第113話:いざ北へ、リ・リベンジ
ウォーターランド北門に到着。もう6時を過ぎてしまっているが、行くしかない。過去に2度通った森を抜け、白に染まる平原へ。
「とにかく急ぎ足で、多少MPをロスしてでも確実に倒していこう」
「「うん」」
疲れない程度に早歩き気味で前進。早速、ホワイトウルフ登場。お互いに認知し合うと同時に走り出した。
<先に援護射撃してもらっていい?>
<任せて>
チラリと後ろを見て高松さんの位置を確認。少し右に動いて狼までの攻撃コースを空けた。
「んっ!」
風属性なのか、淡い黄緑のつむじが俺の横を通り過ぎる。狼が俺から見て左の方向に避けたのを見て、
ブォン、
と風魔法を使って一気に距離を詰め、
「アイスソード」
狼めがけて氷の剣を突き出した。が、避けられた。曲がれ、と瞬時に念じると、氷の剣は狼の方向に曲がって伸び、
「キャウゥン!」
刺さった。向こうも頑丈なようで押し切られそうになったのだが、追加でMPを消費することで硬度が上がったのか刺さってくれた。だが、狼1匹にMPを27使ったのは痛い。
「次、行こう!」
高松さんたちが動き始めたのを確認して前を向く。
ポーン。
クリスタリッス登場。突進される前に、
「ファイアルーム」
雪の下から拝借した土でリスを囲み、その中に火をおこした。数秒で経験値が上がり、魔法を解除。
「まだまだ!」
そう言って俺は前に向かって進み出す。女性陣もついて来ているようだ。こういう時は、勢いで突き進むに限る。メタリックでのイライラと、この道中でも色々と起こったことで集中力が落ちてきている。冷静な状況確認と判断も欠かしたくないところではあるが。
次に現れたのは、前方に狼2匹と右にリス1匹。
「「んっ!」」
2人の同時攻撃でリスを撃破。
「あたし左のやついくね!」
「頼んだよ」
狼サイドもそれぞれ、俺と高松さんに1匹ずつ走って向かって来た。これまの感じからして、先制攻撃を仕掛けて避けられた直後に追撃するのが良い。2人ともそのつもりで走っていたが、
「うおっ」
「えっ!?」
狼が突然クロスして、それぞれもターゲットを交換してきた。ずっと照準を合わせていた相手が視線から外れ、別のやつがフェードインしてくる。
「んっ!」
杖を横に振り、半円状に広がる火を出したがジャンプで避けられた。
「このっ!」
ドンドン、と、高松さんが光の玉を2つ放って追撃。1つ目は、俺に向かって来ていた方に当たった。2つ目は、狼の真下からリスが現れて狼を真上に突き上げる形で避けられた。マジかよ・・・。
「ファイアルーム」
とりあえず、高松さんの光魔法が当たった方を閉じ込めた。次、狼とリスのコンビ。
「きゃあっ!」
高松さんがリスの突進を食らった。リスを倒すチャンスなのだが、狼が既に俺に向かって飛び掛かって来ている。リスの突進よりも、狼の噛みつきの方が致命傷になるから、
「サンダーランス」
発動が早い技で狼の動きを止め、
「ごっ!」
リスの突進を食らった。
「アクセラライト!」
光属性のビームが飛び、リスの姿がそれに呑まれる。ビームが消える頃には、リスの姿がなくなっていた。
「こっち来な…」
「グランドコーン」
地面から円錐の突起を出し、高松さんに向かっていた狼を突き上げた。距離があったが、仕方ない。蘇生魔法があるとは言え、花巻さんのMPも限られている。
狼が宙を舞っている間に近づき、
「アイスソード」
今度こそ、刺した。皮膚が固いのか毛が固いのか知らないが、中々の手応えだ。
「ありがと」
「別に」
MPは、俺が284/400、高松さんが373/400。魔攻が低いこと、高松さんには狼を即死させる手段がないことからMP消耗が俺に偏っている。
「メンタルヒール」
「ありがとう」
50回復してくれた。
ポンポーン。
リス2匹。
「あたしがやるわ」
「んじゃお願い」
HPが低くすぐに倒せるリスは、高松さんに任せよう。
ドンドン。
光の玉を2連射。消費MPは15ずつにしたようだが、倒せた。
「次は14かしらね」
相変わらず、俺が考えていることを読んでいるようだ。その後も、余裕がある時はリスは高松さんに任せ、狼は2人で隙を作って俺がトドメを刺すという戦法を取った。余裕がない時は、とにかく攻撃してダメージを受けないようにする。反射神経に任せることになるから、センスが問われる。
そしてこのセンスを磨いていかなければ、この先の戦いは厳しくなっていくだろう。敵の動きが遅ければ、頭で考えて策を打つことができる。余裕がない時に無意識下でどこまでの動きができるかが、勝率・MP消耗の両方の観点で鍵となる。MPと魔攻を上げて無双するのは、あくまで最終手段だ。これに頼っていては、簡単にMPが尽きる。
だが今は、確実にスノーウィーンに辿り着くことが最優先。この場を乗り切りつつ、センスを磨こう。その場凌ぎでは何も身に着かない、なんてことはない。その場凌ぎになるということは、能力的に限界に近いものに挑んでいるということだ。無理かも知れないものを突破する、これも重要な能力だ。
何事も、結果が全て。その場凌ぎの連続でも、人生の中で挑む全てのものを凌ぐことができれば、“その場凌ぎだけではいつか失敗するぞ”、は通用しなくなる。今は、その場を凌ぐ力を養えばいい。
これまでも色々あったなぁ・・・。自分で言うのも難だが、結果だけは出る。他の3人がどう思ってるのかは知らないが、現実世界ではデキが違うとか才能とか周囲に言われてたな。だがそんなことはない。お前たちがそう言って色々と押し付けてくるから俺がやるしかなくなるだけだ。上手くいかないと責められるから意地でもやる。その結果、能力は大したことないのに結果だけは出る。俺に才能があるとすれば、自分の能力以上の結果を出す才能だ。でも哀しいかな、この才能は圧倒的パワハラによって開花する。
今日は何としてもスノーウィーンに行かねばならないから、この場を凌ぐしかないな。それだと基礎が身に着かないことも確かだから、基礎は余裕のある時に向上していこう。将来的に挑むことになるものが、その場凌ぎの険しいものになるか、余裕綽々でサクッと突破できるかの差は出る。
「日が傾いてきたね」
「そうね」
「うん・・・」
6時半に迫ってきた辺りで、西の空がオレンジ色に染まっていることに気付いた。真っ白だった雪景色も、少し朱く見える気がする。
「暗くなる前に、着ければいいけど」
これに対する返事はなかった。ゴールの姿もまだ見えない。とにかく、進もう。
しばらく順調に進んでいたが、正面と左右に狼が1匹ずつ、計3匹が出て来る場面となった。
「うっそ・・・」
「こういうこともあるよ。頑張ろう」
当然のごとく、3匹同時に突っ込んで来た。3方向同時には相手にできない。
「ギリギリまで引き付けて上に飛ぼう」
「うん」
花巻さんのことは、MPに余裕がある高松さんに頼んだ。グリーンスタッフとフェザーローブに替えておくのも忘れない。狼たちが迫って来る。まだ。まだまだ。もう少し。
「よし!」
風魔法で上に飛んだ。狼のジャンプ力が分からないが、とりあえず2.5m。だが、
「んっ」
「来ないで!」
当たり前のようにこの高さまでジャンプして来たので、魔法で対処した。3匹が集まって来ていたので全部巻き込めた。攻撃を受けた狼たちが重力に引っ張られて落ちていく。
「高松さん、風で3匹寄せられる?」
「任せて」
ブオオォォォ・・・。
一点に、3匹が集まった。今だ。杖を全属性魔攻UPのウルトラスタッフに戻し、
「アイシクルダンス」
「「「キャウウウゥゥゥン!!」」」
水属性の上級魔法を初めて実戦で使った。氷の槍でめった刺しにされた狼たちが悲痛の叫びを上げる。横に着地しながらその様子を見ていると、3匹の狼は氷に踊らされながら姿を消していった。
「ふぅ。何とかなったね」
「ホントに、エグい技よね。MP大丈夫?」
アイシクルダンスだけで85使ったが、3匹同時に襲ってきた狼をまとめて潰せたなら安い。花巻さんに100回復してもらい、残りMPは258。高松さんも270ぐらいまで減っていたが、本人が断った。花巻さんのMPは、残り225。
MPと一緒に、空の明るさも減ってきた。日は傾き始めてしまうと、そこからは割と早く日没を迎える。既にオレンジは少なくなり、グラデーションの先の紺色面積がかなり多くなっている。
「暗くなってきたわね」
「だね。少し急ごう」
さすがに走りはしないが、早歩きのペースを上げた。雲はそれなりにあり、月や星の明かりもどこまで期待できるか分からない。狼は、音もなく現れる。リスは地面から現れる時に音が出るが、リス自体が小さくて見え辛い。
ポーン。
現れたリスを高松さんが倒す。
ポーン。
これも高松さん。
ポーン。
ポーン。
左右に1匹ずつだったので、片方は俺が倒した。
「ぐわっ!」
背中に衝撃。2匹だと思っていたのが、もう1匹後ろにいたようだ。
「んっ!」
高松さんが倒してくれた。
「大丈夫?」
「うん」
装備が強くなったこともあり、初めて食らった時と比べれば随分楽だ。
「気を付け…」
「い゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
“気を付けよう”と言っている最中に高松さんが叫び声を上げた。見ると、ふくらはぎに狼が噛みついていた。
「ん゛っ! ん゛ん゛っ!!」
光魔法を当てるも、離れない。俺が風魔法を使って一気に距離を詰め、
「アイスソード」
背中から氷の剣を強めに刺した。狼の口が高松さんの足から離れ、倒れる。ほどなくして消えた。
「ヒール」
「はぁ、はぁ・・・。ありがと。いった・・・」
いつの間に、近くまで忍び寄っていたのか。あるいは初めからすぐ近くに出現していたのか。暗くなっていることが不利に働いていることは変わりない。さらに、
「雪・・・?」
ひらり、ひらりと小さな粒が舞い降りて来た。ひんやりするから、雪だ。このタイミングで・・・。それとも、この場所まで到達したら降るプログラムなのか。いや、でも、いくら雪国でも年中毎日雪が降り続けることはないだろう。
空気も、随分と冷たくなってきた。痛みを感じるレベルではなく、俺と高松さんは戦闘で動き回っていることもあって、さほど冷えない。
「花巻さん、ウォームローブにしたら? 僕らはダメージ減らしたいし動けばあったまるから変えないけど」
「でも・・・」
「肝心な時に葵が動けなくなっちゃダメだから、お願い。あたしたちで、葵が攻撃されないようにするから」
「うん・・・」
ウォームローブは全体的に若干オレンジ掛かった色をしているが、暗くて変化は分からない。
「あったかい・・・」
うっすらと見える花巻さんの顔が少しほころんだ。俺も試しに変えてみた。なるほど、結構違うな。エイドローブに戻し、
「それじゃあ行こう。高松さん歩ける?」
高松さんは、噛まれた左ふくらはぎを押さる仕草を見せた。
「うん。まだ痛むけど、大丈夫」
本人がそう言うのなら、信じよう。そうでなくても、進むしかない。ヒール後の高松さんのHPは201、花巻さんのMPは180。やはり狼から攻撃を受けると損失が大きい。
「雪が降ってきたのは、目的地が近づいてきた証だよ。暗いけど、狼にだけは気を付けて進もう」
目の前には、追い打ちを掛けるかのように、緩やかながらも長い上り坂。
「ええ。行くわよ」
時折、足元や背後にも注意を払いながら進む。リスが出て来ても狼への警戒を続けたためか、リスの突進を受けることが増えた。大ダメージを避けるためだ、仕方ない。体力的に疲れてきたのもさることながら、周囲への警戒を強めたために気力も消耗してきた。これが、かなり疲れる。集中力は長続きするものではなく、強引に気を張り詰めると想像以上に疲れる。
「はぁ、はぁ」
緩やかな上り坂も体力を削っていく。
「うん、しょっ」
足首ぐらいまで積もっている雪道を歩くのも、体力を削る。HP、MPとも130を下回り、状況的にも厳しくなってきた。既にもう、引き返す分は残っていない。道は前後にあるけれど、歩むべきは前だ。
長かった上り坂が終わり、その丘を越えた先に、
「あっ」
「フーーーッ」
軽く目を閉じて、一旦顔を上に向けた後、また目を開く。
「ゴールだ」
スノーウィーンの街の、人々の生活の明かりが見えた。ようやく、辿り着いたようだ。時刻は、7時を過ぎている。太陽はもう、沈み切ってしまった。
「さあ、もう少し。今まで通り確実に進もう」
次回:樹氷群のほとり、雪の里スノーウィーン




