第111話:ナチュレ王国の玄関、港町サウスポート
「なんか、ザ・港町って感じね」
色々あった船旅、ようやく目的地サウスポートに到着。ゆっくりと埠頭に近づく船のデッキで、俺たちは街の風景を眺めている。
埠頭には、この客船の停止位置とは少し離れた位置に漁船と思われる小型ボートがたくさん並んでいた。ボートの尻尾の部分にはエンジンのようなものが付いていて、漁師たちが元気よく作業をしている様子が見える。
そのさらに奥には、沖合の方向に何本か桟橋が出ていた。小さくて見づらいが、人がいるようにも見える。釣り人だろうか。
「確かに、ブラッキは何か、ただ単に港もある街って感じだったし」
ここサウスポートには、ドス黒い煙を出すような工場はない。パステルカラーの民家、多くの人で賑わう市場、白にうっすらとカラフルな模様のある道、船に向かって手を振る陽気な人々。街の活気も、雲泥の差だ。ブラッキは本当にドロドロだった。
そしてそのブラッキを、ひいてはエコノミアの泥を払拭するためにここまで来た。だがここサウスポートはただの通り道。居心地が良さそうなのが惜しいが、すぐにでもスノーウィーンに向かおう。
船が完全に停止し、オーシャンスイート席の人から順に下船となった。トラブル解決に貢献したということで1等席に移してもらえた俺たちも割とすぐに降りることができた。ターミナルで入国手続きを済ませ、サウスポートの街へ。
「さわやかで気持ちいい街ね」
「うん」
女性陣が、穏やかな笑みで風を受けている。本当に、急ぎの用事もトラブルもない状態で落ち着いて来たかった。
「とりあえず、装備買いに行ってもいい? BランクからAランクへの派生版ぐらいあるでしょ」
「もちろんよ。ここからの敵、強いからね」
港のそばに地図の看板があった。装備屋は、港から北門に向かう通り道にあるようだ。
左右に市場がずらりと並び、人々で賑わう緩やかな上り坂を進む。
「魔法使いの兄ちゃん! ひと切れどうだい?」
魚屋のおやじさん。たったいま目の前で切った刺身を差し出してきた。視線を落とすと台の上に鱗がきらめく魚がズラリ。
「では遠慮なく。 ん、おいひいです」
「だろ? ナチュレの売りはなんてったって新鮮な食材! 魚はもちろん、肉も野菜もホワイライトとグリンタウンから今朝運ばれた上質で新鮮なのが揃ってるよ! はい、ウチは魚だけだが嬢ちゃんたちも食いな!」
「ありがとうございますぅ」
「ありがとうございます」
「ウマいだろう。肉も野菜も食ってってくれよな。絶対に気に入るからホワイライトとグリンタウンにも行ってみるといい、やっぱ現地はここで食うよりウマいぞぉ~?」
「はい~」
美味しかったですよ、とっても。
「ドコ行くかとか決めてのか?」
聞かれてしまったか。さっき挙げてもらった街じゃなくて申し訳ない。
「ちょっと、スノーウィーンまで」
「おおっ、それはまた険しい道を行くねぇ。あそこは鉱石が採れる山がある。食いもんじゃねぇが旅の兄ちゃんたちには打ってつけだ。気を付けて行って来いよ!」
「「はーい」」
気を付けます。モンスターにも、ブラック企業にも。
その後もイカ、パイン(俺は苦手なので断った)、黒酢ジュースをもらったりしながら装備屋を目指した。
「のどかな街も好きだけど、こういう活気に満ちた雰囲気もいいわね。元気出る」
「だね。ここんとこテンション下がる展開が続いたから、ちょうどいいや」
少しずつ気分が落ち着いていくのを感じながら、陽気な上り坂を歩き続けた。
喫茶店に到着。
「結構大きいわね」
「喫茶店も併設されてるっぽいね。トラベラーズカフェ、だって」
とりあえず入ってみた。確かに、装備屋エリアと喫茶店エリアに分かれていた。ここも結構な賑わいで、装備を物色する人、買い終えたのかテーブルについて談笑している人がいる。いかつい鎧を着た男がチョコレートパフェを食べている。
時間に余裕もないし、良いものがあっても金が足りないだろうから必要なものをさっさと買うことにした。
ウルトラスタッフ、全属性魔攻15%UP、16万円。
グリーンスタッフA+、風属性魔攻30%UP、20万円。
エイドローブA+、HPダメージ25%減、物理衝撃緩和 Lv.3、20万円。
バッファローブA、物理衝撃緩和 Lv.4、16万円
ウォームローブA、耐寒 Lv.2、物理衝撃緩和 Lv.3、25万円
武器には最大MP10%UP、防具には撥水Lv.1が付いている。売らずに残したのは以下で、売った分で265,000円返ってきた。残り所持金はおよそ85万。
サウンドボール、音属性の球体を放てる
クールローブB、耐暑 Lv.1、耐熱 Lv.2、物理衝撃緩和 Lv.2、撥水Lv.1
フェザーローブ、体重が2/3になる
「よし、じゃあ行こうか」
「待って」
「え?」
ドアに手を掛けようとしたところで、高松さんに止められた。喫茶店エリアの方を指差し、空中でツンツンして示している。
「1杯だけ、お茶しましょ」
「え? でも」
もう、3時半に迫っている。
これまでの感じからすると、完全な日没は7時から7時半の間だ。日が傾くだけでも結構暗くなるから、遅くとも6時半にはスノーウィーンに着きたい。早く着いた方が明日に備えた休憩も長く取れるし。
「いいからいいから、ね」
怒るでもなく、まるで言い聞かせるように促してくる。メタリックで働くことの条件が、無理をしないことにあるから従うほかない。
3人とも1杯ずつ、適当に飲み物を購入。すぐに提供されて丸テーブルについた。
「あ、結構おいし」
高松さんは、急がなければならないという状況なんて無いかのように、呑気にカフェラテを飲んでいる。落ち着けと言うことか。まあ、正確なタイムリミットがある訳じゃないから5分や10分で何が変わるでもない。糖分を摂取すべく、カフェオレにスティックシュガーを半分ほど入れた。
「お前さんたち、調子はどうよ? 魔法使いだけでシンドくないのか?」
隣のテーブルから話し掛けられた。2人組のうちの片方だ。協力してやるというよりは、面白半分に近い。同業者が集まる場所だし、積極的に交流しているのだろう。だがこちらは、今は情報収集の時ではない。
「まあ、ぼちぼち、ですね」
「そうかそうか。見ない顔だけど、最近来たばっかか?」
この人たちは、ここを拠点にしているのだろう。
「はい、ちょうどさっきブラッキから来たところで、これからスノーウィーンに向かいます?」
「スノーウィーンに? そりゃまたエコノミアから随分な長旅だな。エーデライトが目当てか?」
「エーデライト? 何ですかそれ?」
「おいおい、知らずに行くつもりだったのかよ。エーデルマウンテンの中腹より上で採れる希少鉱石だ。Aランク級の武器とか、高級家具とか装飾品に使われたりもする。エーデルマウンテンでしか採れないから、王国が高値で買い取ってくれるし、補助のつもりなのか知らんが国内なら一般人が購入する分にも比較的安い」
「へえ~。そんなものがあるんですね」
「エーデライトに興味がないんなら、何しにスノーウィーンに行くんだ?」
「行ったことがないので、1回ぐらい行ってみようかと」
「え、そんなもんなのか。物好きなモンだな。そういやちょっと前にもスノーウィーンに行くっつってた魔法使いがいたな。仲間割れしたとかで1人だけだったが」
まさか、中野のことか。とりあえず他人のフリをしておこう。
「魔法使いが1人でスノーウィーンに行って、それこそ何するんですかね」
「魔人滅殺剣を探すんだとよ。エーデルマウンテンにゃ雪山の魔人がいるってのに、無茶しなきゃいいが」
どうやら、この人が会ったのは中野のようだ。
「雪山の、魔人?」
「あ? まさかお前さんたちも知らなかったのか? さすがに魔人滅殺剣があるってのは知ってると思うが、エーデルマウンテンにゃ雪山の魔人、ニアトムウォンスがいるんだよ」
誰も魔人滅殺剣を入手できてないのが、それか。
「俺らの同業者がモンスター狩りや鉱石探し中に襲われたり、猛者が勝負に挑んで返り討ちにされたりもする。あまりに誰も倒せないんで、魔人滅殺剣じゃなきゃ無理なんじゃないかって専らの噂さ」
「でも魔人滅殺剣を探してると遭遇するんですよね」
「そういうこと」
このゲームの設定次第では特定の技じゃなきゃ倒せないとかも出来そうだが、そうすると剣や弓じゃ倒せなくなるから、どうだろう。HP削るだけでもいけるとは思うが。
「お前さんたちも気を付けな。確かに金は稼げるし、あの銀世界と樹氷群は圧巻なんだが、樹氷のせいで視界が悪い上に魔人抜きでもモンスター強いからな」
やはり、かなりの難易度になっているようだな。その前に1つ確認。
「ところで、じゅひょう、って何です?」
相手はキョトンという顔をしたあと、顔をほころばせた。
「あっはは、そこからか」
「大村君知らないの?」
身内からもそんな言葉が投げかけられた。
「樹氷って言うのは、木の全体に霜が降りて巨大な氷の塊みたいになってるやつだ」
「へえ~」
世の中、色んなものがあるんだな。
「ま、とにかく魔人滅殺剣への道は険しいってこと。店出る前に3人組がそいつに声かけて一緒に行ったみたいだが、どうだろうな」
お、中野のやつ他のパーティと行動してるのか。それでレベルの上がり方が微妙なんだな。まだ58だ。一時的に組んでるだけなのか、完全に加入した感じなのか知らないが、後者なら引き戻すのが面倒になるな。マジでうちの女性陣がどこまで中野の機嫌を取れるかに掛かってくる。2人には申し訳ない限りだが、中野の性格やこれまでの言動を踏まえて考えた結果だ、許してくれ。
「では、僕らはこれで」
「うん、じゃ、気を付けて」
3人で頭をペコリと下げ、店を出た。
3時半を随分と過ぎてしまったが出発。結局、情報収集してしまったな。今は魔人滅殺剣よりもメタリックカンパニーを優先するが。
「中野君、今頃どうしてるのかしらね」
「さあ。とにかくスノーウィーンに行ってみよう。すぐに離れてしまうのは惜しいけど、落ち着いたらまた来ようか」
「そうね。今日は景色だけ見て満足ってことにしましょ」
北門に到着。前にこの街道に挑戦した感じだと、レベル40ちょいの当時でもギリ届きそうな感じだった。レベル60となった今なら大丈夫だろうが、油断は禁物だ。
まずはブラックウルフにソルジャーゴブリンが出て来た。基本的には、多少MPをロスしてでも敵に攻撃の隙を与えない。狼のスピードに気を付けながら戦おう。杖を構えて走り出すと、
「う゛わ゛っ!」
「ちょっ、大丈夫!?」
左足が何かに引っ掛かって前のめりになり、右肩から地面に倒れた。体勢を立て直そうとしたのだが、左足が横に引っ張られて引きずられ始めた。
「「大村君!!」」
体をひねって引っ張られる方向を見た先は・・・
「ギャランクス・・・!」
次回:ギャランクス2




