第114話:樹氷群のほとり、雪の里スノーウィーン
残された道もトラブルなく進み、ついにスノーウィーンに到着。
「む、来訪者か。お前たち、この暗い中よく来たな」
本当に、苦労しました。ビジナから来たんですよ。
「宿屋は、どこかにありますか?」
目の前には、Y差路がある。
「そこを左に進み、しばらくすると左手にある。立て札があるからすぐに分かるだろう」
ああ、この、兵士が道を教えてくれる感じ。感無量だ。
「ありがとうございます」
兵士と別れ、宿屋を目指す。Y差路の中心に地図があるようなのでそれも確認してみた。
大きめの公園ぐらいの広さの、小さな村だ。明日向かうべきメタリックカンパニーの工場は、一旦街を出て北西方向だ。さほど遠くなさそうだが、念には念を入れて6時半に朝飯を食ったらすぐに向かおう。そしてこの村の真北、工場から見て北東の方角には、魔人滅殺剣が眠るというエーデルマウンテン。
「中野君、来てるのかしらね」
「来てると思うよ。マップの線は僕らが来る前からここまで伸びてたし」
「ま、そっか」
高松さんは大して気にして無さげにそう言った。だが、できることならあまり鉢合わせたくない。だが宿屋は1つだけだから、どうだろう。
その時に女性陣がどうするかは本人に任せるが、俺はメタリックへの潜入を続けよう。行かないと企業活動妨害罪で手配犯になるし。
「う~~。さむ」
高松さんが両手を交差して反対側の二の腕をつかみ、ブルブルと震えている。半分は自分で動かしている感じだ。だが、街について戦闘がなくなってから体が冷えてきたのは事実だ。
「ウォームローブ使ったら? 結構あったかいよ」
「あ、そうじゃん。もう敵出ないんじゃん。・・・はぁ~~~っ。あったか~い」
ウォームローブの名は伊達じゃない。
宿屋に到着。中野と鉢合わせることもなく部屋まで行けた。3人で一泊1,000円。この安さからも、懐かしさを感じる。建物の中は暖房がしっかりと効いていて、むしろウォームローブでは暑いぐらいだ。3人ともローブを仕舞った。
さて明日は、朝食は7時営業開始と言われてしまったのだが、頼んだら6時半に部屋に弁当を持って来てもらえることになった。要望に応じてイレギュラー対応をしてくれるのも、エコノミアの都会にはなさそうだ。
「葵、明日あたしたちはどうしよっか?」
「う~ん・・・」
街や山をうろつくしかないのだが、ウロチョロしていると中野と遭遇するかも知れない。かと言って、
「中野君を意識しすぎて動けない、って言うのも何か癪ね」
それだ。ここで奴に動きを制限されていては、揉めてまで別行動を取った意味がない。
「私は、メタリックを外側から見てみたい、かな」
「あ、それいいかも。大村君にメッセージ送ってもらって、私たちは旅人目線でメタリックを見てみよっか」
なるほど、それはいいかもな。建物の中までは見えないかも知れないが、外側からしか見えないこともあるだろう。この2人のことだから、あまり不審に思われないように立ち回ると思う。
「分かった。じゃ、仕事の場所とか工場全体のレイアウトとか分かったら連絡するから」
「お願いね。 ま、中野君には合っちゃったら合っちゃっただよね。あたしたちは態度を変えずに行きましょ」
「うん」
「スノーウィーンの人たちもメタリックを良く思ってないみたいだから、そこも気を付けよう」
「そうね」
「うん」
特に俺はメタリック社員。今バレれば間違いなく追放される。俺は明日から寮生活になるが、メタリック社員の仲間というだけで2人が追放されることも十分に有り得る。
「にしても、何があるのかしらね」
「さあ。少なくとも、ただ辺境の地にあるだけってことは無さそうだね。転勤を言い渡された時に”路頭に迷う以上の地獄を見ることになる”って言われたし」
「「え・・・」」
驚いた様子の2人。
「上司がそんなこと言うの・・・?」
「部長に直接言われたよ。ついでに企業活動妨害罪のことも教えてくれた」
「うわ・・・」
さすがに、引いているようだ。日本のブラック企業でもここまではしないだろうからな。企業活動妨害罪もないし。
「何をやったのよ・・・」
何かやらかしたことも分かっちゃうか。
「ちょっと揉めた」
「”ちょっと”って・・・」
どんなことで揉めたかは、話たくないな。シュリンさんは女子に嫌われる系女子っぽいし2人は俺の肩を持ってくれそうだが、それでも、なんだか話したくない。男同士でならまだ話しやすいのだが、そんなことを考える俺はまだ完全な男女平等主義者になれていない。修行不足のようだ。
「軽率な行動を取ったのは申し訳ないし、転勤だけで済んだのは良かった方だとも思ってるけど、現実は変えられないからこのままスノーウィーンでメタリックの調査をしよう」
高松さんは軽く息をつき、
「そうね」
とだけ答えた。揉めた内容については聞かないでいてくれるようだ。さらに立ち上がり、
「お腹すかない?」
宿屋の1階にレストランが併設されていて、そこで夕食にした。1人700円だ。宿代の方が安いというね。
「にしても、今日は疲れたね」
昨日と同じようにビジナのメタリック本社に出社したはずなのに、シュリンさんの行動に怒りを覚えて部長と揉めて転勤決定、ブラッキで2人と合流して船で移動中に襲撃を受けてひと悶着、サウスポートからウォーターランドに向かおうとした矢先にギャランクスに遭遇、そして日没が迫る中スノーウィーンまで移動してきた。1日でこれだけあれば十分だろう。
「「お疲れ」」
2人も疲れてるはずなのだが揃ってその返しができるとは。
「2人は疲れてないの?」
「疲れてるけど、”お疲れ”って言ってくれるの?」
「・・・」
顔を逸らしてみた。
「・・・よく分かったわ」
何が分かったと言うんですか。
「まあいいわ。明日からはまた大村君がガッツリ疲れることになるんだし」
そうだね、地獄が待ってるみたいだからね。
「千尋ちゃん・・・」
最近、高松さんの発言に花巻さんが困り顔を見せることも増えてきたな。俺が悪いんだが。
「時と場合によっては2人にも頑張ってもらうことになるけどね」
「その時はその時ね」
「その時は私も頑張るから、大村君もお仕事頑張ってね」
あえて”お仕事”と付けたのは、仕事以外の部分、つまりメタリックの調査に関してはみんなで頑張ろうという考えだろう。それは構わないのだが、”お仕事頑張って”の言葉、結構励みになるな。高校2年の身でこれが分かった俺は世の高校生よりも一歩先を進んでいるのではないだろうか。あるいは無駄にブラック企業で働いちゃった残念な高校生か。絶対に1億円手に入れて、永遠のニートになってやる。
「お待たせしました。鮎の塩焼きは、男性の方ですね」
料理が到着。スタッフが2人掛かりで3つのお盆を運んで来た。さあ、明日に備えて英気を養おう。
夕食後は、テレビを付けたり長話をしたりせずに、最低限の身支度だけして3人とも早々に寝た。
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翌朝。5時55分。
「ふぁあ~~あ」
身を起こして欠伸。頭をポリポリ掻きながら窓の外に目を向けた。
「は・・・?」
雪景色を見たことは、これまでも何度かある。だが・・・、
「何だ、あれ・・・?」
この部屋の窓は西を向いており、街の外が見えるのだが、なんかゴツゴツした大きな氷の塊が並んでいる。布団から出て窓のそばに行った。右、北寄りの方を見ても、山にゴツゴツしたものがたくさんあるように見える。
正面のすぐ近くのものに視線を戻した。木の枝のようなものが見えるから、霜か氷柱か分からないが、木に氷がまとわりついてこうなっているらしい。あのゴツゴツしたやつの1つ1つが、木か。
・・・ああ、これが樹氷か。昨日は暗くてよく見えなかったのだが、緑の森がない代わりにこれがあるようだ。森の葉っぱが氷に変わっただけで、木の数は一般的な森よりは少なそうなのだが、見慣れてないからか物凄い威圧感を感じる。メタリックの工場は、これの向こう側か。
山に入るということは、この氷の森に入って行くということだ。これであの狼やリスが出るのだから、魔人滅殺剣、かなり険しい道になるな。とにかく今は、メタリックに集中しよう。
「すっごいわね、これ・・・」
振り返ると、2人とも起きていた。いつの間に。花巻さんは無言だが、目を見開き、息を呑んでいる様子だ。
「これは、外側からメタリックを見る方が大変かもね」
「本当ね・・・」
死なないように頑張ってくれ。
「ちょっと、空飛んで遠くを見てみようか」
「そうね」
外に出た。
「ほぉお~~っ。寒い~~」
移動はモンスターと戦いながらだから、ウォームローブは着ないつもりだ。この寒さに慣れておこう。内側に着る服を重ね着しているが、それでも寒い。
「男でしょ」と言う理由にならない理由で花巻さんは俺で預かることになった。高松さんがAランク装備を買った時に花巻さんはフェザーローブを買ったそうで、確かに軽い。そのまま、風魔法で飛び上がった。
「うわ、すっご!」
氷で覆われた木が、ずらりと並んでいる。壮観だ。そして、
「メタリックは、あれかな」
杖から片手を離し、樹氷がなくポッカリ空いている所を指差した。なんか、建物がある。
「そうみたいね。方角も合ってるし。近くて良かったわね」
目分量で、1kmあるかどうかぐらい。樹氷の森を進むことを考慮しても、30分あれば着くだろう。
「あと、雪も降らなくて良かったよ」
「言えてる」
昨日の夜は雪が降っていたが、止んだようだ。
ついでに、この村全体も見渡してみた。やはり、大した広さじゃない。20ほどの民家と、市場のような場所がある。人口は100人いるかどうかと言ったところ。既に外に出ている人もおり、ランニング、雪かき、洗濯物干しといった穏やかな日常を送っている。
「そろそろ戻ろう。寒いし」
6時半も迫っていたので、暖房の効いた部屋に戻り朝食を待った。
朝食後、出勤だ。モンスターが出る場所を通るしかないのだが、当然のように女性陣もついて来てくれた。メタリックの工場は北西にあるのだが、この街の門は南側にしかない。門がない部分も腰より少し高いぐらいの木の柵があるだけだが、行儀の悪い真似を避けて南門へ。門を出た後すぐ道から反れて北西へ向かうのだが、この恰好なら怪しまれないだろう。
北西に向かって歩き出す。メタリックの工場までの道が整備されてない辺りからも、この街がメタリックを嫌ってるのが伝わってくる。転勤になった普通のメタリック社員は、護衛でも雇わないと辿り着けそうにないな。
すぐに、樹氷群の入口に到着。
「近くで見ると、またすっごいわね」
分かっていたことだが、樹氷に塞がれるせいで視界が悪い。マップを見ながら45°北西に進んでいくしかない。最悪は空飛んででも行けるし、気楽に行こう。
案の定ホワイトウルフとクリスタリッスは出て来たが、普通の緑の森と違ってエンカウント率が下がっている良心設計となっていた。何回かリスの突進を食らうことにもなったが、無事に氷の森を切り抜け、
「あった。工場だ」
視界が開けた先に、工場があった。敷地は、近くでも見ても大して広くない。建物は1つだけ。ブラッキと比べたら小さな規模のようだ。会社の毒となる人物の追い出し先だろうか。
一旦俺1人で飛び上がり、門の場所を確認。左回りが近いようだ。
「じゃ、僕はもういいから」
「そお? じゃあ、頑張ってね」
「2人も、気を付けて」
「「うん」」
2人と別れ、門へと向かう。しばらくしてもモンスターが出る気配なし。工場の周辺では出ないようだ。ウォームローブに切り替えて歩き続け、5分ほどで到着。
メタリックカンパニー株式会社 スノーウィーン事業所
よし、ここで合っていたようだ。入ってすぐ右のプレハブに顔を出す。
「すみません、今日から転勤でここに来た大村と言うのですが」
社員証を見せながら名乗ると、警備員は大儀そうに「えーっと」とか言いながらパソコンを操作。
「あーはい、大村佑人、プレイヤーね。新参者の初日は13会議室って決まってるから」
なんかやる気がなさそうな反応だな・・・。毎日やつれ切った社員でも見ているのだろうか。
「・・・ん? どうかしたか?」
「あの、13会議室の場所は・・・」
「ああ、入ればすぐだよ。まだ誰もいないだろうけど、行った行った」
シッシッ、という手の仕草に加えてまるで追い払うような感じで言われた。人事で飛ばされてここまで来たんだからせめて歓迎してくれよ。
建物に入った。下駄箱はないし靴跡の汚れが残ってるから土足だろう。正面に続く廊下にいくつかドアがある。それぞれのドアの上には札のようなものがあり、右側の一番手前に“第13会議室”と書かれていた。1から12はどこにあるんだろうな。
どうせ時間はたっぷりあるし、壁に掛かっているフロアマップを確認。6階建てで、階段はここ南側と、北側に1つずつ。1階は食堂と風呂と倉庫。2階から3階は事務室がいくつかと、役員室もいくつか。そして4階から上が社員寮となっている。寮まで敷地内にあったとは。となると警備員は新参者か外部の人間しか見ないのか。大した頻度じゃなさそうだし暇だろうな。
会議室は第13しかない。なんじゃそりゃ。工場のラインのような部屋もなさそうだ。他の場所にでもあるのだろうか。あるいは全員事務仕事か。
あんまりウロチョロして怪しまれたくないので大人しく13会議室に入り、人事か配属先の担当者が来るのを待った。
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「どうしよっか?」
「うーん・・・」
外からメタリックを見ると決めたはいいけど、やることがない。今は8時前、大村君によると始業は9時らしいから結構あるけど一旦帰る時間はない。
「ただの旅人のフリして、この周りをぐるぐる回りましょ」
「うん」
幸いにして、メタリックの敷地のすぐそばはモンスターが出ないみたい。ウォームローブがあるとは言え、黙って座ってるだけだと冷えそう。体を動かしつつ時間を潰すということで、メタリック敷地の外周を大村君とは反対方向に歩き始めた。
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―――8月22日、中野サイド―――
「くっそ。何なんだよ、千尋ちゃんたちまで」
大村がブラッキに残るのは良いとして、千尋ちゃんたちまで残ると言い張って聞かなかった。マジで何であんな奴に合わせるんだよ。
あーくっそイライラする!
ンだよアイツらマジで。確かに大村ばっか活躍してるけどあそこまで言うこたねぇだろ。二手に分かれるんだから普通2・2だろ。そんなにアイツがいいのかよ。凄ぇヤツではあるけどさぁ、人間ってそれだけじゃダメだろ。大村も大村だ。2人とも面倒見がいいからってフザけやがって。千尋ちゃんたちも何であんなヤツ甘やかすかな。
メタリックなんてもう3人で何とかしてくれよ。まあ、泣いて頼まれたら戻ってやるかも知んねぇけどな。こうなったら俺1人で魔人滅殺剣を見つけて、レベルもめっちゃ上げてアイツらを見返してやる。船でサウスポート行って、そっから北に行きゃいいんだな。ん? いや待てよ。ここに港があるってのもタダの大村の予想だ。
「すいません、この街って港とかあるんスか?」
「港ですか? ここを真っ直ぐ行けば着きますよ」
マジであんのかよ・・・。くそっ、なんか気に入らねぇ。レベルは葵ちゃんが47で他みんなが55。あいつらがブラッキでもたもたしてる間に突き離してやるぜ。港は、えっと・・・こっちに真っ直ぐだな。
海と、デカい建物が見えた。
「うっし、あれが港だな?」
早速中に入ってみるか。
「うおおぉぉ・・・」
船を待ってる人がたくさんいて、なんかそれっぽい感じだ。船とか乗ったことねぇんだが、どうすりゃいいんだ? 係の人に聞いてみっか。
「すいません、切符ってどうやって買えばいいんスか?」
「乗船希望でしょうか。どちらまで行かれますか?」
「スノーウィ・・・あーいやサウスポートだ」
「サウスポート方面ですと、第2ターミナルですので、あちらになります」
「第2ターミナルぅ?」
「はい、こちらは第1ターミナルですので、反対方面に行っちゃいますよ」
「あーなるほど、第2ね、第2。お姉ちゃんありがとな!」
「いえ。お気を付けてお出掛けください」
係のお姉ちゃんの笑顔がかわいい。千尋ちゃんや葵ちゃんも結構かわいいんだけどなぁ・・・大村のどこがいいんだか。
船は12時に出るらしい。係の人たちに助けられながら検査とかを突破して、船に乗れた。よっしゃ待ってろよ魔人滅殺剣!
次回:探せ光の最強魔法




