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4人の魔法使いの冒険  作者: 藤見倫
第3章:巻き起こせ、労働革命
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第122話:悲鳴

 ―――8月31日、大村サイド―――


 3時過ぎに目が覚めてしまい、悪寒がしてどうにも眠れない。


 5分経ち、10分経ち、15分経ち、少し、気分が悪くなってきた。


 寒い。寒い寒い寒い寒い寒い。一旦布団をどけて上体を起こし、ウォームローブを装備して再び布団をかぶった。それでも寒い。体が震える。顎の力を抜くと歯がガタガタ鳴る。何なんだ、これは。音がするから、部屋の暖房はついている。


 やがて、吐き気が強くなってきた。もはや寝るどころではない。横になっているのが辛く、ベッドの上に座って壁を背にして寄っ掛かった。悪寒も相変わらずで、ローブの上から布団を羽織った。それでも、気分は悪くなる一方だ。このままでは、まずい。体が動くうちちに、2段ベッドからゆっくりと降りてトイレへと向かった。



 トイレの床に座り込み、便器の上に両手を置いた。タイルの床はあんまり綺麗じゃなさそうだが、なりふり構っていられない。


「はぁ・・・、はぁ・・・。おおぉぉぉぉ・・・」


 気持ち悪い感覚が込み上げてきたが、無駄に持ち堪えてしまった。出してしまった方が、楽になるはずなのに。


「おお、・・・おおぉぉぉぉ・・・・。ペッ」


 かなり不味い味の唾が分泌されたので吐き出した。それが数分に一度の間隔で何度かあった。その後、


「うっ・・・!」


 一気に、胃の中身が込み上げて来た。


 --------------------------------


「はぁ、はぁ・・・、はぁ・・・・・・」


 便器に両手を置いて、その中を覗き込むような恰好になっている。口の中に残った不味い味の唾を、何度か吐き捨てた。便器の中を見ているだけでまた気分が悪くなりそうだったので、一旦流した。


 少し楽になったので、便器から離れてトイレのドアに寄っ掛かった。


「ふぅ、はぁ、・・・・・・おぉ・・・」


 人って、過労だけで吐けるんだな。まさか、あの単純作業の連続だけでここまで体が参るとは思わなかった。もしかすると、ブラッキやビジナでのイライラ、移動中のトラブルでの疲れもあったかも知れない。


「ふぅ・・・」


 呼吸を整え、顔を少し上に向け、目を閉じる。いつしか、トイレの中で座ったまま意識が落ちてしまった。


 --------------------------------


「大村君、大村君」


 俺の名前を呼ぶ声がした。高松さんの声だ。


「大村君、大丈夫?」


 今度は、花巻さんの声。2人とも、どうやってここに?


「どうしたの、しっかりて」


 大丈夫。意識はしっかりしている。だけど、それを伝えようにも声が出ない。なぜだか、目も開かない。手を動かそうとしたが、やはり動かない。一体、どうしたというのか。意識だけはしっかりしているのに、体が全く動かない。


「大村君、起きて」


 起きている。起きているとも。だけど、なぜ、声が出ない、目が開かない、体が動かない。もどかしい、もどかし過ぎる。どうしてしまったんだ、俺の体は。


「だから、無茶したらダメって言ったのに」


 それは、分かっている。


「っ・・・、っ・・・!」


 言い訳をしようにも、声が出ない。体が動かない。イライラして、呼吸が苦しくなってきた。


「大村君、大村君!」


 とにかく、体を動かさないと。話をするのは、それからだ。


「っ・・・、っ・・・!」


 何とか声を出したり目を開けたりしようと踏ん張ってみる。だが、体は動かない。何なんだ、これは・・・!


「っ・・・、っ・・・!」


 くそっ、動け、動け!



 バッ!



 ハッとした。目が開いた。


「はぁ、はぁ、・・・・・・。はぁ・・・」


 声も、出るようだ。手を胸の前に持って来た。体も動く。座っている状態であるが、足もしっかりと動くようだ。


「ごめん、なんか体が…」


 “体が動かなくなって・・・”と言おうとした言葉は、途中で止まった。話す相手がいなかったからだ。


「は・・・?」


 社員寮の4人部屋に付属しているトイレの中に、俺は居た。そうか、自分でここまで来たんだった。それはいい。だが、さっきまで俺に声をかけていた2人はどこに行った? いや、そもそも2人はここに来れないはずだ。土魔法がないから壁を壊さないと入れないし、俺がどの部屋にいるかも知らないはずだ。


 じゃあ、さっきのは夢だったのか・・・? いや、意識だけははっきりとしていた。確かに脳は起きていた。体が動かなかったんだ。まるで、金縛りに遭っていたかのように。


 そこまで考えて、以前親父から聞いた話を思い出した。親父も一時期、寝起きの度に金縛りに遭ったり幻聴が聞こえたりしたらしい。あの話は、これのことだったのか。あの時は、“そんな馬鹿な”と思いながら聞いていた。本当に、こんなことがあるんだな。どうやら、俺の体は想像以上に参っているらしい。



 まだ4時半前、こんな体勢で小一時間寝ても回復することもなく、頭はクラクラするし全身がひしひしと痛む。布団で、横にならねば。立ち上がると、


「う゛・・・、が・・・・、あ゛あ゛・・・・・・!」


 全身の、骨という骨が痛み出した。風邪で高熱を出した時の痛みを、何倍にもしたような感覚だ。よろめき、トイレのドアに手をついて何とか転ばずに済んだ。だが、全身の骨が痛い。特に、腰。これでは、まともに歩けない。


 一旦、ゆっくりと体を動かしてまたトイレの床に座った。痛みが落ち着くのを待とう。


 だが、痛みはとどまることを知らなかった。それどころか、悪化しているような気さえもする。


「う・・・が・・・!」


 諦めて、立ち上がった。ドアを開け、メインの部屋に出る。窓の外はまだ暗かったが、トイレの電気が漏れた分で部屋は見える。ベッドに向かおうと歩き出すと、立ちくらみがした。


「が・・・っ!!」


 その瞬間、目に見えるもの全てが緑色に見えた。絵具の緑と白を混ぜたような、そんな色だった。視界はすぐに元の色彩に戻った。何だったんだ、今のは。俺は右手の親指と中指でこめかみを押さえた。手を離し、歩き出すとまたクラッときた。


「う゛あ゛・・・!」


 今度は、黒であるはずのジャージが緑に見えた。今度は、白が混ざっていない鮮やかな緑だった。またすぐに色彩は元に戻り、ジャージは黒で見えるようになった。これも、親父の経験談にある。疲れが溜まると物が緑に見えることがあるらしい。冗談か、何かの比喩だと思っていたのだが。


 全身の骨の痛みも、良くなる兆しがない。はっきり言って、今日を乗り切るのは無理だ。食欲はないから朝食は抜けばいい。事務室には何とか顔を出せるだろう。だが体操は、まともにできる気がしない。鞭で叩かれるのがオチだ。採掘作業など、もってのほか。途中で体が動かなくなり、鞭でひたすら叩かれることになる。そのまま作業を再開することができなければ、間違いなく刑務所行きだ。




 もう、限界だ。




 体中が、悲鳴を上げている。

 これ以上、潜入捜査を続けるのは無理だ。鞭でひたすら叩かれた後で刑務所行きになるぐらいなら、明確に敵と認知されてから開戦するぐらいなら、今、反旗を翻してやる。


 まだ全身の骨が痛むが、これよりコンディションが悪くなる前に、やるしかない。


 ウォームローブと、ウルトラスタッフを装備した。


<ごめん、体力が限界を迎えた。立入禁止の場所に侵入することにしたから、2人ももう好きに暴れていいよ。バレたらもちろん戦う>


 まだ寝ているであろう女性陣にメッセージを送り、土属性魔法でドアに穴を開けて脱出、穴を塞ぎ、1階にある倉庫へと向かった。


 --------------------------------


 まだ暗い廊下を歩く。非常口の緑と白の表示灯のおかげで、かろうじて壁や階段は見える。この分だと監視カメラの画像を良くみないと分からないだろう。誰も逆らえないように締め付けている状況で、そのカメラを真面目に見ているとも思えない。


 だが、さっきの物が緑に見えた現象のせいで、元から緑のはずの物まで変に見える。時々こめかみを押さえたり、立ちくらみがしてローブが緑に見えたりしながら進んで行った。



 倉庫の正面に到着。さすがにこれはちょっと、穴を開けるには頑丈だな。横の部屋から入ろう。


 マップ画面を確認しつつ、倉庫の横の部屋に入った。よし、普通の壁だ。少し壁が厚いようにも見えたが、普通に穴も開いた。中に赤外線が張り巡らされていれば警報が鳴るだろうが、覚悟の上だ。


「っ・・・!」


 痛みに顔をしかめながらも、直径50cmほどの穴から倉庫の中に入った。特に、警報が鳴る様子はない。倉庫の中に光源がないのと、もう後には退けないから穴は開けたままにしておいた。


「ん・・・?」


 倉庫の中には、特に何もなさそうだ。壁に開けた穴から来る光だけでは分からないので、仕方なく魔法の火を出し、すぐに消した。


 倉庫の中には、何もなかった。殺風景な床・壁・天井が広がっていた。ただし、この部屋は想像に反して細長く、ずっと遠くまで続いていた。行こう。



 基本的に真っ暗なので時々火を出して進んでいく。途中、道が45°右前方に曲がり、進行方向が北東になった。エーデルマウンテンがある方だ。ロボを運ぶだめの通路か・・・? いや、それにしてはドアが厳重だったし、ロボットは休憩の時にバスに詰め込まれていたのを見た。


 となると有り得るのは、役員が移動するための道か。だが、何故こんなものがあるのに社員やロボに使わせないんだ・・・? 何かが、あるような気がする。



 完全に、エーデルマウンテンの領域に入った。後ろから誰かが追って来る気配もない。腰を下ろし、少し休憩した。こんなコンディションになる前に、動き出すべきだったか・・・? いや、結果論だ。極力争いを避ける方向で考えたこと自体は、間違ってなかったはずだ。ただ単に、体がもたなかった。このままじゃ動けなくなると判断して、勝負に出たんだ。


 立ち上がり、再び歩き出す。


<厳重なドアの倉庫に、エーデルマウンテンに真っ直ぐ向かう道があった。とりあえずそれを進んでみる>


 女性陣に近況報告を出した。反応がないから、まだ寝ているのだろう。あの2人がどうするかは、2人に任せよう。きっと、多くの人を助けられなかったことを悔しがっている。メタリックに対してかなりの憤りを抱いている。



 道が、上り坂になった。痛む体に堪えるが、進むしかない。マップ画面を開くと、バス移動の経路の辺りにいるようだった。道は、まだまだ続いている。


<私たちは、メタリックに殴り込みに行くわ>


 起きたのか、高松さんから返信があった。もう6時を過ぎている。俺としても、助かる選択をしてくれた。事業所の連中を足止めしてくれるなら、ありがたい。



 それから30分ほどして、


<監視係みたいな人を全部捕まえれば、大丈夫よね>


 確認の連絡が入った。メッセージでやり取りを重ね、役員室があることや8時半に事務所に集まることなどを教えた。



 その後も歩き続け、既に、これまで俺や高松さんたち、中野が通った部分よりも山の中心に近い場所に来た。標高としても高くなっているだろう。どこまで、この道は続くんだ・・・?


 パッと火を出して進む先を確認すると、またしても厳重な扉が現れた。もう、隠密行動をとる必要もないだろう。


「グランドブロウ」


 ドオォォン。


 扉を壊した。事業所の方では警報が鳴っているだろうか。それでももう、構わない。


 前を見た。壊した扉の先には、台座の上に水晶玉があった。こんな体調でなければ、あまりの美しさに目を見張っていたことだろう。その水晶玉の中で、真っ白な魔法陣が輝いていた。



 --------------------------------



 ―――8月31日、高松・花巻サイド―――


 起きると、大村君からメッセージが入っていた。


「葵・・・」


「うん」


 2人で、頷き合う。体がボロボロになった大村君に悪いと思いながらも、どこかホッとしている自分がいた。私たちももう、我慢の限界だったから。


 大村君はメタリックの工場から真っ直ぐに北東に向かっている。秘密の通路があったらしい。大村君が姿を消したことに気付いたメタリックが何をするか分からない。私たちにできることは、



「メタリックカンパニーに行きましょう。何か、行動を起こされる前に」


次回:反旗

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