第133話:グレイブ・スチーラー現る
<マップでの3階に牢屋があって、捕まってる人たちがいた。でも敵も出て来ちゃって、ちょっとマズいかも>
ブラッキで回復も済ませて移動を始めた時、高松さんからメッセージが届いた。ビジナを出た時は排水溝に入ったばかり、ブラッキに着く頃は2階に上がったところと言ってたから、かなり早くに辿り着けたようだ。それも、そこまで誰にも見つからずに。
<敵は、人?>
<うん、それもボスクラス>
となると、メタリックカンパニーの幹部か。上等だ。
<僕は今ブラッキから向かってるところだから、しばらくはお願い>
<分かったわ>
製造業の幹部とは言え、相手が本社ビルを一夜で潰した魔法使いだと分かった上で堂々と現れている。侮らない方が良さそうだ。
むしろ、嫌な予感がする。急ごう。徒歩でも多少はモンスターにMPを消費するんだ。近くまで飛ぼう。正面入口に見張りがいるらしいが、木より上に出なければ見えないだろう。
5~6分で山の近くに着いた。確かに、南西向きに入口があって見張りが2人いる。
<大村君のこともバレてるみたい。正面から来てもいいよ>
何だと・・・。気付かれてるのは、まだいい。堂々と招き入れるのは、何だ・・・? 甘く見られているのか、よほどの自信があるのか。いずれにしても、俺も牢屋の所まで行く必要がありそうだ。
そのまま前に出て、正面入口に向かって歩いた。見張りたちも既に知らされているのか、驚く様子は見せない。俺も足を緩めずに坂を上る。
「大村、佑人だな。工場長がお待ちだ。入って右の階段を上がり、そのまま道なりに進め」
「ありがとうございます」
念のため、お礼はさせていただこう。杖を横に振って雷を出した。
「「ぐああぁっ!!」」
見張りは倒れた。そのまま足を緩めずに工場の中へ。それっぽい機械がいくつも並んでおり、コンベアーで移動する金属の塊を加工し、またコンベアーで次の工程へ。この正面口から出荷するのか、この位置から見えるのはほぼ完成形に近いものとなっている。
「・・・」
あれは、あのAIロボだ。こんな所で作っていたのか。アカデミアでの暴走事故―――あれも仕組まれたものだったが―――の後も作り続けていたようだな。
となると、連れて来られた人たちは工場の稼働をさせられているはずだが、人はおらず、ほぼ自動化されている。牢屋にいる人たちで全部だろうか。
あまり時間を掛けると怪しまれる。行こう。ここは工場エリアの中で、右には南北に走るガラスの壁、その南端にはドアがあり、奥には階段が見える。ここで既に、マップ上では2階のようだ。1階は排水溝だけか。
階段を上がって3階へ。ガラスの向こうに工場が見渡せる。西だけでなく、北側にも広がっているようだ。右側の石の壁はしばらく進んだ先で途切れており、右に曲がると広い空間のようだ。おそらくそこに役者が揃っている。マップを見る限り、女性陣は東側の階段から上がってきたようだ。
壁の端に差し掛かり、広い空間に出ると同時に、
「ぬっ・・・!」
見えた敵に対して無言でサンダーランスを出した。これで気絶しない辺り、やはり只者ではなさそうだ。
<一気に行こう!>
<う、うん!>
挟み撃ちになっている今がチャンス、そう思って2人で攻撃を仕掛けに行ったが、
「ふんっ」
突然長い鉄の棒を取り出して素早く回し、360°方向に攻撃してきた。高松さんも俺も止まった。不用意に近づけない。
「「っ・・・」」
「随分とご挨拶だな、懸賞金が掛けられるだけあって気が短いらしい」
「そっちは随分と余裕がありそうだな。気が長いようで何よりだ」
「スノーウィーン工場に、ビジナの本社ビルに刑務所、そしてこの工場。気が短いにしては、狙いは悪くない」
「まだまだやるべきことがある。早く済ませてビジナに戻らせろ、もう話し合いのレベルではないだろう」
「ふんっ、本当に気が短いな。また、スターリー神殿のような奇跡が起こせるとでも思っているのか?」
「今度は奇跡じゃない、革命だ。一緒にどうだ? 国の手足になるのは疲れただろう」
「疲れなどしない。使役ではなく、協力関係だからな」
「そうか。では行くぞ」
杖を振り、雷を出した。だが敵は鉄の棒を投げて盾にした、さらに、
「なっ!」
石の床からまた長い鉄の棒が現れ、足が払われた。体が宙に浮いたところに、放り投げられた方の棒が振り下ろされる。こちらも床から石を取り出して盾にしたが、
「ぐっ・・・!」
そのまま床に叩きつけられた。
「オーステナイト」
「っ!」
鉄の棒が赤く光るのが見え、反射的に避けた。石造りの床が黒く焦げていた。火属性魔法で熱したのか・・・?
「んっ!」
「くっ」
高松さんが光魔法で攻撃。敵は腕を盾にしたもののダメージは入ったようだ。が、
「ふん!」
「きゃっ」
再び石の床から棒を取り出し、高松さんに攻撃。
「千尋ちゃん!」
床に倒れ込んだ高松さんに花巻さんが駆け寄る。敵が追撃の構えを取った。阻止すべく俺も攻撃の構えを取ると、
「デルタ・フェライト」
鉄の棒がこちらに向けて振られ、その半分ほどが今度はオレンジに光って飛んで来た。ほぼ液体だ。
「うぉあっ!!」
間一髪のところでかわし、地面に倒れ込んだ。すぐに立ち上がり、
「高松さん、いける?」
「大丈夫よ、これくらい」
高松さんも返事をして立ち上がった。
再び敵を挟んで立ち合う状態になった。敵はまた、手に長い鉄の棒を持っている。石の床から出しているあれは、何だ・・・? 土属性の魔法でそんなことができるのか・・・?
「コイツが気になっているようだな」
あの棒に視線を向け過ぎたか。
「自己紹介がまだだったな。俺はグレイブ・スチーラー、ここの工場長兼メタリックカンパニー常務取締役だ」
「ご丁寧にどうも」
「我々スチーラー家の血を引く者は、物質から金属を取り出すことができる。魔法学的には土属性の亜種だそうだ」
「・・・なるほど」
そんなものが、あるんだな。この世界の住人ならではと言ったところか。その魔法を使って金属製品メーカーを立ち上げたのだろう。
「だったら、自分たちで鉱山に入ればいいだろう。重労働などさせずに」
右側にある牢屋に目をやった。その中の人たちが期待している様子でこちらを見ている。ここに入って出れた者はいないことは、来る前から知っていたはずだ。ここで期待させておいて失敗するなど、有り得ない。
「ふんっ、これだからガキは。こういった事業では単位時間当たりに多くの材料を採る、加工する、出荷することが重要になる。そのためには多くの人手が必要だ」
「だったら従業員にもう少し敬意を払ったらどうだ」
「分かってないな。俺たちが事業を成り立たせているからこそ多くの人間が生活できているのだよ。こちらは何千、何万という人間を食わせるだけの収益を上げる責任がある。ただ単純作業を繰り返しているだけの者に敬意を払う必要などない」
随分と傲慢なことだ。こういう考えの経営者が多いから労働環境が改善されないんだ。
「それに、」
グレイブは牢屋にいる人たちを親指で指差した。
「単純作業しかできないような人間でもできることを、なぜ我々がしなければならない」
「な・・・」
「ひどい・・・」
なんてクズ野郎だ。花巻さんは何も言わなかったが、グレイブを睨み、非難するような目を向けている。
「簡単には見つけ出せず、取り出せないような貴重な材料が潜んでいる時にのみ、我々一族が手を出せば良いだけの話だ。ありふれた量産品のために我々が労力を割く必要などない」
話を聞いてるだけでイライラする。ゆっくりしている暇もないし、さっさと片付けよう。
<風でそっちに飛ばすからデカいの一発入れて>
<分かった。準備しとくからもう少し時間稼いで>
「人手が必要なことも、お前たちが手を動かさないことも分かった。それでも労働者がいてこそ事業が成り立つのは事実だ。頻繁な転勤も過酷な重労働も必要ないはずだが?」
「適材適所というものがあるのだよ。能力の良し悪しや、特定の人にしかできないこともある。現地人を雇えばいいという話ではない。逆に、取り立てて能力のない人間は単純作業に回ってもらうしかない」
「ブラッキにも優秀な人は5万といるだろうし、ビジナでも単純作業ぐらいあるはずだ。それにコストを割けば人は増やせる。自殺に追い込まれるほど働かせる必要もないはずだ」
「そもそも初めから工場で働きたいと言う人間がいないのだよ。どいつこいつも開発に寄って来る割には使えない。それでしてプライドだけは高いからビジナに残しても単純作業だと不満を言うだけさ」
次の言葉を返そうとしたが、グレイブが話を続けた。
「ナチュレの人間はそもそも他国企業に入らない。ユニオンの人間は優秀なのが多いが職歴ステータスだけを積んで自国に帰る。まあ、情けない話だが、エコノミアの人間のレベルが低い結果だろう。ファイナンスに行くような連中は製造業には来ないからな」
ユニオンの人にはステータス作りに利用され、ファイナンスの人には見向きもされない。それは、
「お前たちの事業に、優秀な人を集める魅力がないだけだろう。誰もついてこないのは人のせい、企業や政府のトップがそのような思考なら、この国はそうなるさ」
<大村君、準備できたよ>
<分かった、適当に話締めて“せーの”で風起こすからよろしく>
<うん>
「随分と言ってくれるじゃないか。我々の事業は社会基盤として必要なものだ。それに、我々の業績は他業界を含めての上位なのだがな」
「社会基盤として必要な事業で働く人たちに敬意を払えと言ったんだ。お前たちの業績が良いのは、人件費を減らして従業員を苦しめているからだろうが」
相手の反応を待たずに、
<せーの>
ブンッ!
「ぬおっ!」
杖を振って突風を起こすとグレイブの体が浮き、杖を両手で前に向けている高松さんの方に飛んで行った。高松さんが持つ杖の先に一気に光が集まり、
「しまっ・・・!」
「スターリーシャワー」
「ぐおおぉぁ・・・!」
「くっ」
大量の光の粒が放射状に放たれた。
<ごめん大村君!>
<大丈夫、そのまま続けて>
俺も少しかすったが、攻撃範囲から外れて牢屋の目の前を通って高松さんたちの方に移動した。牢屋の中の人たちの視線が熱かった。もう少し、待っていてくれ。俺も杖をグレイブに向け、火と雷を追加しようとすると、
「うわっ!」
「きゃあっ!」
足を払われた。くそ、油断した。さっきと同じ手を食うとは。解放されたグレイブが地面に手を着く。
ザブン。
動かれる前にグレイブの周囲に球状の水で覆った。標準魔法ではないから半永久的だ。輪郭を石で固めようとすると、床に落ちていた鉄の棒が動いてグレイブを外に押し出した。
遅かったか。水を崩し、
「サンダーランス」
「ぐおっ!」
「スパイラルショット!」
「がはっ!」
スパイラルショットは高松さんのものだ。真上方向に放たれたのでグレイブが飛ばされ、天井で受け身を取る。落ちてくるところに追撃しようとすると、
「止まれ」
「ひっ!」
「「っ・・・」」
先の尖った鉄の棒が、牢屋の中いるうちの1人に首元に突きつけられた。くそ、こうなることぐらい予想できていたのに。
床から円形の台座が伸び、それにグレイブが乗り、台座が縮む形でゆっくりと降りてくる。
「はぁ、はぁ・・・、やはり2人を相手には分が悪いな」
牢屋のそばまで歩き、人質を取ったままこちらを睨むように見た。
「ごめん・・・あたしが上に飛ばしちゃったばっかりに」
「そうじゃないよ。いつでも出来たことを、このタイミングで実行されただけだから。追い詰めるところまではいけた。一撃で気絶するほどの致命傷を負わせられなかったのは、2人の責任」
「・・・うん」
さて、どうする。
まず、このまま俺たちが捕まるという選択肢はない。最悪は、あの人1人を犠牲にしてでもグレイブを捕まえる。そうでもしないと、数えきれないほどの死者が出る。それでもあの人は助からない。あの人にとっては、自分だけが死んで他が助かることになる・・・。
グレイブは自分の胸に手を当て、
「ヒール」
魔法陣が発生すると同時に水色の光に包まれた。
「うそ・・・」
「ふんっ。鉄を操る魔法しかないとでも思ったか」
まさか、愛属性も使えるとは。ますます、一撃で仕留めるしかない。
あの人を見捨てるのは最終手段だ。たとえこの革命がハッピーエンドを迎えても、あの人の家族からすれば、あの人が生きていなければ意味がない。
何か、打つ手はないのか。
次回:鉄じゃない心




