第131話:首都大混乱
夜が明ける。
単に太陽が昇るというだけではない。この国の、新時代の夜明けだ。
「大変長らくお待たせしました。さあ、行きましょう」
俺は柵の上に立ったまま再び街の方を向き、杖を前に突き出した。掛け声は、威勢良く。
「ファシス政権をブッ潰せ!!」
「「「おおーーーっ!!」」」
「「「うおーーーっ!!」」」
俺の掛け声に答えるや否や、みな一斉に柵を登り始めた。街に入ってからも、「なんだなんだ?」という視線を浴びながら一目散に刑務所を目指した。
刑務所は、ビジナの中心からは少し離れた場所にある。足の速い人なら10分もあれば辿り着けるだろう。好きに暴れてくれ。
俺ももう、隠れる必要はない。空を飛んで刑務所の近くの宿屋まで行って回復させてもらおう。目に付いた手配書を見ると、俺の懸賞金が5000万、女性陣は3000万に上がっていた。1時間後には1億か?
「おい、あれ!」
住民が指差してきた。これだけの人数で一斉に走ってると目立つからな。
「大村佑人じゃないか? 間違いない!」
「手配犯じゃん! どうするよ!?」
「他の2人はどこだ?」
「兵士? 兵士呼ぶ!?」
注目を浴びているなら、答えなければな。驚いている様子の住民たちに対して、俺は笑いながら手を振った。そして、
空を飛んで刑務所に一番近い宿屋を目指した。
宿屋のそばに到着。周囲に人だかりが出来てきているが、関係ない。さすがに壁を壊すのは気が引けたので土魔法で穴を開けて侵入、回復後に外に出て穴を埋めた。出張に来ていたであろうシャワー上がりのビジネスマンが、終始ぽかーんとしていた。
四方が人で塞がれていたが、走り出すと逃げるように道を空けてくれた。手配犯とは言え、魔法使い。捕まえようなんて考えるのは兵士ぐらいしかいないだろう。
「ま、待て!」
真面目そうな青年が、目の前に立ちはだかった。この街にもこんな人がいるんだなと思って安心した。だが。
「うわっ!」
突風を起こすと青年が腕を盾にして顔を伏せ、その隙に青年の横を通り過ぎた。振り返り、
「すみません、捕まる訳にはいかないので」
と言い残して走り去った。
刑務所に到着する頃には、既に混乱状態だった。刑務所とは言え、平和ボケしている警備員たちでは朝っぱらからの討ち入りに対応できないだろう。メタリックカンパニーの方の騒ぎもあって手薄になっているようだ。
<中野くん、もういいよ。刑務所の外はもうゴッチャゴチャ>
<よっしゃ待ってたぜ! 行くぞ!!>
これで、内側からも崩せる訳だ。警備員の相手は労働者たちに任せて、捕まっている人たちを助け出そう。
警備員たちが取り押さえられていくのを横目に、刑務所内に突入。中にも結構な人数が攻め入っているようだ。念じてみると、刑務所のマップが表示された。もちろん中野が通ったルートが示されている。みんな同じ場所にいるはずだ。
「地下だな」
独り言をつぶやき、走り出す。進んでいると、
「そこの侵入者、止まれ!」
鎧を着た兵士だ。
「手配中の魔法使いだな、お前の仲間もついさっき騒ぎを起こしたぞ、何の真似だ」
取り合っている暇など無い。早く中野の所に行こう。
「こんな真似です」
「ぬっ!」
壁から石を拝借して手足を縛ると、バランスを崩して床に倒れた。
「くっ、放せっ・・・!」
「無理です」
そのまま走って地下を目指した。戦う労働者たちを援護したり、俺に向かって来た兵士を拘束したりしながら、マップを見て中野との合流を目指して進む。地下4階にいるようだ。
地下2階。既にここまで進んでいる労働者もいて、ところどころで争いが起きている。相手は兵士だが、数はこっちの方が圧倒的に多い。
地下3階。ここは比較的静かで、地下2階や4階からの声が聞こえてくるだけだ。上下に掃けてしまっているのか、兵士の姿もない。
地下4階。聞こえる声が大きくなったから、近い。マップ画面では中野が動いてる線が伸びている。こっちだ。
とある曲がり角の先で、
「いた。中野くん!」
広めの部屋、おそらくは食堂に多くの人がいた。食べ物や飲み物をあさり、英気を養っているようだ。服装的に、囚人だ。中野だけはローブを纏っている。俺の声が聞こえていないのか反応がない。
<中野くん、着いたよ>
メッセージを送ると、
「おっ、大村! 来たのか!」
中野が気付いてこっちまで走って来た。魔法使いが増えたことで、周囲の人たちも手を止め始め、少しずつ静かになっていった。
「今どういう状態なんだ?」
「夜明け前にメタリックカンパニーの本社ビルを壊して、」
「マジ・・・っ!」
「マジだよ。それで日が昇るまで待ってスノーウィーンの労働者と一緒に突入した。もう普通のビジナ市民も混ざってるかもね。上の方でも兵士や警備員を捕まえてて、さらにこれだけの人数で押し掛ければ確実に外に出られると思う」
「うっっしゃああぁぁぁ・・・!」
「もう外の方も混乱状態だよ。このまま兵士を全員取り押さえることができれば、僕らの勝ちだ」
「ううぇえーーい。ここまで来たらもうやるしかナイっしょ。 ・・・ところで、千尋ちゃんたちは?」
「ブラッキの北東にも山があるって中野くん言ったよね。そっちの方に行ってもらってる。人質にされたくないし、味方は増えた方がいい。僕もこれから向かう」
「そうか。でも俺はこっちにいた方がいいだろ? メッセージで状況伝えられっからな」
その通りだ。頭が回るようになってきたんじゃないのか?
「お前さんたち」
囚人のうちの1人が話し掛けてきた。
「仲間があの山に行っているのかい? 本当に、気を付けて。スノーウイーンはまだ隙を見て逃げ出すことができるけど、あの山、ブラノイマウンテンって言うんだけど、あそこから逃げ出せた人は1人もいないんだ」
さらにもう1人近づいて来た。
「それどころか、あそこに行った奴が外に出たって話を聞いたことがねぇ」
中野から聞いた通りだな。
「だったら尚更、放ってはおけませんね。既に本社ビルのことは耳に入ってるはずですから、早いうちに行ってもらいました」
「正確な場所は知っているのかい?」
あ、しまった・・・。考えてなかった。自力で探してくれているとは思うが。
「すみません、知っていたら、教えてくれませんか」
「いいよ。あの山は、ブラッキからちょうど45°北東に3キロぐらいの場所だ。近づけば工場みたいなのが見えるから分かるはず」
「ありがとうございます」
お礼を言いつつ、早速メッセージで場所を伝えた。普通に返事も返って来た。ブラッキ市民も騒ぎ出して大勢でビジナに向かって来ているそうだ。味方が増えるようだな。
「んじゃそっち頼むぜ。俺はこっちで暴れっから」
「思う存分暴れていいよ。まだまだ暴れ足りないでしょ。大統領邸にも乗り込んでいいから」
「大統領!?」
「うん。ファシス大統領を捕まえて。それができなきゃ鎮圧されて、また同じことが繰り返される。僕らは確実に死刑だね。きっと見せしめにされるよ」
「マジかよ。でも、そうだよな。アイツが好き勝手やってるせいでこんなことになってるんだもんな」
「そういうこと。僕らの戻りを待つ必要もないから、好きに暴れて」
「うっし・・・! でも千尋ちゃんたち、大丈夫なのか?」
「信じるしかないよ」
もしダメでも大統領さえ捕まえれば勝ちだから、と言うのはやめておいた。
「そうだな。・・・千尋ちゃん、葵ちゃん、頑張れ。 うし、マジで大統領、捕まえていいんだよな?」
中野が確認するように聞いてきた。雪山で合流して以来、少し、中野が変わった気がする。
「捕まえていいんじゃなくて、捕まえなきゃいけないんだよ。手伝って、くれるよね」
「おう! 任せろ!!」
そして俺たちは走り出した。太陽の光が当たる地上を目指して。
「っひょ~う!! 久々にシャバに出られるぜ!」
「しかも暴れていいだなんて、マジ最高!」
「日の光が恋しくなってた頃なんだよな~」
囚人たちがハイテンションになっている。彼らは、普通に罪を犯して捕まったのかも知れない。
「外に出るだけじゃなくて、ファシス大統領まで陥落させて初めて、この街に日の光が当たります」
きっと、今の惨状には太陽も嘆いているはずだ。
「ひゅ~~っ! 兄ちゃんカックいい~~!」
「その代わり、これが終わったらもう悪い事なんてしないでくださいね」
「ああ、約束するぜ。これ以上の刺激なんて、もうねぇだろうからな」
刺激だけを求めて何かやったのか。とも思ったが、今は協力してくれるだけでもありがたい。過去の罪は、今から償ってもらおう。
「あの、ありがとうございます」
別の人が話しかけてきた。
「もう二度と、娘に会えないと思ってました」
今度は、理不尽に捕まった人のようだ。
「夫が過労を苦に自殺し、何でもすると言って雇ってもらったと思ったらスノーウィーン異動を言い渡され、あまりの過酷さに逃げ出したら捕まってしまって・・・すっすみません、自分の話ばっかり」
「いえ、大丈夫です。お礼がしたいなら、手伝ってもらっていいですか?」
「もちろんです! 私たちのような不幸な家庭をたくさん作った人たちを許せません!」
「行きましょう、太陽の下で笑える街を取り戻しに」
「はい!!」
その人はまた、周りの囚人たちの波に入って行った。
地下2階に着くと、既に制圧できていた。労働者たちと合流し、上を目指す。
「お前、やっぱ凄ぇや」
中野だ。俺の隣に来て前を見たまま走り続けている。
「中野くんはどうなの?」
「俺なんて、全然だろ。偶然、運よく、お前の仲間になれただけだ。他のチームだったら初心者狩りにやられてたわ」
驚いた。中野がそんなことを言うとは。
「中野くんにも凄くなってもらわなきゃ困るよ。僕の仲間に、大したことない奴は要らないから。運が悪かったね、僕の仲間になってしまったがために君は凄い奴にならなきゃいけないんだ」
「フッ・・・。やっぱお前、最高だわ」
「そろそろ外に出るよ」
「よっしゃああぁ!!」
外に出ると、すっかり日は昇っていた。そしてもう、混乱は刑務所だけに留まっていなかった。本格的にビジナ市民も便乗し始めたようだ。ケーキ食べながら愚痴るような人も含まれてるだろうが、これだけ多くの人が国に対して不満を抱いているのは紛れもない事実だ。
9月1日、晴れ。俺の予報では、晴れのち大歓声。この街が、歓喜で満たされることになるだろう。
次回:もう1つの山へ




