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4人の魔法使いの冒険  作者: 藤見倫
第3章:巻き起こせ、労働革命
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第119話:雪山労働者の暮らし

 ―――8月29日、大村サイド―――


 3時に休憩時間に突入し外に出た。お茶キーパーから出されるコップ1杯のコーヒー飲料とサンドウィッチ1個が用意されていた。どちらもクオリティは微妙だったが、ないよりはずっといい。


 高松さんたちからの連絡はない。スノーウィーンに向かって伸びている線があるから、2人は街に戻っている真っ最中だろう。現時点では様子を見ることしかできることがないが、収穫はあっただろうか。


 マップ画面で念じると、エーデルマウンテン内の図面に切り替わった。俺がいる採掘班、女性陣が追う探索班とも、山の中南~南西部に分布している。俺たちが見ていないグループは上に行ってのるか、あまり上の方まで登らなくても十分に鉱石が採れるのか。


 南東部分のエリアにも独立した線があり、そっちは中野がウロついてる方だろう。他のパーティーと行動しているらしいから、おそらくメタリックの行動範囲を避けている。



 ピ~~~~~~ッ!


 3時半、再び笛が鳴り洞窟の中にみな入り始めた。



 それから6時まで、また同じ作業を繰り返した。右の二の腕がもうパンパンだ。あまりにも単調過ぎて、頭も少し痛い。これを明日もやらなければならないのか。俺の体力的にも、早いとこ何かを見つけないとマズい。社員寮を兼ねている事業所建屋に、何かあればいいが。


 洞窟の外に出るとコップ1杯の水が支給され、バスに乗り込んで事業所建屋に戻った。他のバスもぞろぞろと戻って来て、すぐに10台全部そろった。探索班の方も戻って来たようだ。


 バスを降りると、採掘班Dグループの監視係に呼ばれた。俺の他に、3人のメンバーも。


「オームラには、こいつらの部屋で寝泊まりしてもらう。よろしく頼む。お前たち、行っていいぞ」


 ルームメイトとなる3人は建屋に入って行った。


「これからここで生活にもらうに当たって、いくつか説明する。来い」


「はい」


 Dグループ監視係について行き、建屋の中へ。まず案内されたのが、食堂。


「食事の時間は決まっている。朝食は7時、夕食とも7時だ。少しでも遅れれば食べる物はないと思え」


「はい」


 中々に厳しいが、昼間の重労働と比べたら何のことはない。次に案内されたのが、風呂場。


「風呂は、夜7時半から10時の間までは自由だ。後でも説明するが、部屋の門限が10時となっているのでそれまでには戻るように」


「はい」


 部屋に門限って・・・。とにかく10時以降は部屋から出るなということか。


 北側から階段を上がることになったのだが、階段のそばに“倉庫”の表示板がある扉があった。映画に出てくる銀行の金庫のような厳重な造りになっている。カードリーダーのようなものと、5桁のダイヤルロック。一部の社員しか入れないようだな。いつか侵入を試みなければならないが、内側もどんなセキュリティがあることやら。


 重要そうな物があったことに安堵しつつ、階段で上へ。


「エレベーターは管理職以外は使用禁止だ。使うことのないように」


「はい」


 あーはいはい。だったら何で社員寮が4階より上なのかな・・・。簡単に逃げられないようにするためか。


 2階には寄らず3階まで行った。次に通されたのは事務室、朝にも連れて来られた部屋だ。


「朝8時半までにここに来い。何があっても遅れることのないように」


「はい」


 遅刻したら探索班に異動だろうか。このまま採掘班に居続けても進展がないようなら探索班に移るのも有りだが、遅刻一発で企業活動妨害罪を適用されては敵わない。自ら志願した方がよっぽど安全だな。


 そして、社員寮部分の4階に上がった。俺の部屋は5階らしいので、素通りして更に上へ。なお、6階は女性部屋らしい。男は6階に上がる階段から進入禁止。5階の廊下を歩き、とある部屋の前で立ち止まる。特にノックもせずに監視係がドアを開けた。ちょうど、中のメンバーが外に出ようというタイミングだった。6時50分、もうすぐ夕食だ。


「お前たち、少し待っていろ」


 3人は返事もせず、その場で立ち止まる。


「ここがお前が寝泊まりする部屋だ。ベッドは左上のを使え。押し入れは左に並んでいる4つのうちの一番奥だ。自由に使ってもらって構わない」


「はい」


「それから、午後10時から翌朝午前6時50分までの間は、この部屋から出ることを禁止している。トイレと流しは右にあるから問題ないだろう」


「はい、分かりました」


「今日の午前中も注意したが、一切の私語が禁止だ。作業中はもちろん、休憩中も、部屋にいる間もずっとだ。至る所に監視カメラがあるから気を付けることだな」


 顔を上に向け、部屋の天井を見渡した。なるほど、四隅に1つずつカメラがある。常に監視されるという訳だな。


「では、説明は以上だ。夕食に向かうといい」


「ありがとうございました」


 部屋のメンバーたちと一緒に1階の食堂へ。みんな風呂に入る道具も持っている。1階と5階の往復、面倒だからな。エレベーターが使えないんだったらそうするか。俺は四次元収納があるから手ぶらで行くが。



 禁止されているので誰とも口を利かず、食事・風呂を済ませて戻って来た。声を出すことが禁止されるというのは、想像以上に辛い。食事でも風呂でも咳払いや欠伸をする人が多かったのは、喉を慣らすためだろう。そうでもしないと、年中毎日喉を休ませることになる。


 なお、食事はボリューム多めでクオリティは中の下、風呂場は100人ほど同時に入れそうな大浴場。だが、大半が食事後に入るのでかなり混み合う。俺は1階と5階をもう1往復してでも空いてる時に入ろう。部屋が4人部屋である以上、風呂が気分を落ち着かせることができる唯一の場所だ。


 部屋に戻り、疲れが溜まっているのと何もすることがないので早々に寝た。


 --------------------------------


 ―――8月30日―――


 翌朝。アラームを6時半にセットしていたがその前に起きた。アラームをオフにし、体を起こす。反対側のベッドの2人はまだ寝ている。このベッドの下の人がどうかは分からないが、わざわざ見ない。他のメンバーが起きるまでストレッチでもやってるか。



 朝食後、部屋に戻った。8時半に事務室だから、1時間ほど暇だな。ベッドで横になり、筋肉痛になってしまった。腕を揉みほぐしながら過ごした。


 ここの人たちは、こんな生活をずっと続けているのか。もはや監禁されている気分だ。それでも刑務所よりはマシなのだろう。俺も、これに耐えてまで残ってる人たちも刑務所に入ったことがないだろうから、食わず嫌いなのかも知れないが。


 何としても解放してあげたいのだが、見つかった手掛かりは1階の倉庫だけ。あとは役員室も気になるが、2階や3階を歩き回ると監視カメラに映るだろうから、そんな真似はできない。


 8時20分、ルームメイトたちと一緒に事務室へ。さあ、2日目の始まりだ。


 --------------------------------


 バスでの移動が終わり、洞窟の入口に到着。昨日と同じように中に入った。俺には、専属のMP回復係として昨日とは違う人が付いた。昨日の人は事業所の医務室担当らしい。明らかに怪我のリスクが高い俺たちには監視係しかおらず、事業所に残る役員たちに医務室担当が付くとは。俺たちが肉体労働をするなか役員は何をやってるんだか。


 昨日と同じ採掘場に到着し、作業開始。分かれた後の5人のメンバーも昨日と同じだ。せめて場所やメンバーを変えるぐらいの変化は欲しいな。


<今日もとりあえず、探索班の人たちの後を追ってみるね。バスが来たわ>


<分かった。お願い>


 久々に高松さんからメッセージが入った。向こうも、昨日と同じか。最悪はトラブルになるのを覚悟で日中の事業所内に潜入してもらおうか、なんてことも頭をよぎる。今日はもうバスの所まで行ってるみたいだし様子見でいいか。


 さて作業開始だ。杖で壁をつつきながら銅に輝く鉱石をそぎ落とす。1秒に1回以上のペースで壁をつついていると、心が無になっていく・・・。


 --------------------------------


「はぁ、はぁ、はぁ・・・」


 まだ10時過ぎ、30分ちょっとしか経っていないのだが息切れして意識がはっきりしてきた。右腕ももう、肩の高さまで上げるのがやっとの状態になっている。あえなく、杖を左手に持ち替えた。さすがにこの程度で鞭で叩かれるようなことはなかった。右手をだらーんと力なく垂らし、左手で壁をつついていく。


 --------------------------------


「はぁ・・・・・・、スゥーッ、、はぁ・・・」


 11時過ぎ、左手も疲れてきた。単調な作業の連続で、頭も少しクラクラしてきた。他のメンバーは息を切らすこともなく淡々とツルハシで壁を削り続けている。どうして、そんな平気でいられるんだ・・・? ずっとこんな日々を続けていれば、いつかその領域に到達するのか・・・? だとすれば、この人たちはどれほど長い間この雪山に閉じ込められているんだ・・・?


 あと1時間弱、気合で乗り切ろう。杖を持ち替える頻度が上がりながらも、採掘のペースは下げずに作業を続けていった。


 --------------------------------


 11時50分。あと10分か。



 11時54分。あと6分か。最後の10分が、遠い。



 11時57分。あと3分、早くしてくれ。



 11時59分。こんな頻繁に時間を確認することになるなんて。



 11時59分。くそっ、まだか。



 ピ~~~~~~ッ!



 長い笛が鳴った。やっとか。


「はぁ、・・・はぁ、・・・スゥーーッ、・・・ハーーーッ」


 杖を四次元収納にしまい、両腕とも下に垂らすことができる喜びを噛みしめる。腕と同様にパンパンになってしまった足を何とか動かし、食事と水分を求めて洞窟の外へ。


 高松さんからのメッセージは入らない。向こうも変わり映えがないのだろう。


 昼食を終え、ウォームローブに包まれた身を雪の上に投げた。次の笛が鳴るまで横になっていよう。あと30分はある。午後もまた、あれを続けるのか。2時間半の2セット、体がもつ気がしない。



 ピ~~~~~~ッ!



 休憩の終わりを告げる笛が鳴った。30分が、こんなに短いなんて。次の2時間半は今の5倍程度と考えたら少し気が楽になったのだが、このあと永遠とも思える2時間半を2度も過ごすことになることを、この時はまだ知らなかった。


 それと、何度か握力を失い杖を落として鞭で叩かれることになった。



 --------------------------------



 ―――8月30日、高松・花巻サイド―――


<今日もとりあえず、探索班の人たちの後を追ってみるね。バスが来たわ>


<分かった。お願い>


 結局、妙案が浮かばず昨日と同じになった。

 昨日宿屋に帰った後のことはあまり覚えていない。お互いに1人になりたくて、晩ご飯も別々に食べた気がする。お風呂に入って、歯磨きして、気付いた頃には今日の朝を迎えていた。アラームだけはちゃんとセットして寝たらしい。


 ひと晩たつと気持ちが少し落ち着いて、葵と一緒に朝食を食べた。「今日も探索班を追ってみよっか」「うん」の他は、差し障りのないことばかり話したと思う。


「昨日の監視係の人とは違うグループを見ましょう」


「うん」


 少しずつ、いつも通りの感じに戻っていく。

 昨日の監視係の人を発見し、それとは全然違う方向に向かうグループを選んで追跡。昨日よりは、少し北寄りに行くみたい。


 --------------------------------


 11時ごろ、MPが減ってきて一旦村に戻った。ついでにお昼も食べよう。この間に、何も起こらないと良いけど。


 大村君からメッセージは入らない。ただ単に杖で壁をつつき続けるだけの作業。作業そのものは何のことはないけど、絶対に楽じゃないことだけは、やらなくても分かる。頑張っている大村君のためにも、私たちが、何か見つけなくちゃ。そのためには、何をすればいい・・・?


 --------------------------------


 お昼を食べた後、元いた場所まで行った。だけど、追っていたグループの姿はもう無かった。天気がいいのが幸いして、たくさんの人の足跡が残っていた。


「あっちね、行こう」


「うん」


 2人で、足跡を辿って行った。目的地がある訳じゃないから、かなり蛇行している。樹氷の隙間から離れた場所に足跡が見えた時はショートカットをした。


「ちょっと、雲行き怪しいわね・・・」


「うん・・・」


 太陽は灰色の雲に隠れてしまった。まだ、ずっと見ていられない程度には明るい。



 雪を踏みしめる足音だけが響く時間が続いたり、たまに出て来る狼やリスを退治したりしながら樹氷の森を進む。もう空は、どんより灰色になってしまった。太陽はもう、あの灰色の向こう。このままだと、雪が降りそう。


「あっ千尋ちゃん、いたよ」


 葵が指差した先に、50人ほどの団体の姿が見えた。メタリックの人たちだ。葵と頷き合い、距離を保ちながら追跡を続けた。あの人たちの周囲で現れるモンスターを倒すことで助ける、どれ程の意味があるのかは分からないけど、それしかできない。それも、手助けできるのは1グループだけ。見ることができない他のグループでは、既に昨日みたいなことが起こっているかも知れないのに・・・。


「あっ」


 雪が、ちらついてきた。樹氷の森で、ひらりと舞う雪。いい景色のはずなのに、今はこの雪が邪魔に思えてならない。


 それから1分もしないうちに、雪が強くなった。


「うわっ、何?」


 風も強くなって、ただでさえ樹氷で遮られる視界がさらに悪くなった。葵を手をつなぎ、何とか見えるメタリックの人たちを追う。あの人たちも、腕を縦にしながら前に進んでいる。


 10歩ほど歩いた次の瞬間、



 ゴオオオオオォォォォォォォッ!!



「「きゃっ・・・!」」


 強烈な風が吹いて視界が真っ白になった。思わず大きな声が出てしまったけれど、風の音でかき消されたはず。


 やがて風が止み、目を開ける。雪も止んでいた。その代わり、



「何、あれ・・・?」



 巨大な雪の化け物が、そびえ立っていた。


次回:遭遇、雪山の魔人ニアトムウォンス

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