第117話:スノーウィーン工場探索班
―――8月29日、高松・花巻サイド―――
雪山を歩き回ってる班を追っていたら、昼の2時半過ぎ、ついに大怪我をした人が出た。
「お前の仕事は鉱石地帯を探し当てることだ! こんな所で油を売っている暇はないぞ!」
あの監視係の人は、確かにそう言った。
「鉱石地帯を、探す・・・? モンスター退治じゃなくて、そっちが目的ってこと?」
「分からない・・・。でも、私もそう聞こえた。だけど、あんな言い方しなくたって・・・」
いくらなんでも、あれは酷すぎる。こんな寒い中、会社のために頑張って歩き回ってモンスターとも戦ってるのに。
「歩かぬ者に払う給料は無いぞ!」
「ちょっ・・・!」
思わず、声が出てしまった。
「酷い・・・」
私も同じ気持ちだけど、
「今は、我慢よ」
「うん・・・」
どうすることもできず、しばらく成り行きを見守っていると、あろうことか監視係は怪我人を見捨てて歩き出した。
「は・・・!?」
「うそ・・・っ!?」
歩けない人をこんなところに放置したら・・・! 監視係だけでなく、他の人たちも見向きもしない。
私は今にも走り出しそうな葵の手をつかんだ。
「あの人たちが離れるなら、逆に好都合よ。見つからないように助けに行きましょう」
「あ、うん・・・」
待っている間にも、私たちの所にもモンスターは出る。頻度が低いのが幸いだけど、やっぱり葵と私だけじゃきつい。あの人を助けたらまた回復しに行こう。
2~3分で他の人たちは見えなくなった。私たちが助けに行けるようになったのはいいけど、こんなことって、あるの・・・? 怪我した人は、左足から血を流しながらフラフラ歩いている。
「行こう」
葵と頷き合い、あの人のもとへ向かう。途中でこっちに気付いたみたいだけど、すぐにまた顔を前に戻して歩き始めた。だけど向こうは怪我人、すぐに追いついた。
「あの、大丈夫ですか?」
「ヒール」
淡い水色の光が怪我した場所を包んだ。このくらいの怪我なら、直せるはず。その人はしばらく固まり、やがて足の痛みを確かめるように両手で触り出した。表情は、さっきよりも穏やかになっている。だけど次の瞬間、私たちを睨みつけてきた。
「「っ・・・!」」
思わず、驚いてしまった。もちろんお礼を言って欲しくて助けた訳じゃないけど、こんな反応が返ってくるとは思わなかった。
そして次は、どっか行けと言わんばかりに手を何度か横に振った。ちょっと、どうして。
「1人で戻るなんて無茶ですよ。私、攻撃魔法使えますから」
それでも、その人の反応は変わらなかった。口を利かず、何度も何度も手を強く横に振った。何を意地になってるのか分からないけど、こっちだってこのまま見捨てる訳にはいかない。
「私たちはただの旅人です。雪山の中を1人で歩いてる人を見かけたので援護します」
「関わるなって言ってるのが分からないのか!!」
やっと口を開いてくれた。だけど、完全な拒絶。
「何をしている」
「っ・・・!」
後ろから声がして、怪我してた人が“まずい”と言った様子で声のした方を見た。私たちも、それとほぼ同時にバッと後ろを振り返った。さっきの監視係の人だ。しまった、この人の説得に集中し過ぎて気付かなかった・・・。
「トレジャーハンターか。すまないが、我が社の社員に近寄らないでくれないか」
「怪我したのを見捨てておいて、何が“我が社の社員”ですか! こんな所を1人で歩かせるなんて危険です!」
「それが我が社のルールだ」
「何ですって・・・!」
「新たなる採掘場所を探し当てるのが、この探索班の役目。それが果たせなくなった者に対する施しにコストは割けない。バスに戻れば救急道具があるから問題ないだろう」
何を、言ってるの。この人は。
「バス戻ることすらできないでしょうが!」
「やかましい女だな。外部の人間が首を突っ込まないでくれないか。それ以上は企業活動妨害罪を適用させてもらうぞ。我々企業の人間が被害届を出せば、ほぼ成立する」
「なっ・・・!」
「ここはナチュレの領土ではあるが、エコノミアに本社を置く我々メタリックカンパニーは特例として認めてもらっている」
特例ですって? そんなの、デタラメに決まっている。エコノミア政府とグルになって邪魔者を排除したいんでしょうが。だけど、
「っ・・・」
「もう、いいか」
これ以上は、何も言えなかった。ここで私たちがトラブルを起こせば、ここまで頑張ってきた分が、肉体労働に耐えている大村君の苦労が、全部水の泡になる。
<葵、ごめん・・・>
<ううん。しょうがないよ・・・>
「分かってくれたなら、いい」
そう言って監視係の人は立ち尽くす私たちを一瞥した。さらに、
「お前、今回は見逃してやる。ただし、次、外部の人間と関わったら、どうなるか分かってるな」
「はい・・・」
神妙な面持ちで返事をしたその人も一瞥して、この場を去って行った。外部の人間と関わってはいけない、これがあるから私たちの手助けを拒否したんだ。どうすれば、いいの・・・?
「葵、一旦、戻ろう」
「でも・・・!」
「もう、無理よ。あの人にとっても、私たちにとっても、リスクが大き過ぎる・・・っ」
「う、ん・・・」
葵は納得いかないと言った様子で、渋々頷いた。私だって、こんなの納得できない。絶対に、メタリックの人たちを助けないと。
<こっちの人たち、モンスター退治じゃなくて新しい採掘場所を探すのが仕事だったわ。それがかなり酷いの。怪我して動けなくなった人は見捨ててる。助けようとしたら企業活動妨害だって脅されたわ>
大村君の返事まで間があった。疲れてるのかも。無視してないといいけど。
<そっか、分かった。ありがとう。そっちは任せるよ>
あんまり、考え事をする余裕もなさそう。
「私たちで、何とかしよう」
「うん。・・・このままじゃ、絶対ダメだよ」
宿屋で回復した後、また出発。
「また行って、メタリックの人たちの近くでモンスター退治をしましょうか。そうすれば、メタリック人たちが戦う敵が減るかも知れないから。今は、それぐらいしかできないけど」
「うん・・・。私も、何かできることがないか考えてみるね」
「お願いね。行こう」
集団の近くに行くよりも前に、さっき怪我した人が心配だったので、その辺りに行ってみた。上手くバスの所まで戻れてればいいけど。バスの中にいれば、狼もリスも来ないだろうから。
今日が晴れていて、良かった。もしかして、大雪の日でもこれをやるの・・・?
さっきの人と別れた場所に着いた。
「あっちね」
樹氷に囲まれているけれど、マップ画面と街で買ったコンパスを頼りにバスが停まっている方に進む。
倒れていたりしてないか注意深く周りを見ながら進んでいるけど、樹氷が邪魔で見落としが多い。大声を出して呼び掛けても、外部の人間と関われないから返事は絶対に来ない。見落としが多いのも許容して、あまり一箇所に集中しすぎずに進むようにした。
特に何も見つからないまま、バスの所に着いた。
「運転手、かな」
そう言ったのは葵。
「多分。バスの数と同じだし」
1台のバスだけエンジンが掛かっていて、その中で5人の人が何かを食べたり飲んだりしながら談笑していた。この人たち・・・!
救護所は、相変わらず外に置いてあるまま。怪我人が戻ってきたら対応するとは思うけど。
「いくらなんでも、酷い・・・」
「ここも、我慢よ。さっきの人は戻って来てないみたい。やっぱり途中でまた襲われたのよ。探しに行きましょう」
「うん」
葵は力強く頷いた。
直接助けることはできなくても、周囲のモンスターを退治するぐらいのことならできるはず。私たち2人じゃ、多くの人は助けられないけど、1人でも、2人でもいいから助けよう。そして、こんなことをしているメタリックを叩き潰して、みんなを助ける。
しばらく歩き回っていると、
「あっ、あれ!」
樹氷の物陰から人の足のようなものが横に出ているのが分かった。やっぱり、倒れてたんだ。周りに他のメタリック社員がいないことを確認しながら、近くまで来た。そこには、雪に顔をうずめて倒れている人がいた。体中いたる所を怪我してる。このグレーの作業着は、メタリック社員。周りに人がいないことを確認して、
「大丈夫ですか、大丈夫ですか!」
肩を揺さぶってみた。これで起きるなら、それでよし。私たちが姿を消せば、外部の人間と関わったことも分からないはず。でも、ダメだった。
「私に任せて。ヒール」
葵がヒールを掛けるも、動かない。
「ヒール!」
まだ、動かない。
「フィジカルアップ!」
確か、身体能力を上げる標準魔法。試せるものは、全部試そう。
「「シルフィウィンド!」」
あれも、ダメ。
「ヒーリングサークル!」
これも、ダメ。
「大丈夫ですか! しっかりしてください!」
もう一度肩を揺さぶってみたけど、反応なし。顔が雪に埋もれてて可哀想。体を回して、あお向けにした。
「「ハッ・・・!」」
言葉が、出なかった。顔は真っ青で、ぐったりしていた。どう見ても、平気じゃない。胸に耳を当ててみた。ダメだ・・・。鼓動が聞こえない。
「そんな・・・!」
手首で脈を取ってみた。これも、動いている気がしない。
「どいて!」
葵が割って入ってきて、私と同じことをした。真剣だったその表情が、少しずつ崩れていく。
「どうして・・・っ!」
その目に、涙が溜まり、瞬く間に流れ始めた。
「レイズデッド!!」
レイズデッドは、この世界の住人には効かない。分かっていても、やってしまう。もちろん、その人が動き出すことはなかった。
「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」
葵の叫びが、樹氷の森の中で響く。
「っ・・・! 私たちが、ちゃんと見ていれば・・・!」
私の目にも、涙が溜まっている。けれど、流さずに持ち堪えた。
悔しい。悔しい。悔しい。MP回復なんてものに戻らなければ、そもそもMPにもっと余裕があれば、こんなことにはならなかった。だけど今日ももう、余裕がない。メタリックの人たちを助けるには、MPが必要だ。
「うっ・・・! ヒッ・・・!」
葵は尚も涙を流し続ける。
「今日はもう、帰りましょう・・・」
苦渋の決断だ。人を助けたくても、圧倒的に力が足りない。私たちがゲームオーバーになっても、エコノミアに捕まっても、誰も助けられなくなる。今日はもう、できることがない。どうすれば・・・。
返事がない葵の肩を抱き、立ち上がり、スノーウィーンに向かって歩き始めた。
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―――8月23日、中野サイド―――
スノーウィーンに着いて昼飯を食った後、なんかの倉庫みたいな所に行った。
「んーっと、こいつと、こいつと、・・・こいつも持ってくか」
「何やってんだ?」
「鉱石採集の道具を借りてんのさ。トレジャーハンター用に貸出しがあってな、この倉庫のやつは自由に持って行ける」
「マジか。太っ腹だな~」
「ま、ナチュレとしてもトレジャーハンターに行かせた方が楽だからな。鉱石の買取りも結構な額だぞ」
「マジ? いいねぇ」
ユラスたちが道具を取り出すのを待った。
「んじゃ準備OKだ。出発しようぜ」
「おう!」
次回:レッツ鉱石採集




