第116話:スノーウィーン工場採掘班
―――8月29日、大村サイド―――
「まずは体操だ。いつものように外へ出て始めるぞ。オームラは初めてだろうが、周りを見ながら何とかしろ」
「あ、はい」
随分と雑な指示だな。
ぞろぞろと移動を始め、守衛所とは反対側の扉から建物の外へ。他のグループの人たちだろうか、かなりの人数が集まっていた。少なくとも200、もしかするとその倍は居るかも知れない。それと、高松さんから聞いた通りバスもあった。
ポッカリ空いている部分が採掘班Dグループのようだ。多分、新入り(俺)の紹介をしていた分だけ遅れた。やっぱ寒いな。俺はしれっとウォームローブに変えたが、他の人たちは大してあったかくなさそうな作業着で寒空の下での体操を強いられる。
パッ、パ~ラパッパッパッパッパ~♪
柱のスピーカーから音楽が流れてきた。体操の音楽だろう。振付けが全く分からないが、周りを見ながらそれっぽくやるとしよう。
体操終了。再び集まって整列。
「ではこれより採掘場へ移動する。行くぞ」
特に会話もなく足音だけが聞こえる中、バスに乗り込んだ。最初事務室で集まったメンバーが同じバスだから、各グループで1台のようだ。採掘班以外に何があるのか聞きたいのだが、余計な私語は怒られそうな雰囲気だ。
<前から4台目のバスに乗った>
<オッケ>
両サイドに樹氷が広がる中、道が整備されていてそこを進んでいる。外の景色は相変わらず樹氷で圧倒されるものだが、変化がない上にカーブも多いから居場所が分かりづらい。マップ機能のおかげで北東―――エーデルマウンテンの方角―――に向かっているのが分かる。プレイヤーが通った線が3重になっているのは高松さんたちの分もあるからだな。
そして、スノーウィーンから北に向かっている線は恐らく中野の分。何本もあるから、ここ1週間で何度も行き来しているのだろう。
窓の外を見たいのだが、中央の補助席になってしまった上に初日からキョロキョロしたくないから横目で見るぐらいにしておいた。
<ごめん考えてみたらバスについて行けないや。道を辿って行くね。モンスターたまに出るけど>
<分かった。気を付けて>
バスは20分ほどで目的地に到着したらしく、停車した。補助席のメンバーから順番に降りる。あれ・・・5台しかここに来てないぞ。残り5台はどこいった?
<道2つに分かれてるよ? 大村君が行ってない方に行こっか>
やっぱそうだったか。他にも作業場があるのだろう。
<ごめん外見れなくて気付かなかった。それでお願い。こっちは何か洞窟があるね。採掘班って言われたから本当に採掘するのかも>
<オッケ。そっちも気を付けてね>
バスの、座席の下の物入れが開かれ、ツルハシのような物が取り出された。まさか、これで採掘しろと・・・。
他のメンバーが動き出し、1人1本ずつツルハシを取っていく。そしてそのまま洞窟の中へ。入口はいくつかあり、グループごとに入る洞窟が決まっているようだ。俺もそれに倣い、ツルハシを取ってDグループの皆について行った。
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洞窟の中を歩く。照明があり、カーブにぶつかるまでは見通せるほど明るい。当然のことながら、モンスターも出ない。やがて分岐が現れ、監視係(?)が5人ずつに分けていく。
進んでいると、カツン、カツンという音が聞こえて来た。既に誰かいるのか・・・? もしかして、2交代制とかか?
そして、行き止まりに着いた。そこでは、あのAIロボがツルハシで壁を削っていた。なるほど、深夜労働が禁止されているからロボなんだな。だが、昼間でもロボだけに任せられる作業をわざわざ人にさせるとは、やはりここにいるメンバーは何かやらかして飛ばされて来た可能性が高いな。
給料なんて法律ギリギリのラインだろう。子会社化していれば給与形態を本社と違うものにできる。人事異動を無視すれば刑務所行きだから従うしかない。これで会社は邪魔な人間を排除できる訳だ。
他のメンバーがおもむろにツルハシを構え出し、辺りの壁を削り始めた。後ろでは監視係が見張っている。目が合うと、“お前もやれ”と言わんばかりにアゴを前に出しきた。やるか。
周りと同じことをしていればいいし、MPを温存したいから魔法は使わないでおこう。
その前に周りを確認だ。ただの石コロを削り出しても意味ないだろうからな。何やら、銅っぽく光るものを狙っているように見える。なるほど、あれがお目当ての鉱石か。
カツン、カツン、とツルハシで壁を削る。だが、得物が重い上に扱いが難しく、外してただの壁を削ることが何度もあった。こればかりは、慣れていくしかない。腕に乳酸が溜まりそうだが、結局できていない筋トレ代わりにちょうどいい。
<バス、5台停まってる場所に着いたよ。洞窟とかはなくて、救急箱とブルーシートで救護所っぽいのがあるけど人はいない。樹氷の森に入る足跡がたくさんあるから多分入ってってる。一旦スノーウィーンに戻って回復して来るね>
<分かった。バスでそれ以上は行けないんだろうね。まさかモンスターが出る場所を社員に歩かせるなんてね。救護所はケガ人用だと思う。こっちはツルハシで採掘中。自由に動けないからそっちは頼んだよ>
<え、ツルハシ? ・・・頑張って>
頑張りますとも。
実態が分かったはいいが、あまりにも自由に動けなさすぎる。女性陣が外部からの調査に回ってくれたのはかなり大きい。
11時。作業を始めてから1時間半が経ったが、休憩に入る気配はない。監視係だけはちゃっかり1時間で交代した辺りが憎たらしい。さすがに、腕が疲れてきた。一旦ツルハシを地面に置き、二の腕を揉んでいると、
バチン!
「い゛た゛っ!!」
「私語は慎め!」
バチン!
「っ・・・!」
鞭で背中を叩かれたようだ。マジかよ・・・。2発目は歯を食いしばって声を出さずに済んだが、かなり痛い。今のでHPが84減った。くっそ・・・。まさか、こんな絵に描いたような悪質労働が待っているとは思わなかった。これは給料も法律守ってるか怪しいな。とにかくすぐにツルハシを取り、作業を再開した。肉体労働で体があったまっているから、装備をバッファローブに変えた。
<HP減ってるけどどうしたの? 大丈夫?>
気付くのが早いな。適当にごまかしても、このままいけば握力がなくなってツルハシを落とし叩かれることになるから、事実を伝えよう。
<疲れて作業を止めたら鞭で叩かれた。ちょっとキツいけど、気を付ける>
驚いているのか、返信まではしばらく間があった。
<嘘でしょ・・・。ホントに無茶しないでね。無理だって思ったら逃げて来ていいからね。一緒に戦うから>
くっ・・・。逃げれば間違いなく企業活動妨害罪になり、捕まるか戦うかのどちらかになる。それだけは、何としても避けなければならない。
<・・・分かった。もしもの時は、よろしく>
11時55分。もう、腕を振るのがやっとだ。休みなしでツルハシを振り続けているから当然だ。12時に、休憩に入ってくれ。
12時になった。休憩は、休憩は、休憩は。
ピ~~~~~~ッ!
長い、笛が鳴った。よし、休憩だな。他のメンバーが作業を止め始め、ツルハシも地面に置いた。もちろん俺も、半分落とすようにして地面に置いた。監視係が洞窟の外に向かって移動を始め、皆でついて行く。ロボットも作業を止め、ついて来た。確かバッテリーは10時間だから、他のロボと交代して充電に入るのだろう。
外に出ると、弁当箱とペットボトルのお茶が置いてある箱があり、それぞれ1つずつ持って行った。椅子やテーブルはなく、雪が掃けられている地面に座って食べるようだ。
弁当は、ボリュームはそこそこだがクオリティが微妙・・・。まあ、こんなものだろう。昼食を食べ終えわると、監視係が話しかけてきた。
「プレイヤーがここに来るのは初めてだったが、体力がないようだな。魔法の使用を許可するから、精いっぱい働くように」
「あ、はい。すみません・・・ありがとうございます」
そう言うことであれば、MPが減ってしまうが使おう。鞭打ちでHPがゼロになっては元も子もない。戦闘不能で働けなくなった途端に企業活動妨害罪も有り得る。
休憩は1時までとのことで、地面に座ってゆったりしていると高松さんからメッセージが来た。
<いたわ。50人ずつぐらいに分かれて歩いるだけみたいだけど、何やってるんだろ? モンスターとも戦ってるみたいよ。剣とか斧持ってるし>
マジで戦わせてるんだな。モンスターを相手にするから50人1組にしているようだ。道を作ればバスを通せるはずなのに何考えてるんだ? まさか自然保護なんてことはないだろう。
<それぞれの作業場に行ってるのかな。1組だけでもいいから追ってみてもらえる?>
<いいわよ、任せて。1回お昼食べるために戻るけど>
本当は俺もそっちに行きたいのだが、無理だ。ただ採掘を繰り返すだけでは鉱石しか得られないというのに。
1時。再び笛が鳴り、みな立ち上がって洞窟の中へと向かった。
採掘場に到着。午前中に削り落とした銅色の鉱石は回収されていた。休憩中にロボにでもやらせたのだろう。
さて作業再開だ。お言葉に甘えて魔法を使わせて頂いた。その気になれば手を触れずに鉱石だけを取り出せるのだが、MP消耗が大きそうなので、杖で軽くつついて落とす感じにした。狙った通りに、銅色の鉱石が落ちていく。午前中に使っていたツルハシと比べたら、杖は綿のように軽かった。
MPの消耗は、1回当たり2。単純計算で200回ちょっとで使い切る。5時まで働かされるとすれば、もたない。かと言って牛歩戦術を採る訳にもいかないしツルハシを使う体力もない。仕方ない、一か八かだが賭けに出よう。他のメンバーよりも多くの鉱石を取り出して実績を残し、MP回復のためだけの帰還を認めてもらうんだ。
3分ほどでMPを使い切った。足元には、周りよりも圧倒的に多い銅色鉱石。1秒に1回以上できるのだから、当然だ。作業を止めて監視係のもとに行ったら鞭が待ってるかも知れないから、ツルハシでの作業に切り替えることで伝えよう。目論見通り、監視係が近づいて来た。
「どうした。魔法はもう使わないのか」
「MP、プレイヤーにとっての魔法の使うための生命力を使い切ってしまって、回復しないと使えないんです・・・」
監視係はしばらく黙ったまま俺の足元に散らばっている鉱石を見渡し、
「どうすればそれは回復できる」
と言った。よし、上手くいきそうだ。寮にいけばHPも一緒に回復できるし、バスで往復する間に体力も回復できる。一石二鳥だ。
「寝床に行くか、愛属性の魔法を使うかですね」
一応、隠し事は避けておいた。
「そうか。来い」
監視係は、監視の仕事を鞭と共にロボットに預け、俺を洞窟の外に連れ出した。
監視係は、外に出るなりスマホを取り出し電話を始めた。距離を置かれたせいで何を言っているか分からない。ここ、電波入るんだな。
「しばらくここで待つ」
「あ、はい・・・」
さすがに俺1人にバスは使わず、迎えを呼んだようだ。待っていると、15分ほどで1台の車が来た。助手席から白衣を着た人が降りる。なぜ、白衣・・・?
「では、さっき言った通りに頼む」
「ああ」
白衣の男は内ポケットからステッキのようなものを取り出し、
「メンタルヒール」
と言った。まさか・・・。
「どうだ、十分か」
MPが、200回復していた。
「今ので、半分ぐらいです」
「メンタルヒール」
MPが400になり、ほぼ全回復。
「明日から正式に別の者を付けるが、今日のところは頼む」
「ああ」
「オームラ、作業に戻るぞ」
「あ、はい」
まさか、愛属性持ちの人を用意してくるとは。これで俺はひっきりなしに魔法を使いながら壁をつつく作業を続けなければならなくなった。杖は軽いが、それでも手は疲れるはずだ。それも単純作業の連続、精神的にも楽ではないだろう。
<やっぱりただ歩き回ってるだけっぽい感じ。おんなじ所ぐるぐる回ったりもしてるし。しかも1人ずつ交代でオニギリ食べてるから休憩も取ってなさそう>
高松さんからメッセージだ。どうやら向こうは、ただの採掘班ではなさそうだな。何やってるんだ? あ、もしかすると・・・、
<もしかすると、モンスター退治が仕事かも>
<そんな・・・でも、あり得るかも。でもゲームのプログラムだから全滅させるのは無理よね?>
<この世界の住人はそんなこと知らないんじゃないの? メタリックの幹部は知ってるかもだけど>
<え、それって・・・>
<とにかく今は、様子を見よう>
<・・・うん、分かった>
あっちの方が過酷なのは間違いないだろうな。みんなせっせと採掘作業を続けるのは、あっちに行きたくないからだろう。モンスター退治はロボには無理だし、トレジャーハンターはコストが掛かるし、採掘班の人たちへの脅しにもなる。メタリックには都合の良いこと尽くしだ。
だが俺も、人の心配をしている余裕はない。壁を杖でつつきながら魔法で鉱石を取り出す作業、再開だ。今は1時45分過ぎ。果たして、いつまでもつか。3時か4時に休憩をはさんでくれるといいが。
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―――8月29日、高松・花巻サイド―――
大村君がいるのとは別の班の人たちは、鉱石採掘には行かずモンスターを倒して回ってるみたい。そんなことをしても無駄なのに・・・。手助けしたいけど、近寄る訳にはいかないし、こっちにもモンスターは出る。あの白い狼と透明なリス。
50人ずつに分かれてるから数的有利で何とかなってるみたいだけど、狼もリスも速いから無傷じゃ無理なはず。樹氷の隙間から見るだけじゃ細かい部分までは分からない。首を突っ込むには、まだきっかけが足りない。大村君も言ったように、しばらくこのまま様子を見よう。
途中、大村君のMPが減っていることに気付いた。聞いてみると、魔法を使ってもいいと言われたみたい。ゼロ近くまで減っては、すぐにほぼ全回復していた。ツルハシよりは楽かも知れないけど、絶対に大変な作業だ。
2時半を過ぎた辺りで、
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
と悲鳴が聞こえてきた。誰かが、大怪我を負ったんだ。
「千尋ちゃん」
「待って」
手を横に伸ばして、葵を制止。
「バスのとこに救護所があるんだもの。手当てする道具ぐらい誰か持ってるはずよ」
「うん・・・」
今ならまだ、偶然通り掛かったと言えば怪しまれない。だけど、その手を使えるのは一度だけ。女の魔法使い2人組なんて印象に残るに決まってる。怪我をした人には悪いけど、より多くの人を救うため。
コソコソしてるように見えない範囲で顔を覗かせて見ると、1人が足を両手で押さえて座り込んでいた。だけど、
「なんで・・・」
葵が悲しげにつぶやく。50人近くの人がいながら、怪我した人には誰1人近寄らず、淡々と進んでいる。
「あっ。葵、あれ」
武器を持っていない、監視係みたいな人が怪我人に気付いて歩み寄った。背中の大きなリュックがあるから救急セットを持ってるかも。
「おい、何をしている! 早く立て!」
「「え・・・?」」
耳を疑った。リュックに何が入ってるかは分からないけど、取り出す気配はない。
「お前の仕事は鉱石地帯を探し当てることだ! こんな所で油を売っている暇はないぞ!」
鉱石地帯の、探し当て・・・?
次回:スノーウィーン工場探索班




