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救国の王子〜可憐で最強な聖女と引きこもり竜の求婚物語〜  作者: 冬野 狸


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3/8

3 可憐で最強の聖女

ようやく登場

楽しんでもらえたら嬉しいです

 ダリウスが足掻こうが落ち込もうが時は流れる。事態もどんどん進行して、やがて半月ほどが経過した。

 王都にもバネッサの霊水が届けられ、人々は神と聖女バネッサに感謝の祈りを捧げながらそれを服用した。


 ダリウスももちろん飲んだのだが、口にする前にそれを観察することを忘れなかった。当然ながら毒など入っていないことは確認してあるので、毒殺を警戒しての行為ではない。単なる好奇心だ。


 霊水は、霊水と呼ばれるに相応しいものだった。

 この世の万物には神の使徒である精霊の力が宿っている。水にも植物にも、それを食べた生き物にも精霊の力が宿っている。

 それらを飲食することによって、すべての生き物は活力を得ているのだ。


 活力の源。精霊の力。それが霊水には多分に含まれていた。力が光の粒になって、くるくると踊って見えるほど。楽しげなその動きは見ているだけで心が浮き立つようだった。


(なるほど。これは効きそうだ)


 キラキラと煌めくほんのり甘い水を飲み干すと、ダリウスはその途端に気怠さが身の内から消え失せるのを感じた。


 効果は覿面だった。

 そう感じたのはダリウスだけではなかった。両親も兄も。カイル王国に住まう霊水を口にした者すべてがその効果を体感した。


 国中に歓喜が満ちた。

 無気力に緩やかに滅びへと向かっていた人々は、息を吹き返したように笑い、皆で喜びを分かち合ったのだった。


 人々はすぐに平穏な日常を取り戻した。

 街中を子供たちが駆け回り、軽快な足取りで人々が行き交う。

 パン屋は朝早くからパン種を捏ね始め、鍛冶屋からは鎚の音が高く響く。

 八百屋の呼び込みの声に肉屋の旦那の包丁捌き。

 街道を行く荷馬車の御者は明るいメロディーの口笛を吹いている。


 一見すると以前となんら変わらない光景。だけど人々の心には深い感謝があった。 

 当たり前の日常が当たり前ではないことを、皆が思い知ったのだから。


 




 霊山の麓から王都へ聖女バネッサを招請したのは、国中の病が鎮静化して一月(ひとつき)が経たない頃。巷間に噂が行き渡り、人々の活力も充分に戻ったあとのことだった。

 長旅になるバネッサのために乗り心地の良い最高級の馬車を迎えにやって、道中も不便のないように諸々の配慮をして、王都ではパレードの準備が進められた。


 一方、王城では早い段階から王妃主導のもとに聖女バネッサを迎え入れる支度が整えられていた。バネッサがダリウスの婚約者として王城に住むための準備は、もはや万端だった。


 二人の婚約には、ダリウスの意見が含まれることはなく、本人の意思の入る余地もない。バネッサの名はダリウスの婚約者と同義になっていた。

 広まった噂はバネッサの外堀を埋めるだけではなく、同時に自分にも効果のあるものだったのだと彼が気付いたときには、彼も既に身動きが取れなくなっていた。

 引き返すことはできない。

 そうなってしまっては、ダリウスもいつまでもうだうだ言っている場合ではないと悟った。彼は腹を括った。バネッサの幸せは自分にかかっているのだ。


(彼女がどんな人柄であっても、必ず愛して愛して、愛し抜こう。人生の最期に目を閉じる瞬間まで、彼女が幸せであるように尽力しよう)


 ダリウスは決意を固めバネッサを迎え入れる心の準備を整えた。


 彼女がどんな人であっても。


 だけど、王城に到着した聖女バネッサは予想外すぎる人物だった。






 謁見の間に入ってきた聖女バネッサを目にしたダリウスは、最初、それがバネッサだとは思わなかった。彼女の護衛かな? と思ったのだ。

 いや、頭ではわかっていた。

 個人の護衛は扉の前で止められるはずだ。謁見の間に立ち入ることなどあり得ないのだから、入って来たのはバネッサ本人。

 そう、あれが聖女バネッサだ。


(嘘だろ? 聞いていた容姿と全然違うじゃないか!)


 ダリウスが聞き及んでいた聖女バネッサは、亜麻色の髪と緑の瞳の持ち主。ここからでは瞳の色までは確認できないが、髪色は同じ亜麻色だ。

 だけど、体型が。

 バネッサは小柄で華奢な体型だと聞いていた。背の高いダリウスは、それならば屈んで話をするようにしようと考えていたのだが。


 彼女は非常に背の高い人だった。おそらくダリウスよりも頭ひとつ分は高い。

 横幅もあった。贅肉ではない。筋肉による厚みだ。

 白いローブに包まれた巌のように盛り上がった肩は、それに続く隆々とした立派な腕を連想させた。

 神官服ではなく聖女のローブを纏っているのだから、女性で間違いないことは判断できる。だけどとにかく身体の厚みがすごかった。聖女の身に付けるローブはゆったりとしたデザインであるはずなのに、どこもかしこもパツパツで、彼女が筋骨隆々であることを知らしめている。

 女性に対して形容するには甚だ失礼な言葉であるが、はっきり言えば、非常に漢らしい姿だ。

 

 ダリウスは目を見開いたまま動けずにいた。立ち並んでバネッサを迎えた周囲の人々も、おそらくそんな感じだろう。息を呑んで彼女を凝視している。母の微笑みが引きつっているのを、ダリウスは生まれて初めて目にした。微かに「ドレスを全部作り直さないといけないわね」と聞こえたのは、きっと幻聴ではないだろう。


 バネッサは、そう、容貌魁偉と形容するに相応しい人物だった。


(この御仁……いや、彼女ならば、霊山の岩肌を容易く登るかもしれない)


 聖女は扉から玉座まで続く緋色の毛氈の上を楚々とした足取りで歩んでくる。大きな身体のわりに重さを感じさせない歩調を見て、ダリウスは納得した。

 ずっと疑問に思っていたのだ。聖女バネッサはいったいどうやって霊山を攻略したのだろうか、と。なるほど彼女ならばできる。あの騎士団長よりも立派な体躯で、しかもそれを自在に操ることができるのだから。


(しかし、本当にこれが聖女バネッサなのか? 何かの手違いで、実は別人でした、ってことは……)


 玉座の前まで進んだ彼女は、しなやかな身のこなしで跪いた。


「お招きにより参上いたしました聖女バネッサと申します。お目にかかれて光栄です」


 バネッサと名乗った。本当に本人だった。

 さすがに国王の御前で嘘はつかないだろう。

 岩をも噛み砕きそうな顎が動き、大きな口が言葉を紡ぐ。容貌からは想像もつかないような可憐な声だった。春にさえずる小鳥もかくやといった華やかさがある。

 ……目を閉じて聞けば、である。彼女の口からその声が出ているのを目にすると、頭が混乱する。ダリウスは立ち眩みに似た目眩を覚えて片手で額を押さえた。


「……聖女バネッサ、よ。楽にするがよい。こたびの働き、大義であった。我もたいへん嬉しく思う。………そなたの功績に対し、最高の謝礼と地位を用意した。受け取るがよい」


 父はおそらく事前に用意していた台詞が飛んだのだろう。要点だけしか言えていなかった。

 楽にしろとの声にバネッサは顔を上げた。その瞳は緑だった。


(亜麻色の髪と緑の瞳。だけどこの女性は本当に聖女なのだろうか……?)


 意外と感じるのは(はなは)だ失礼なのだけど、彼女の目鼻立ちは整っていた。ただ、可憐さとは相当な距離にある精悍さが前面に押し出されている。


 前評判とのあまりの差異にダリウスは困惑した。真偽を確かめたくて往生際悪く周囲に目を走らせ、神官長の姿を探す。いなかった。いつの間にか席を外していた。さっきまで大臣たちと同じくそこらにいたはずなのに。

 背後の壁際に控えていた従者に訊ねれば、何やら神殿にて問題が発生したとのことで急ぎ戻ったようだとの答えが返ってきた。

 なにもこんな時に席を外さなくても……と勝手な思いを(いだ)いて歯噛みしたダリウスである。


「……しかし、よくぞ霊山へと向かってくれた。良ければ此度(こたび)の事の顛末をここで話してはくれまいか。私は『聖女バネッサが霊山に登り、竜と出会い、病の根源を断って霊水を手に入れた』としか報告を受けていないのだ。神官長もその程度しか知らぬと言うし、本人から詳細を聞きたいと思っていたのだ」


 父は予定になかったことを言い出した。おそらく本人確認の意味合いが強いだろう。彼女が詳細に語れれば本人だと判断できると父は考えているに違いない。神殿側が王に詳細を秘匿しているというのは考えにくいのだ。平静を保っているように見える父だが、ダリウスと同じく本物のバネッサなのかと疑念を抱いているのだろう。


 国王の要請にバネッサは困惑したように眉を顰めた。ぱちぱちと数度まばたきをしてゆっくりと口を開く。


「それは、かまわ……構いませんが……」

「詳細を語るに何か問題でもあるのか?」


 父の目が鋭さを帯びた。真贋を見極めるように細められた国主の目を見返して、バネッサは苦笑をした。


「お、恐れながら? 私は平民生まれの平民育ち、田舎暮らしの、えっと、不調法者でございます。ので、お話をする間に……は、甚だ? 無礼な言い方になってしまうと、思いますので……」


 彼女のいかにも物慣れない言葉遣いに、父は破顔した。鋭い施政者の表情から途端に親しみやすい中年男性の顔になる。謁見の間で彼がこんな顔をする機会はめったにない。


「ああ、そんなことか! いい、いい。気にしなくて構わんよ。救国の英雄となった者に些細なことで無礼など問うては国民に叱られてしまうからな。普段どおりに話してくれて構わない。あ、そうだな。その態勢のままでは辛いだろう。楽にしてくれ」


 なんなら椅子でも持ってこようか? と気遣う王に(かぶり)を振って、バネッサはホッとしたように笑顔を見せた。白い歯が眩しい。


「いえ、大丈夫です。お言葉に甘えて、えっと、足だけ崩させてもらいますね。椅子だと緊張しそうですし」


 そう言うとさっそく彼女はその場で腰を下ろして横座りになった。

 彼女の纏うローブの丈はだいぶ短く、膝の少し下くらいまでしかなかったので、彼女の足がずいぶんと晒されてしまっている。しかしそこに(なまめ)かしさはほとんどなく、彼女自身もたいして気にしていない様子だった。

 小さく縮こまっていた身体が大きく開かれる。ほうっと太い息を吐いて、バネッサは鷹のように鋭い目元を和ませた。


「そんじゃあ……じゃなくて、では、遠慮なくお話させてもらいますね。いや、助かりました。黒北の神官さんに偉い人にする挨拶の言葉だけ教えてもらって、色々やらかしそうだから後はなるべく喋るなって言われてたもんですから。だから緊張しちゃって、神官長様ともろくにお話できなかったんですよね。……えっと、そうですね。私が霊山に登ろうと思ったのは、王子様が病気の原因が霊山だと調べたって聞いたからなんですけど……」

「ああ。我が息子ダリウスが各地を巡って調べ上げてくれたのだ」


 父が少し離れて立つダリウスの方に視線をやったので、バネッサも彼を見た。彼女と初めて目を合わせたダリウスは軽く微笑んでみせた。バネッサは慌てたようにさっと視線をそらせる。


(照れているのかな? バネッサ殿の耳にも噂の件は届いているだろう。色々と予想外だけど……伴侶になるんだから、第一印象が悪くないといいな)


 ダリウスの『聖女バネッサを幸せにする』との誓いは依然として健在だった。バネッサの登場に一瞬だけ……いや、だいぶ動揺はしたけれど、彼の決意は固いのだ。


 そんなダリウスの思惑をよそに、バネッサは彼に対して言及することなく話を続けた。


 もともと森には慣れていたのでその辺は問題なく越えて、最初の崖を登ったらまた崖があったからまた登って、と話の中の彼女は軽快に進んでいく。

 そんなに簡単に登れるのか? と疑問に思ったダリウスと同じ様に感じたのだろう。父が「待て待て待て、どうやって岩盤を登ったのだ?」と口を挟んだ。


「えっ? どうやってって、簡単なことですよ? 手と足の先で岩に窪みを作りながら登るんです。取っ掛かりがあれば登れますから」


 目を見開いて小首を傾げた彼女は、さも当然のように言い切った。


 取っ掛かりがなければ作ればいいのよ?

 手と爪先で、岩を穿ったというのか。崖を登りながら? なんだその力は。いや見た目どおりか。

 一同が……特に騎士団関係者たちが瞠目しているのを気にせずに、彼女は先を続ける。


「それで、岩がゴロゴロしている場所に出たら大きな大きな湖があって、ほとりに一匹の竜がいたんです。ぐったりして死んでるみたいな黒い鱗の竜でした。あ、生きてましたけどね。で、角があって、口が大きくて、尻尾がとても長くて。うん。背中に羽もありますね。小さくてそこだけ可愛いんです。あと、目もキレイで可愛いですね。金色と虹色が混ざったような色で、宝石みたいにキレイなんです」


 伝説の中でしか語られなかった竜である。黒龍だったのか、と父が呟いた。それを受けてバネッサは少し得意げに頬を緩めた。


「そう思ったんですよ、私も。黒い竜なんて格好いいなぁって。でも実際は青い竜だったんですよ」

「ほう? 青なのか? ではなぜ黒く見えているのだ?」

「瘴気です。滅多にないくらい濃い瘴気が身体に纏わりついてたから、遠目だと黒かったんですよね」


 瘴気。いずこからか発生した悪い空気が、淀んで凝り固まったものだという。

 人の目には黒い(もや)のように見えるそれは、精霊の命を脅かす。生き物の生育を妨げ歪め、病をもたらすものでもある。あまりに濃い瘴気からは魔物が生まれるのだともいう。

 バネッサの地元である黒北(こくほく)の森にはいくつかの瘴気溜まりがあって、彼女はそれらを定期的に浄化して回っているのだと聞いていた。


 瘴気を見慣れたそのバネッサが、滅多にないと形容するのだ。それは凄まじいものだったに違いない。


「では、その瘴気が原因であの気鬱の病が?」

「まあ、そう、なのかな? いや、違うかも。原因は、だって竜だったんですよね。あ、竜が悪いわけじゃないんです。なんかね、竜は人嫌いらしいんです。でも悪い竜じゃないんですよ。大昔は人の役に立ちたいと思って協力していたらしいんですけど、なんかそのうち人の要求することが大きくなっちゃって、嫌になっちゃったんですって。まあ当然ですよね。いくら友達でも『最近なんか図々しいなぁ』ってなったら付き合いやめちゃいますもんね。だから人が来ない場所に移動して、悠々と暮らしてたらしいんですよ」


 竜が霊山に住まうようになったのは、それこそ大昔の話だ。その竜が語る大昔とは、どれほどの時の流れを遡った時代なのだろうか。悠久とも呼べる時の流れがそこにある。


 ダリウスはもうバネッサの真贋など気にしていなかった。彼女の話は見て来た者の言葉だ。本物かどうかなど疑う余地もない。


 ダリウスは抗いようもなく彼女の語る霊山での出来事に惹き込まれていく。同様に感じているのだろう。多くの人々が立ち並ぶ謁見の間には、(しわぶ)く者ひとりいなかった。皆が彼女の話に聞き入っている。


「だけど元々は人が好きだった竜でしょ? 長年独りで暮らすうちに、だんだんつまらなくなって、でも人と付き合うのは嫌だなぁ、でも淋しいなぁ、退屈だなぁ、って鬱屈? しているうちに無気力になっちゃったんですって。空を飛ぶのも面倒、動くのも面倒、食べるのも面倒。このまま死ねないかなぁと思っても、竜は精霊に愛されてる生き物だから、勝手に生命を繋いでくれて死ぬこともできない。だからさらに落ち込んで、とうとう瘴気を発するようになったらしいんです」


 まったくしょうもないヤツですよ、とバネッサは笑った。子犬が遊び回るような軽やかな笑い声だった。

 目付き鋭く精悍な顔には一見畏怖を覚えるかもしれないけど、笑った顔は愛嬌がある、ような気がする。ダリウスは話し続けるバネッサを観察して、少しずつ彼女の魅力を探していた。まあ、バネッサにしてみれば失礼な話だが。


「では、竜が瘴気を発して、その瘴気が……?」

「はい、そうなんです王様。竜の出した瘴気が湖の水を汚して、そのせいで国中が変な病気になっちゃったんですよ。あの湖の水は大陸中の川の源ですし、地下水脈にも注いでいますからね。井戸水もほぼ湖の水なんですよ。だから川から離れた場所に住んでる人も瘴気と無関係じゃいられなかったし、あの水で育った家畜も野菜もみんな瘴気で汚れてしまったんですね」

「なるほどな。それを口にする我らも瘴気を身に取り込んでいた、というわけか。……ではそなたは竜を退治したわけではなく、瘴気を浄化したのだな?」

「うーん……どうだろう? 最初は私も竜の瘴気を払ったんですよ。その時に元の鱗の色が見えて、青い竜だってわかったんですけどそれは置いといて。ヤツ自身が瘴気を出してるから、そんなことしても意味なかったんですよね。ヤツ……あ、竜をなんとかしなきゃって」

「ほう……ではやはり、竜を……?」


「はい! 一発ぶん殴ってやりました!」


 ひときわ良い笑顔でバネッサがそう言い放った。

 静まり返った謁見の間に、誰かが呟いた「竜殺し…」という声がぽつりと落ちる。

 竜殺し(ドラゴンスレイヤー)

 伝説をもって語られるその称号は、武人にとって華々しき誉れである。

 だけど待ってくれ、とダリウスは背中に冷たい汗が滑り落ちるのを感じた。


(ちょっと待ってくれ! 私の花嫁は竜殺しなのか? これ、絶対に怒らせてはいけないヤツじゃないか?!)


 間違っても夫婦喧嘩などでしてはいけない。拳一つで()られる。ダリウスがひっそりと絶望に似た感情に震えている目の前で、その武人の誉れの竜殺しがふるふると首を振った。


「いいえ、違うんですって。退治なんてしてませんよ。一発ぶん殴った後に私、言ってやったんです。『そんなふうに動かないでグダグダしてるから後ろ向きな考えになっちゃうんだよ!』って。で、避けてみろって拳を叩き込んで、始めは私の拳を受けるまんまだったんですけどね、だんだん防ぐようになって、避けるようになって、そのうち反撃してくるようになったんです。で、あっちも本気になったから私も本気出して……組手になりました。時々ズルをして口から火を吹いたりするから飽きなかったですしね。こっちも反射壁? の魔法の練習になりましたし。お互いにいい運動になりましたよ」


 彼女は岩盤に穴をうがつ膂力と脚力の持ち主である。その力で容赦なく殴る蹴るされた竜は、相当痛かったのではないだろうか。

 反撃せざるを得なかった竜に、ダリウスは謝りたい気持ちになった。聖女がすみません、人間がすみません。


 ともあれ、方法の是非はともかく彼女は彼女なりのやり方で、気力を失った竜にやる気を出させたらしい。

 相当に、かなり乱暴で強引な彼女の行動に、聴衆は息を呑んでいた。心に去来する感想はそれぞれだったが、大まかにまとめるとだいたい同じ。皆の心の声は一つだった。


『この聖女、王子妃にして大丈夫なのか?』


 癒しの術も使える聖女である以上は、すべてを拳で解決するなんてことはあり得ないのだけど、それがありそうな気がしてしまうのだから恐ろしい。

 ダリウスは顔色を青くして額の汗を拭った。思った以上に水気が多かった。







 

読んでいただきありがとうございます!

続きも読んで貰えたら嬉しいです!

明日の朝、投稿予定です

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