第112話:ギャランクス2
スノーウィーンに向かって出発した直後、植物魔獣ギャランクスが現れて街道に平行して走る川に引きずられ始めた。対処法は、知っている。
「フレイムアロー」
まだ距離があったので標準魔法を使用。
「グエエエェェェ・・・!」
足が自由になり、ギャランクスの声が距離相応の音量で聞こえてきた。
「大村君大丈夫?」
「何とかね。それよりも、」
「ギャランクス、だっけ」
「よりにもよってこんな時に」
街を出た直後だったのは不幸中の幸いか。さっき1杯のお茶で休憩しなかったら嫌な所で出くわしてたな。だが船が襲われて遅れなければコイツと遭遇しなかったかも知れない。くそ。
悔やんでも仕方がない。船は襲撃されたし、ギャランクスとも遭遇した。ブラックウルフとかと戦いながらあの蔓から逃げ切るのは無理だ、倒して進むしかない。
「皆さん、大丈夫ですか」
偶然にも、プレイヤーかトレジャーハンターが通りかかった。太めの槍と盾を持った男性と、杖を持った女性。狼とゴブリンは退治してくれた。
「あ、ありがとうございます」
「僕はアストで、こっちは仲間のイエスタ」
名前からしてプレイヤーではないようだ。
「皆さんまず遠距離攻撃お願いできますか? 僕はその隙を突いて攻撃していくので」
「はい、大丈夫です」
高松さん、イエスタさんとアイコンタクトを取り、高松さんが光、他2人が火で攻撃。動きが鈍ったところにアストさんが近づいて槍で攻撃。その槍が少し火を帯びたように見えた。そういう武器か。
「グエエエェェェ。 キィッ!」
ギャランクスはのけ反ったが、その後すぐに蔓を使ってアストさんを攻撃し始めた。
「っ・・・」
アストさんは盾で敵の攻撃を防いだり後ろに飛んで避けたりしながら対処。蔓は1本ずつしか使ってないようだが、テンポが速い。そうだ、援護射撃をせねば。
「一旦離れてください!」
「す、すまない・・・!」
アストさんが離れたところで、
「ファイアバード」
MPを2割増しの84使って上級魔法を使った。
「グエエエェェェ!」
「あたしも行くわよ、ジャスト・ワン・グリッター!」
「ギエエェッ!」
距離があるのと敵が大きくて魔法陣が見えなかったが、強く白い光が現れて敵にダメージを与えた。
「あなたたちプレイヤー? 私は上級魔法は控えさせてもらっていいかしら」
「ええ。お構いなく」
この世界の住人は生命力を使うのだったな。宿屋での回復もできないから闇雲に上級魔法は使いたくないだろう。
「一気に畳みかけよう。ここからが厄介だぞ!」
「ここからが厄介、とは・・・?」
アストさんが返事をするよりも先に、答えが分かった。ギャランクスが蔓を全部こっちに向かって動かしてきたからだ。
「うわっ」
「ちょっ、嘘でしょ!?」
一定のHPダメージで全部使い出すといったところか。でもさすがにまだ瀕死ではないだろうな。3割か、半分は削れてることを祈ろう。
「僕が前に行く! 援護を頼む!」
アストさんは蔓による鞭打ちを避けたり盾で受けたりしつつ前進。
「キューボイドフレア」
「スターストリーム!」
「キューボイドフレア!」
3人で時間差を設けて魔法攻撃。俺もイエスタさんも、単発のフレイムアローではなく数秒間炎を出せるキューボイドフレアを選択。これだけ距離が離れている以上、標準魔法しかない。MPが尽きれば一時離脱して回復も考えよう。もう一度、と思って杖を前に向けると細い影が伸びて来るのが見えた。
バチン!
「うわっ、こっちきた!」
右に飛んで避けた。前を見ると、
「ぐほぉっ!」
既に他の蔓が迫っていて腹を突かれた。俺の体は宙を舞い、
「大村く…きゃあっ!」
高松さんは横振りの鞭打ち攻撃を右腕に受け、転倒。
「狙いをこっちに変えてきたわ! 気を付けて! ・・・キューボイドフレア!」
ギャランクスは攻撃を受けながらも蔓を振り回すのをやめない。それなりの頻度でアストさんの方にも攻撃がいくものの、接近戦は継続できているようだ。
「くっ、うっ・・・! ハァ、ハァ・・・」
だが、疲れの色が見えてきた。重そうな槍を持って敵の攻撃を避けながらの攻撃、かなりの運動量だろう。
「アストさん! 一旦下がってください!」
「す、すまない・・・!」
俺はホウキにまたがり、ギャランクスに向かって前進した。当然、蔓が向かって来る。
「フレイムブレイド」
ホウキを手に取り、慣性だけで前進しながら火を出して、蔓にぶつけると引っ込んだ。すると今度は2本の蔓が左右から来た。
「んっ!」
体を1回転させながら円形の火を飛ばした。蔓は2本とも引っ込んだが、
「ぐあ゛・・・っ!」
頭に別の蔓が振り下ろされ、地面に叩きつけられた。
「大村君!!」
「仕方ない、か。 ファイアバード!」
「グエエエェェェ!」
うつ伏せで倒れる俺の背中の上を炎が通過して行った感覚がして、立ち上がろうとしたら高松さんに抱えられて空を飛んで運ばれた。
「大丈夫?」
「まあ、何とか」
だがHPは、一気に減って残り125だ。
ある程度離れたところで地面に降り、5人集まって落ち着く形になった。
「すみません、手を煩わせてしまって」
「構わないわ。こっちだって上級魔法使うの渋ってたんだし」
「大村君、回復」
「あ、うん。お願い」
「ヒール」
HPが250まで回復した。
「メンタルヒール」
MPも、俺と高松さんを50ずつ回復。俺は266、高松さんは310だ。
「すぐに大量に回復できるけど、尽きればどんなに元気でも魔法が使えなくなる。私は、デメリットの方が気になるかな」
イエスタさんがプレイヤーの特徴について感想を述べた。
「とにかく、倒してしまおう。おかげで呼吸が整った」
アストさんが再び前に出た。花巻さんには下がってもらい、さっきと同じように援護射撃を始めた。蔓による攻撃がアストさんや俺たち3人を襲う。大したダメージを受けることなく少しずつ敵にダメージを与えられる状態が続いていたが、
「何っ!?」
突然、全部の蔓の攻撃がアストさんに集中した。
「くっ、うっ、・・・ぐあ!」
「アスト!!」
「「アストさん!」」
まずい、袋叩きにされる。
「「ファイアバード!」」
「グエエエェェェ!」
「メンタルヒール!」
さらに俺と高松さんが風魔法で前進。ギャランクスが体勢を立て直し、蔓が俺と高松さんと、
「があっ!」
アストさんにも向かう。
「真ん中を開けて!」
イエスタさんの声だ。俺と高松さんが左右に分かれると、
「フレイムアロー!」
それが敵に当たり、一瞬攻撃が止まった隙に強い追い風を起こして加速、アストさんのもとに着いた。
「失礼します」
「構わない。っ・・・!」
風魔法でアストさんを高松さんの方に飛ばした。
「高松さん!」
「分かったわ!」
高松さんも風を起こしたのか、ぶつかる直前にアストさんの速度が緩み、しっかりと受け止めた。そのまま高松さんは逃げる方向に移動。それを蔓が追い始める。
「フレイムブレイド」
伸びていく蔓を真下から攻撃。目論見通りに蔓は止まり、高松さんたちは逃げ切った。
「ぐあ・・・!」
「大村君!」
今度は俺が背中に攻撃を受け、手と膝を地面に着いた。振り返ったりしている暇はない。
バチン!
敵の次なる攻撃は、地面を叩いただけになった。俺が土属性魔法を使って自らを地面に埋めたからだ。1mぐらい下には来たはずだ。バチン、バチン、と何度か地面を叩く音が聞こえてきたが、諦めたのかその音はすぐに止んだ。狙いが他のメンバーに移ったはずだ。
いつまでもこんな所で寝ているつもりはない。これまでは遠距離攻撃がメインだったから標準魔法を使っていたが、至近距離でやるのが一番威力が出る。残りMPは177。このチャンスに、全てを使おう。
ギャランクスはまだ少し離れていたが、地面がきしむ感覚から少しずつ近づいて来ているのが分かる。地上に出てからすぐに攻撃できるよう、杖を握る右手に力を込めて敵を待つ。
まだだ、まだ、まだ、少し離れている気がする。もう少し来い。これで、仕留めてやるから。もう随分とダメージを与えてきた。アストさんとイエスタさんの様子からも、無理な戦いではないはずだ。
みしっ。
わずかに圧力を受けた感覚がした。来たか。俺の上にある部分の地面を開け、さらに土魔法で自分の体を押し出した。
「大村君!」
地面から飛び上がった俺の目の前には、植物魔獣ギャランクス。邪魔だ、くたばれ。俺はこの先に進まなければならないんだ。
「ヴァーミリオンスワール!!」
ボオオオオオオオオォォォォォ・・・!!
杖を前に突き出し、敵を巨大な炎の渦に閉じ込めた。
オオオオオオォォォゥゥッ!
MPが尽きるまで出し続け、炎が消えたところで力を抜いた。
ドサッ。
もう魔法を使うことができず、そのまま背中から地面に落ちた。両肘をついて首だけで前を見ると、ギャランクスはのけ反ったような体勢で固まっていた。
そして、その場で弾けるように消えた。
「はぁ、はぁ、・・・っ。はぁ・・・」
再び体の力を抜いて、目を閉じて仰向けになった。
マリーナはこれをあっさり倒したのか。濡らして高く打ち上げて、凍らせてから地面に激突させる。簡単そうなのだが、あの巨体を芯まで凍り付かせなければならない。今の魔攻とMPで足りるか分からないが、試してダメだったらアウトだ。ザコモンスターを凍らせて感覚をつかんでいくしかないな。
走って来る足音が聞こえてきた。
「やったわね」
「なんとかね」
目を開けると、高松さんが手を差し伸べてきていた。せっかくなので引き上げてもらおうと手をつかんだが、俺がその手以外の力を抜いているからか、一向に体が上がらない。
「ちょっと、自分でも立ち上がる努力をしなさいよ」
「頑張って」
「放すわよ」
「努力します・・・」
と答えたのだが、今度は花巻さんが手を差し伸べてきた。
「どうも」
花巻さんの手もつかみ、少しだけ腹筋に力を入れると体を起こすことができた。
「はぁ・・・結局甘やかしちゃったし。反省しなきゃね」
「人に優しくするのは悪いことじゃないよ」
「それが時々、人をダメにする毒になるのよ」
「それは高松さんが毒を持ってるからだよ」
「いたっ」
デコピンを受け、勢いで仰向けに倒れてしまった。
「ごめん、思わず毒が表に出ちゃったわ」
「それは僕にダメになって欲しいという意思表示と受け取るよ」
「ああ言えばこう言う・・・」
今度は自力で起きて、立ち上がった。
「はははっ、仲がいいみたいだね」
「まさか。今の見てましたよね、僕は意味もなくデコピンされたんですよ」
「意味ならあったでしょ・・・!」
「はははっ。それはそうと、一旦街に戻ろうか。プレイヤーはトラベラーズカフェでも回復できるって話だよ」
まじっすか。助かります。
「んじゃ、行きましょ」
5人で街に戻り、サウスポートで少し休憩することにした。
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「それにしても、災難だったね」
アストさんがアイスコーヒーをマドラーでかき混ぜながらそう言った。
「そうですね・・・。それなりの頻度で出るんですか?」
「うーん、まあ・・・1~2週間に1回かな?」
それが、今日に当たった訳だ。不運の一言で片づけようにも、モヤモヤしたものが残る。何を恨めばいいか分からないのがもどかしい。
「ところで、あなたたちもウォーターランドに?」
今度はイエスタさん。それに反応したのは高松さん。
「いえ、あたしたちはその先の、スノーウィーンを目指してます。どうしても今日中に行く必要があって」
「そう。じゃあ休憩もほどほどにして行きましょうか。私たちもウォーターランドまでは行くので、それまでは一緒に」
「はい、ぜひ」
キリのいい時間ということで、4時半になったところで出発した。
戦力が増えたこともあり、ウォーターランドまでの街道は難なく突破した。余裕があったので、濡らして凍らせる戦法をソルジャーゴブリンで試してみた。MP50消費では足りず、別の個体でMP100でやってみたら上手くいった。なお、打ち上げて地面に落とす代わりに土属性の中級魔法“ザ・ボックス”を使った。ちゃんと凍らせてないと表面の氷が割れるだけで敵は動けるようになる。
それと、土属性上級魔法のスカイラダーも試してみた。地面の魔法陣から7~8本ほどの土のハシゴが真上に向かって伸びる。さすがに空までは行かないが、10mはありそうだ。こうして色々試したことが災いし、<アストさんたちがいるからってMP無駄遣いしすぎ>と高松さんに怒られてしまった。
一旦宿屋で回復するため、ウォーターランドに着いてすぐアストさんたちとの別れだ。
「それじゃあ、またどこかで」
「はい。さっきはありがとうございました」
「それはお互いさま。あなたたちがいなくても私たちはギャランクスと遭遇していたから」
2人と別れ、回復だけ済ませてすぐに水上バスに乗り込んだ。目指すは北、スノーウィーン。今度は、引き返すという選択肢はない。
次回:いざ北へ、リ・リベンジ




