第123話:反旗
―――8月31日、高松・花巻サイド―――
ついに、大村君が動き出した。ただしその理由は、体力の限界だった。このタイミングで反旗を翻すのが正しい選択なのかは分からない。だけど、体が動かなくなっては意味がない。
私たちももう、我慢の限界だった。今日にだって、大村君が我慢しているのも無視して暴れ出すかも知れなかった。だけどもう、暴れていいんだ。二度と雪山には行かせない。そのために、メタリックの工場に乗り込もう。
朝ご飯を食べた後、すぐに出発した。
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マップ画面を見ながら、一昨日に3人で歩いた跡を辿る。大村君は、エーデルマウンテンに向かう道があったらしく、実際に、北東に真っ直ぐと伸びる線ができている。
「正面から行くわよ」
「うん」
<監視係みたいな人を全部捕まえれば、大丈夫よね>
<基本的には、そうだね。だけどその人たちとは別に役員がいる。役員室は2階と3階に集中してたと思う。バスの運転手や医務室の人も捕まえた方がいいかも。4階から6階は社員寮なのと、8時半にはグループごとに事務所に集まるから、できるだけ早めに行って皆を巻き込まないようにして>
<ありがとう。分かったわ>
さすが、聞けば答えられるぐらいに色々と把握してる。
<その立入禁止の倉庫はどこにあったの?>
<1階の北側。右隣の部屋に穴開けてそのままにしてるから入れるよ>
<分かった。状況次第ではそっちに行くかも。その前にあいつら全員捕まえるけど>
<こっちとしても追っ手の心配がなくなるから助かるよ>
大村君が向かう先に何があるかは分からない。メタリックは既に完全に法律違反のことをしているけど、エコノミア政府もグルになってるから告発しても無駄。そして今からやることで確実に企業活動妨害罪になる。捕まる気は更々ないから、この後はエコノミアとの戦いになる。
雪山で働いてる人たちだけじゃない。選挙の投票先が制限され、インチキを言いふらしたらブラッキや雪山に転勤、無視すれば刑務所行き。独裁政権に締め付けられているエコノミアの人たち皆を、助けなければならない。
7時過ぎ、メタリックの工場に到着。“スノーウィーン事業所”と書いてある。たくさんの人を閉じ込めてるだけで、実際の仕事は雪山に出ておいて何が事業所よ。
大村君によると、この時間は朝食を食べている。
「7時半まで待ちましょう。そうすれば8時半までは皆4階以上にいるはずだから」
「うん」
葵が、力強く頷いた。もう、迷いはない。昨日や一昨日のように、落ち込んだりもしてない。あんな酷いことをするメタリックと、誰も助けることができなかった自分たちへの確かな怒りが、私たちを動かしている。
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念のため、7時40分まで待った。
「行きましょう」
「うん」
門を通ると、右に小さな建物があって警備員と目が合った。見るからに、やる気のなさそうな顔に態度。一礼しながら通り過ぎると、呼び止められることもなくやり過ごせた。まさか殴り込みに来るなんて思ってないんだと思う。
建物に入ると、階段のそばに間取り図があった。メニュー画面のカメラ機能で撮っておいた。
<役員室を、1つずつ潰しましょう>
<うん>
今度は、葵と1対1のメッセージ。大村君には、後で結果だけ伝えるか、どうしても助言が欲しい時にだけ頼むことにしよう。歩いて進んではいるみたいだけど、大村君から、初めて“限界”の言葉が出た。エコノミアを敵に回すリスクと取ってでも、今の状況を続けられないほどに体力の限界を迎えたんだ。無理してるに決まってる。
役員室は全部で5つ。まず2階、一番近くの所に行った。ドアは普通のものだったから風魔法で壊せた。
「!! ・・・何だ! お前たちは!」
「通りすがりの魔法使いよ。助けを求める声が聞こえて、やって来たの」
杖を、その人に向けた。随分と、豪華な部屋。ベッドもあるから寝泊まりもこの部屋らしい。昨日魔人に襲われて50人もの人が命を落としたと言うのに、こんな所でワインを飲んでいたのね。
「ま、ま…」
“待て”と言おうとしたのを止めるように、光属性で攻撃した。
「うわあぁぁ!!」
収納機能から取り出したロープを使って、倒れたその人を縛った。
「そこで待ってなさい」
部屋から出て、次の役員室へと向かう。結構な大声を出されたし、監視カメラが至る所にあるけれど、騒ぎになる様子はない。さっきの警備員と言い、後ろにエコノミア政府がいるから油断しているのだと思う。私たちにとっては好都合。
そのまま、2階にある3部屋の役員を捕まえた。次、3階。役員室が2つと、医務室。ここから近いのは医務室。
「な、な…」
言葉を発されるより前に、光属性魔法で攻撃した。そのままあっさり捕まえることができた。次に向かった役員室は広く、豪華な2段ベッドがたくさん並んでいた。監視係と運転手の部屋だと思う。中央のテーブルに30人ほど集まって美味しそうに朝食を摂っていたところを邪魔して、捕まえた。人数が多かったこともあり、少し騒ぎになった。
部屋を出ると、次の目的地に入って行く人影が見えた。今のが見られていたらしい。
【全従業員に告ぐ! 現在、侵入者が発生中! 魔法使いの女2人! 3階の役員室Dを占拠中! 直ちに捕らえよ!】
アナウンスが入った。確かに400人余りの人が一斉に来たら捕まってしまうかも知れないけど、今まで自分たちを苦しめてきた役員の部屋が占拠されたと聞いて、指示に従って侵入者を捕らえに来る人がいるとは思えない。
特に邪魔も入らないまま、最後の目的地に着いた。カギが掛けられているだろうから、風魔法で壊した。
「ひっ・・・!」
怯えた後、またマイクを手にした。
【侵入者は現在役員室Eにいる! 全従業員! 直ちに役員室Eに集え!!】
「そんな命令の仕方で、あなたを助けに来る人がいるとは思えないけど」
「そんな訳があるか! 業務命令に背けばどうなるか、奴らはよく知っている! お前たちも、こんなことをしてタダで済むと思うなよ!」
「何が待ち構えてるか知らないけれど、覚悟の上よ」
光魔法で攻撃した。あっさりと倒れたので、ロープで捕まえた。
「く・・・、う・・・!」
悲痛の表情を浮かべるその人を横目に、私は放送設備を手に取った。
「これ、ちょっと借りるわね」
「何を・・・!」
ボタンの配置は、思ったよりも簡単だった。“全館放送”と書かれたスイッチを入れた。
「メタリックカンパニーの皆さんにお知らせします。私は、先ほど放送された侵入者です。あなたたちを助けに来ました。役員はみな捕まえましたので、どうか、今日は外に出ないようお願いします。その代わり、2階の一番広い事務室に集まってください。繰り返します。・・・」
同じ言葉をもう一度繰り返した。
「ふぅ」
放送設備のスイッチを切り、マイクを置いた。
「さ、2階の事務室に行きましょ。その人たちも連れて」
時々魔法を出して脅しながら、捕まえた役員たちを全員連れて2階の事務室に向かった。その途中、
「おぉ・・・!」
同じく移動中の人と出会った。驚いている様子が、手に取るように分かる。もう、雪山になんて行く必要はないからね。
「お前たち! 何をしている! なぜ役員室に来なかった! なぜ侵入者の言うことなど聞いている! 立派な企業活動妨害だぞ! 分かっているだろうな!」
「うるさいわね」
「ヒッ・・・!」
睨んだら、静かになった。そのまま、2階の事務所に到着。だけど、全員は入りきらなかったので壁を壊して大部屋にした。
「皆さん、見ての通りです。あなたたちを苦しめて来た人は捕まえました。もう、苦しむ必要はありません」
みんな、顔を見合わせてざわざわしている。背後にエコノミア政府がいることを知っているから、無理もない。報復を恐れてるんだ。
「これは、私たちが勝手にやったことです。相手は魔法使い。一般人であるあなたたちが敵うはずがありません」
「そんなものはどうとでもなる! お前たち、覚悟ゴホォッ・・・!」
「静かにしなさい」
小さな光魔法をぶつけた。
「今、私たちの仲間が雪山に調査しに行っています。もう少し待っていてください」
「貴様ら、オームラの仲間だったグホェッ・・・!」
「静かにしなさい」
しばらくそのまま、ざわめく事務室が静かになるのを待った。今は8時半。ここまで上手くいくとは思わなかった。私たちで、スノーウィーン工場を制圧したんだ。
<こっちは終わったわ。そっち行こっか?>
<うーん、いいや。それより中野くんを連れ戻したいかな。街にいると思うけど行ってもらうことできる? バスの物入れにツルハシが大量にあるから労働者の人たちに持たせれば逆転されないと思う>
<分かったわ。皆にツルハシ持ってもらったら中野君とこ行ってみるね>
バスの運転手1人のロープをほどいて、社員の人も10人連れて外に出た。大村君の言った通りバスの物入れにツルハシがあって、社員の人たちに交代で持って行ってもらった。
しっかりとツルハシが行き渡り、役員たちに為す術がなくなるところまで見届けた。与えたツルハシが自分に向けられるのは、どんな気分なのだろう。本当は私たちもここに居たいけど、まだまだやるべきことがある。土下座でも、ハグでも何でもして中野君を連れ戻して、エコノミアと戦わないといけない。
9時20分になってしまったけど、スノーウィーンの街に向かうことにした。事務室を出ようとすると、
<ごめん、やっぱりこっちに来て欲しい。外に出たら魔人がいた。中野くんが1人で襲われてるから見捨てられたんだと思う。魔人倒して中野くんにも戻って来てもらおうと思うんだけど、来れる?>
葵の方を見て、頷き合う。
<10分で行くから待ってて。もし1人で行ったら二度と口利かないから>
「皆さん、私たちはこれから雪山の魔人を倒しに行きます。すぐに戻りますので、ここで待っていてください」
さらに私は運転手のうちの1人に顔を向け、
「あなた、私たちを雪山まで連れて行きなさい」
4階の社員寮の部屋に行くと、回復できた。連れて来た運転手にバスを運転させ、玄関も壁も厳重なドアを壊して、“倉庫”ということになっている部屋にバスを突入させた。
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―――8月31日、中野サイド―――
ユラスたちと魔人滅殺剣を探しに来て、魔人に襲われた。みんなで逃げようとしたが、アンディーが俺に囮になるように頼んで、ユラスたちも同調しやがった。"死んでも生き返れるお前が仲間のために囮になるべき"って言われて、弓矢まで向けられた。それのどこが仲間なんだよ・・・。
プレイヤーの俺とは違って死ねば終わりだから仕方ねぇが、あそこまでしなくていいじゃねぇか。これまでだって、レベル上げしたい俺を無視してユラスたちでバンバン戦いやがるし・・・。
「くそっ」
どいつもこいつも、自分たちのことばっか考えやがって。
魔人が、次の攻撃の構えを取った。きやがる。どうせ逃げれねぇなら、1人でもやってやる! 魔人滅殺剣がなくったって、この魔人をぶった切ってやる!!
次回:あいつらがいれば




