第110話:祭りの後に
「く、お・・・!」
電気の魔法で動けなくなった敵を、1人ずつロープで縛っていく。
「ちょっとアンタ・・・なに考えてんのよ・・・!」
人質にされていた味方の近くに来ると、文句を言われた。助けてあげたはずだったんだが。
「この戦いに勝つことを考えていました」
「そのためなら何でもして良いってワケ・・・!? バカなんじゃないの・・・」
事情を説明するのが面倒なんだが、先を急いでいるんだ。許してくれ。
「うわっ!」
協力してもらっている乗組員の声だ。見ると、敵が1人立ち上がっていた。さすがに全員縛り上げるのは無理だったか。
「お2人は戻ってください!」
「は、はい・・・!」
「高松さん」
「分かってるわ」
とりあえず客船に近い側の端に移動。乗組員2人を無事に戻すことができた。が、敵もぞろぞろと立ち上がっていく。6~7人か。残念ながら味方が復活する気配はない。
「2人だけになっちゃったけど、頑張ろう」
「それは、頑張るけど」
「お前が2人にしたんだろうが・・・!」
臨戦態勢に入ったところ、味方からそんな言葉が投げられた。悪いとは思っているのだが、同じ攻撃を受けた敵さんも立ち上がってる訳だし。
「やってくれたなぁ? 魔法使いの兄ちゃんよぉ」
立ち上がった中にはリーダーの男もいて、懐から何かを取り出したと思ったら、
ピィィ~~~ッ!!
笛を鳴らした。その後、
ドタドタドタドタ。
船の中の方から足音が聞こえてきて、
「まさか・・・」
高松さん、その予想は合っている。
「まさか客船相手に総動員になるとはな」
「ま、たまにはそうでなくちゃな」
やがて、船の中からぞろぞろと敵船メンバーが出て来た。これまた10人ぐらい。
「嘘、でしょ・・・?」
「残念ながら本当だね」
「ふんっ、お前が味方ごと攻撃したからだろうが・・・」
ようやく立ち上がった味方メンバーが1人、そう言って船へと戻って行った。
「ったく・・・スターリー神殿で実績出したからってチョーシ乗ってんじゃねぇぞ」
また1人、聞こえる声量で一言呟いて戻って行った。過去の実績など関係ない。スターリー神殿の件があろうと無かろうと、あの状況なら俺はあの行動を取っていた。
「君の判断は間違いではなかったと思う。だが単純に、もう勝ち目がない。船長に降伏を進言してくる」
戦いの前に俺に話しかけてきた男も客船の方に向かい、他のメンバーもブツブツ言いながら戻って行った。
なんかもう、めんどくせえええええぇぇぇぇぇぇ。
「へっへ・・・降参してくれるんならそれでもいいぜ。こっちも結構な痛手を負ったからなぁ、余計な戦闘は避けてぇ」
後ろを見ると、さっきの男が船長と何やら話しているのが見えた。船長が降伏宣言をすれば、それに背いて戦うことはできない。ならば、
ザパーン。
乗って来た客船と、今乗っている敵船の間に、海の水を使って壁を作った。
「何の真似だ・・・。野郎ども、アイツは何してくるか分からん。何かされる前にとっ捕まえろ」
「へーい」
「だな」
「高松さん、足止めしてもらってていい?」
「ええ、いいわよ」
海水の壁に人ひとり通れる穴を開け、
「オイ待て!」
「逃がすな!」
高松さんを残して客船に戻った。
「船長さん、降伏するのはもうちょっと待ってもらえますか? それと、船を動かして敵から距離を取ってください」
「え、ええ。構いませんが・・・」
船長は戸惑った様子で答えたが、乗組員たちに指示を出し始めた。
「船長に指図とか・・・」
「目隠ししてる間に逃げる気か・・・? そんな上手くいくもんかよ」
そんな声が聞こえた。一度印象が悪くなってしまうと、やること為すこと全て否定されてしまう。世の常だ、仕方ない。とは言え、諦めるのは勝手だが黙っててくれないか。
船が動き出したところで、海水の壁を取っ払った。
「おい戻したぞ・・・」
「MP切れなんじゃないの? だっさ」
高松さんは、敵船のデッキの上で走り回ったり飛び回ったりしながら逃げ回っていた。いいぞ。完全に宙に浮いてしまったら、敵が諦めて狙いを変えるかも知れないからな。
「アイツら逃げて行きやがる!」
「追うぞ! 2、3人機関室に戻れ!」
「「「へい!」」」
あのボロボロの船が動いてるんだ、動力ぐらいあるか。だが構わない。もう既に人が飛び移れない距離は開いた。
「くそっ、このアマちょこまかと!」
「バカ! その女はもう放っておけ!」
「ちぃっ! 何とかして向こうの船に・・・!」
「ウィンドショット!」
「ぐあぁっ!」
ドンガラガッシャン。風で飛ばされた敵は樽や箱が置いてある所に突っ込んで行った。高松さんナイス。
「あんにゃろ! 2~3人で見張ってろ!」
「「へい!」」
2人が高松さんを追いかけ始めて、また鬼ごっこ状態になった。順調なようだが高松さんのMPも減ってきているから急ごう。
「花巻さん、またMP回復お願い」
「うん。メンタルヒール」
再び150回復。300ぐらいになった。次で決めるつもりだが、また何が起こるか分からん。50は残すようにしよう。
ザッパーーン!!
海から、今度は壁ではなく特撮に出てくる怪人をイメージしたものを出した。この客船のマストの半分にも満たない高さだが、敵を船ごと沈めるには十分だ。
「何だあれは・・・!」
「構うな! 避けて進め!」
敵の船が動き出した。高松さんが敵船から離れるのを待つよりも、確実な勝利を手にしよう。
「オイまさかアレでやるつもりか?」
「いやでもまだ1人味方が・・・しかもアイツの仲間なんじゃないのか・・・?」
パーティメンバーさ。だけど、勝利のための生贄にしても一切文句を言わない。
「高松さんごめん! 許して!」
「後でケーキバイキング奢りなさいよー!」
ほら、許してくれる。
「オイまじかよ・・・」
「何考えてんだコイツら・・・」
勝つことを第一に考えてるのさ。
「マリンファントム」
ドゴオオオオオオォォォォォォン!!
「「ぎゃああぁぁぁぁぁっ!!」」
「「のわああぁぁぁぁぁっ!!」」
元々ボロボロだった船はパックリ割れ、木の破片が舞い上がった。難破船に擬態したのが間違いだったな。
<レベルが60になりました>
<風属性魔法(上級):サイクロンが使用可能になりました>
<土属性魔法(上級):スカイラダーが使用可能になりました>
<装備ランク(魔法)がAになりました>
「ハァ、ハァ・・・」
やっと片付いたか。こっちは明日の朝スノーウィーンの職場に行かないと刑務所行きになるんだ。いつまでも、こんな所で油を売ってる場合じゃないんだ。
「あいつ、マジでやりやがった・・・」
「そりゃ、勝つには勝ったけど・・・」
周囲からは、呆れたようなそんな声。もちろん俺たちがプレイヤーだから簡単にとれる手段ではあるが、そこまでの反応をされるとはな。
<高松千尋さんが戦闘不能になりました>
あとで、ケーキバイキングだな。
俺は船長のもとまで歩き、
「すみません、海に落ちた仲間を助けてもらうことってできますか?」
「え、ええ・・・ダイビングができる乗組員もいますので、大丈夫です」
「ありがとうございます。ではよろしくお願いします」
「いえ・・・こちらこそ、ありがとうございました」
船長は無線機を使って乗組員に指示を出し始めた。やがて、高松さん救助のためか船が止まった。
「大村君」
花巻さんだ。
「えっと・・・お疲れ、さま・・・」
高松さん本人が許してくれたとは言え、どう振る舞うべきか困っているようだ。だが、勝利こそ全て。
「その言葉は、高松さんにかけてあげよう」
「うん。そうだね・・・」
そのまま、デッキの上で腰を下ろして高松さんが救助されるのを待った。
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「お待たせ」
「あ、高松さん」
「お疲れさま」
高松さんが戻って来た。ずぶ濡れだが。そしてこのタイミングで、ナチュレからの応援の船もやって来た。
【お客様にお知らせ致します。只今、安全の確認が取れました。出発致しますので、ご注意ください】
ようやく、船が動き出した。タイムロスは、実に1時間。
「やっと、動きだしたわね」
「このままじゃ、着くの2時半ぐらいだね」
「でも、本当に良かった・・・」
花巻さんが、安心したように両手を胸の前で組む。MPが枯渇しているから、高松さんの復活は後だな。
「だね。高松さん1人が海に落ちるだけで勝てるんなら安いもんだよ」
「それアタシのセリフだかんね! 海に落とした張本人に言われるとめっちゃムカつくんだけど・・・!」
「まぁまぁ、千尋ちゃん。大村君だって頑張ったんだから」
「ケーキバイキング、葵の分もつけること」
「え・・・はーい」
「あ、そうだ。1等席に空きがあって、お礼に使っていいそうよ。シャワーもあるってさ。あたしこのままじゃベットベトなりそう。誰かさんのせいでね」
「ほんと、移動のために乗った船が襲われるなんて、ツイてなかったね」
「はぁ・・・中野君の気持ちがちょっと分かったわ。今度、大村君を海に沈めてあげるから」
「ち、千尋ちゃん・・・」
「えと、では、こちらです」
苦笑いを浮かべる乗組員の案内で歩き出した。共に敵船の上で戦い、敵と一緒に痺れてもらった人たちから視線が飛んでくる。
「何なんだアイツら・・・」
「さすがにあの“奇跡”を起こした連中は頭のネジ何本か飛んでんな・・・」
随分な言われようだが、さっきまでのような棘のある言い方じゃない。所詮この世は、結果が全て。もしあのまま負けていたら、俺はずっとグチグチ言われていたことだろう。だが、味方ごと攻撃するという手段を取る以上、それも覚悟の上だ。説明しても理解してもらえないだろうから、勝利という結果をもって示すしかない。説明して納得してもらうという重要なプロセスを省略する代わりに、失敗すれば地獄をみるという責任を負う。
この世界に来る前も、誰かを巻き込むという訳でもなく、周囲が抱いた疑問を解消させないまま行動を起こすことが結構あった。失敗が許されない日々の連続だったな。だってあいつら、説明しても分からんねえし。
<“連中”だって。高松さんもきっと入ってるよ>
<ケーキバイキングなんかで許すんじゃなかったわ。トマトバイキングのお店ってないのかしら>
勘弁してくれぇ! 最近、トマト鍋やトマトラーメンなるものも出回るようになってきたが、トマトバイキングが爆誕しないことを切に願う。
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1等席の部屋に着いた。なるほど、ホテルの一室のような部屋だ。幸いにして、念じるとHPとMPが全快した。高松さんには戦闘不能からの復活を待ってもらって、花巻さんにパーフェクトリバイブを使ってもらった。
「あ、やっぱHP全回復みたいだね。さすがにMPはそのままかぁ」
「うう~~~・・・!」
実験台に使われたからか、高松さんが恨めしそうに睨んできて、すぐにそっぽを向いてシャワールームに向かった。花巻さんはお茶の準備を始め、せっかくなのでそのお茶をいただいてから、ベッドに座った。航路は残り20分程度、寝るには微妙だ。
「大村君、さっきはごめんね。余計なMP使うなって言われたのに、あの人に使っちゃって」
やっぱり気にしてたか。しかもあれは、結果として本当に無駄使いになってしまったからな。
「別に。過ぎたことは仕方ないし、僕はあくまで頼んだだけだから、最終的には花巻さんが判断すればいいよ」
「でも、さっきのはダメだったから、気を付けるね」
下手なフォローはやめとくか。
「そうだね。1つ判断を誤るだけで勝敗が分かれるようなこともあるからね」
「そう、だよね・・・。うん」
花巻さんは何かに納得したように大きく首を縦に振った。説明したことが分かってもらえるのは、こんなにも素晴らしい。
その後は、特に会話もなく、俺は横になり、花巻さんは読書を始めて高松さんの戻りを待った。
ガチャリ、と音がして高松さんが出て来た。
「はぁ~サッパリした。後は大村君を海に沈めれば心もスッキリするわね」
まだ言ってるし・・・。しかも、“海に落とせば”じゃなくて“海に沈めれば”ってところに悪意を感じる。
「でも大村君も大丈夫? 今日これからスノーウィーンまで行って明日も朝から仕事でしょ? 休んだら?」
俺は窓の方に目をやった。
「もう着いちゃうよ」
【お客様にお知らせ致します。間もなく、サウスポートに到着致します。お降りのお客様は、お忘れ物をなさいませんようご注意ください。イスタンドールまでお越しお客様は、ご乗船のままお待ちください。30分後に出発する予定です】
「ほら、もう着いた」
「1分でもいいから横になりなさい」
「おわっ」
肩をつかまれたと思ったら、すぐさまなぎ倒されて仰向けに倒れた。ベッドだから痛くも何ともないけど。
「ほら、押せば倒れるほどに疲れるじゃん」
「いや今の不意打ちは疲れてなくても倒れるでしょ」
「“疲れてなくても”ってことは、疲れてるのね」
「疲れが溜まるんだよ」
「ふ~ん?」
「何でもないです・・・」
「はぁ、もう・・・降りるわよ。1等席だとちょっと早めに降りれるみたいだから」
「そうだね」
俺はゴロッと転がってベッドの端まで行き、足を床に下ろして立ち上がった。
「行きましょ」
さて、久しぶりのナチュレ王国だ。
次回:ナチュレ王国の玄関、港町サウスポート




