第120話:遭遇、雪山の魔人ニアトムウォンス
―――8月30日、高松サイド―――
突然の強風と猛烈な雪が起こり、晴れたと思ったら巨大の雪の化け物が現れていた。ずっと住んでる15階建てのマンションよりも高いそれは、人の形をしているけれど、顔も手も足も、全身が雪で覆われていた。まさか、あれが。
「魔人ニアトムウォンスだ!! 全員、退避せよ!!」
監視係の人がそう叫ぶなり、メタリックの人たちは一目散に逃げ出した。監視係の人は逃げながらもトランシーバーを手に取った。
「こちら探索班Eグループ! 魔人ニアトムウォンスが出現! これよりグループ一同バスまで退避する! 以上!!」
メタリック社員の人たちが逃げ惑う中、私たちは立ち尽くしていた。近くを通る人もいたけど、誰も私たちを気に留めていない。
ドスン! ドスン!
魔人が歩いて近づいて来る。歩幅が大きいせいかどんどん迫って来る。ダメだ、人の走る速度じゃ逃げ切れない。
魔人が手を動かし、顔の横で拳を作った。
「葵っ!」
「うん!」
魔人の手が動き始めるよりも先に飛び上がろうと思ったけれど、その手は動き出し、私たちとは違う方向に行ったので飛ぶのをやめた。だけどその先には、
「危ないっ!」
ドオォォン!!
魔人の手が、逃げ惑う人たち目がけて振り下ろされた。その手が地面から離れると、折れて倒れてしまった樹氷と、同じく倒れてしまっている人たちが目に映った。10人は、倒れている。何とか這って逃げようとする人もいれば、動かなくなっている人も・・・。
「そんな・・・!」
「ヒーリングサークル!」
魔人の攻撃を受けた人たちの周りに、魔法陣が出現。それで、何人かは立ち上がった。でも、まだ動かない人がいる。
「千尋ちゃん、私を向こうまで連れて行って!」
「あ、う、うん!」
杖にまたがると、魔人がまた攻撃の構えを取った。今度ははっきりと、こっちを狙っていることが分かった。
「葵、ごめんっ!」
まずは逃げることを優先して、上に飛ぶことにした。近くにいる人たちも一緒に。もう、企業活動妨害罪なんて関係ない。
ドオォォン!!
魔人の手が、振り下ろされた。上手く避けることができたけれど、私たちが飛び上がったからか、魔人は大きく一歩足を前に出して、遠くの人たちを狙った。そして、樹氷と一緒に倒れる人たちの姿が目に映る。
「千尋ちゃん! 早く!!」
「うん!」
だけど、助けられる人数には限度がある。それでも、MPがもつ限りはやるしかない。倒れている人の集まりが2つできてしまい、やむなく近くの方に向かった。
「「きゃああぁぁぁっ!!」」
「「「うわああぁぁぁぁっ!!」」」
だけどその途中、後ろから魔人の攻撃を受けた。みんなが散り散りに落ちていく。幸いにして雪に落ちたからダメージは少なくて済んだけど、魔人の攻撃と合わせても150以上食らった。残りHPは121。これ以上は、まずい。
「葵は・・・!?」
辺りを見ると、樹氷に激突したのか、血を流して倒れている人の姿が見えた。
「ああ・・・っ!」
もう、絶望的だ。とにかく、葵を探さなきゃ。
「葵っ! どこ!?」
返事がないし、見当たらない。一緒に攻撃を受けて倒れている人は見える。葵がいなくても、助けなくちゃ。
「し、しっかりしてください!」
「う、うぅ・・・!」
苦しそうな表情を浮かべ、立ち上がろうとするも体を起こすことができない。そのそばを、逃げ惑う人たちが通り過ぎていく。魔人の攻撃で前に飛ばされて、私たちが先頭になったんだ。だけど、それがそのままターゲットになってしまった。魔人は既に、次の攻撃の準備ができている。
大きな手が、迫りくる。残りのMPを、全部使って、
「メガパスカル!!」
ブオオオォォンッ!
風属性の上級魔法を放った。私は尻餅を着いたけれど、魔人の手を止めることには成功した。私は、戦闘不能になっても宿屋に戻れば復活できる。ここで、時間を稼ぐんだ。
私のずっと上で止まっている魔人の手を見上げていると、グーだったその手がパーに開かれた。魔人のとっての正面、私の後ろの方に向けている。振り返ると、
「え・・・?」
大きな、魔法陣ができていた。半分が水色、半分が黄緑。次の瞬間、その魔法陣から猛吹雪が吹き荒れた。
「きゃああああああぁぁぁっ!!」
「「「わああああああぁぁぁぁぁぁっ!」」」
気付いた頃には、体が雪に埋まっていた。手や顔に当たる雪が冷たくて、痛い。残りHPは、20。
「う・・・、あ・・・!」
体に覆いかぶさっていた雪は浅く、外に出ることができた。だけど、立ち上がっている人は1人もいなかった。背中だけが見えている人、雪に埋もれているのかか膨らんでいるのが見える人、血を流している人。
「こちら探索班Eグループ! 魔人の攻撃により壊滅状態! ヘリによる救助を要請する! 以上!!」
監視係の人が、ほぼうつ伏せの状態になりながらもトランシーバーで連絡を取った。だけど、今から救助を頼んでも、もう・・・。
魔人の方を見ると、拳が構えられていた。
ドオォォン!
魔人に近い方の人から、狙われてるんだ。
ドオォォン!
私ももう、体が動かない。
ドオォォン!
少しずつ、近づいて来る。
ドオォォン!
ドオォォン!
ドオォォン!
そのまま、やられてしまうのを待った。
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「千尋ちゃん、千尋ちゃん」
私の名前を呼ぶ声がして、目が覚めた。
「ん、ん・・・?」
目を開けると、葵が顔を覗かせていた。
「あ、葵・・・」
葵はほっとしたように表情を緩めたけど、その目からは涙がボロボロと流れていた。
「誰も、助けられなかった・・・」
葵は、悔しそうにそう呟いた。私も仰向けの状態で、両目の外側を耳をつたって涙が流れるのを感じた。
大村君からメッセージが入っていた。2人そろって戦闘不能になったのだから当たり前だ。
<魔人に、襲われた。1つのグループが、丸々全滅しちゃった>
とりあえず、返事をした。
<そっか・・・。今日帰ったら、どんな様子か見てみるよ>
10台のバスに分かれているグループの、1台分が丸々やられてしまったんだ。報告か何かあるはず。せめて、他のグループの人たちは無事に帰れてるといいけど。
<うん、お願い>
「今日はもう、帰ろっか・・・」
「・・・うん」
葵が差し伸べてきた手を、無意識のうちに掴んだ。そう言えば戦闘不能なのに、と思ったのは立ち上がってからのこと。お互いに戦闘不能同士だと、触れることができるようだ。
言葉もなく、昨日よりも重い足取りでスノーウィーンに向かった。こんなことだってあるのに、社員の人たちに探索に行かせるなんて・・・。悲しみや悔しさが落ち着いてくると、怒りが立ち込めてきた。
大村君のHPが減っていることに気付いた。疲れて手が止まったりして、鞭で叩かれたんだ。大村君も、歯を食いしばって耐えている。だから、私たちも耐えないと。だけど、いつまで、こんなことが続くんだろう。いつか、限界を迎えるはず。きっと、そんなに遠くない。
晩ご飯は、葵と一緒に食べることにした。だけど、特に会話はない。そんな中、大村君からメッセージが入った。
<探索班Eグループが全滅したらしい。で、採掘班Eグループの人が全員そっちに異動になった。採掘班Eグループには明日、ビジナから囚人が送られてくるらしい>
「「そんな・・・!」」
こんなことがあってまで、わざわざ更に人を集めてまで、続けるなんて。
「信じ、られない・・・!」
そう言った葵の表情には、見たこともないぐらいの怒りの色があった。私だって、同じ気持ちだ。今すぐにでもメタリックに殴り込みに行きたい。
ごめん、大村君。私たち、いつまで我慢できるか分からないよ・・・?
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―――8月30日、中野サイド―――
これまで入ったどの洞窟よりも奥に進んだ。ついに魔人滅殺剣を探しに行けるんだな。
「お?」
樹氷が並んでるのが途切れて、先に何もない感じになってるのが見えた。ずっと進むと、地面もところどころ途切れているのが分かった。
「お、おい・・・!」
道がほとんどねぇ。あーいや、車が5台並ぶぐらいの横幅はあるんだが、やたら分かれ道多いしうねってるし、道がない部分が崖だ。なんか、ぶっといクモの巣の上を歩かなきゃいけない感じ。しかも、猛吹雪だ。バランス崩して足踏み外したら谷底に落っこちちまう。こりゃ、マジやべぇな。
「ここが、吹雪の谷だ。山の上の方には、これを越えないと辿り着けない。見ての通り足場が限られてるのと、ここは年中毎日この吹雪だ。モンスターも出るから心してかかろう」
次回:中腹の難所、吹雪の谷




