にとってまりちゃんの突然の事故死は、どうしても受け入れられない、「忌まわしい現実」そのものでした。
受付を終えると、私とお母さんは教会の薄暗い内へ足を踏み入れました。
ステンドグラスの光が静かに揺れるキリスト像の前には、白い棺が置かれています。
参列者が一斉に立ち上がり、私もそれにならって視線を入口へ向けます。
司祭らしき人と、喪主のまりちゃんのお母さんがゆっくりと入堂してきました。
お母さんは最前列に、司祭は棺の横に立ち、淡い光の中で聖水がすっと宙を描きました。
その一つひとつの儀式を、私はどこか現実から薄く隔てられた場所で眺めていました。
まるで誰かが撮った映画のワンシーンを、感情の抜けた目で追っているように。
やがて聖書朗読と説教が終わり、参列者全員がまりちゃんへ心を向けて祈りを捧げました。
私はそっと唇を開き、ただ一言だけつぶやきました。
「まりちゃん……」
祈りでも願いでもない、涙の手前で止まった呼吸のような声が、ひっそりと胸の奥で吸い込まれていきました。
式が進み、献花の時間。
私とお母さんは花を手向け、静かに手を合わせました。
まりちゃんのお母さんに向かって礼をすると、小さく震える声で「ありがとう……」と返されました。
その一言が胸に触れた瞬間、張りつめていた心がふっと軋みました。
式が終わると、私はまりちゃんの火葬にも立ち会わせてもらえることになりました。
親族以外でその場にいたのは、私とお母さんだけでした。
棺の中のまりちゃんは、あの夜と同じワンピースを身につけていました。
まりちゃんのお母さんはそっとその耳からイヤリングを外し、両手で包みながら私に差し出しました。
「よかったら受け取ってあげて。真理愛も、きっとそう望んでいるから」
私は両手でそれを受け取り、胸の上で強く握りしめました。
火葬炉の扉が閉まってからの時間、私はずっとイヤリングを抱きしめ、目を閉じていました。
どれほど待ったのかはわかりません。
けれど、時間の感覚だけが遠くへ溶けていきました。
「ほら、深雪……」
お母さんの声に促され、ゆっくりと目を開けました。
炎の向こうの時間を通って戻ってきたまりちゃんは、もう白く静かな遺骨になってそこにいました。
私は左手のひらにイヤリングを包み、自然と右手でまりちゃんの左の小指の骨に触れていました。
きっとあの言葉を思い出したからです。
「ピンキーリングを左手につけるのは、『人との絆を深めたい』って意味があるらしいよ」
まりちゃんがそう笑って話してくれた日の光まで、記憶の奥でそっと揺れました。




